
中編
マサコの中の悪魔
まー 3日前
chat_bubble 1
11,134 views
主人は、マサコの肉体に溺れていた。
マサコはこの屋敷に仕える女中だ。
時代は終戦から数年後のことで、世の中はまだ戦争の傷跡を残したままであった。
主人の妻であるケイコは、今日は婦人会の会合で外出している。
主人とマサコが事を終えた直後、妻のケイコが会合から帰宅した。
マサコは慌てて着物を着て、帯を締めると何事もなかったかのようにケイコを迎えた。
『奥様お帰りなさいませ…。お夜食の準備をいたします』
『ただいま。子どもたちはどこ?夜食の前にお紅茶よ』
『はい…。お子様たちと旦那様はもうお休みになられました。お紅茶をすぐにお持ちいたします。』
マサコは、主人との関係をケイコに悟られないように声のトーンを抑えて答えた。
マサコは台所へ行きケイコのために紅茶を用意している。
紅茶を注ぎながらマサコの中の何かが目覚めた。
『あの女さえいなければ…』
人一倍大人しかったマサコがそんな言葉を口にしていた。
『お紅茶でございます。』
マサコはケイコに紅茶を出した。
ケイコは銀食器のカップで紅茶を飲みながら左の薬指に輝くルビーの指輪を見つめてため息をついた。
『あぁ、素敵』
右手で紅茶をすするその銀食器は夫が戦前、パリに行ったときに買ってきてくれたものだ。
ルビーの指輪は、夫がベルリンを訪問した際にある老舗の宝石店で目に止まり、買ってきてくれたものだ。
ケイコはこのルビーの指輪をことのほか大切にしていた。
来客がある度にこの指輪をはめて見せびらかすのだ。すると必ず来客は素敵な指輪だと褒めちぎる。
これ以上の快感はない。
『この幸せを渡すものか…。サチ!』
ケイコは女中のサチを呼んだ。
『奥様お呼びでしょうか。』
『最近、マサコの様子が変なの。探っておくれ。』
ケイコはサチにそう言うと、札束をチラつかせて付け加えた。
『いい情報が得られたら、あんたにはこの札束と女中頭の地位を与えるわ』
サチは二つ返事で引き受けた。
ケイコは、自室に戻ると鏡を見つめながらつぶやいた。
『私はまだ若い。あの女さえいなければ…』
ケイコは、年はすでに三十路の坂を超えており、若くはない。
年のせいか、毎日のアルコールと煙草の影響か、顔には深いシワが刻まれていた。
い
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(1件)
- ひねりが無いんだよねー。太郎