
五月晴れの爽やかな気候とは裏腹に、あの学校の校舎の中は、常に薄暗い悪意に満ちていた。
最高学年になってしばらく経った、5月下旬の放課後のことだ。
部活の練習に向かうため、私は一人で生徒玄関(昇降口)を通りかかった。
何気なく壁に目をやると、そこには新学期からずっと貼られている、大きな「今月の行事予定表」が掲示されていた。
何気なくその予定表を見つめた瞬間、私の全身に不気味な悪寒が走った。
白い紙のはずの予定表が、中央からじわじわと「人間の皮膚」のような、生々しく血の通っていない質感に変色し始めたのだ。
さらに、印刷されていた行事の文字がぐにゃりと歪み、私の本名と共に、リアルタイムで信じられない文字列へと書き換わっていく。
『5月〇日:〇〇(私の本名) 心停止』
『5月〇日:〇〇(私の本名) 呼吸不全』
文字が書き換わった、まさにその瞬間だった。
私の胸に、まるで焼けた鉄串を突き刺されたかのような強烈な激痛が走った。
実際にドクンと心臓が止まりかけ、肺から酸素が完全に消え失せて息ができなくなる。
激痛と窒息感のあまり、私はその場にガクガクと膝をついて崩れ落ちた。
これまであの学校の土地でいくつかの地獄を潜り抜けてきた経験から、脳裏に最悪のルールが弾け飛んだ。
胸の激痛に負けてその場にうつ伏せに倒れ込んだり、苦しさのあまり目を閉じて意識を手放しては絶対にダメだ。
もし完全に意識を失えば、予定表に書かれた通りの「死」が現実のものとして確定し、私の肉体はそのまま機能停止する。
この絶望的な予定を上書きし、生き延びるための唯一の脱出ルール。
それは、【必死に手を伸ばし、カバンに入っている『陸上部の部誌』の角を使い、その皮膚のように変色した予定表の『自分の名前の部分』を、紙(皮膚)がボロボロに破れて削れるほどの力でガリガリと引っ掻いて削り落とす】ことだけだった。
文字として確定されかけた自分の死の運命を、これまで走り込んできた証である部誌を使って、物理的に世界から抹消するしかなかった。
「が、は……っ!!」
視界がチカチカと閉ざされかけ、指先の感覚がなくなっていく中、私は死に物狂いでカバンから陸上部の部誌を引っ張り出した。
指定された部分へ、その硬い冊子の角を壁の皮膚の予定表へと押し当て、自分の名前が書かれた部分を、全体重をかけて狂ったようにガリガリと引っ掻いた!
嫌な肉の擦れるような音とともに、予定表の皮膚が破れ、私の名前の文字がボロボロと削り落とされていく。
後日談:
- 気づいた時、生徒玄関にはいつもの生温かい夕風が吹き抜けており、壁にはごく普通の紙の「行事予定表」が貼られているだけだった。 ただ、私の名前が書かれていたはずの枠の周辺だけが、まるで爪で強く引っ掻いたように、不自然に白く破れ落ちていた。 【学校の事務的な書類を媒介にし、生徒の命そのものを『予定』として強制的に確定させて執行しようとする、理不尽極まりない凶悪な呪い】だった。 だけど、あれは絶対にただの持病のパニックや錯覚なんかじゃない。 なぜなら、あの怪談があってから大学1年になった今でも、私は【新しいスケジュール帳の予定を書き込んだり、駅や役所の掲示板に貼られた予定表の文字を見るだけで、あの胸の激痛と窒息感がフラッシュバックし、全身の血の気が引いて動けなくなる】んだ。 特に5月になると、あの日必死に部誌を握りしめて壁を削った両手の指先がミシミシと痛み出し、冷や汗が止まらなくなる。 あの学校の土地は、私が最高学年としてどれだけ警戒していようとも、学校の日常そのものを変貌させて、私の命を奪うための最悪な怪談を仕掛けた。 次は6月だ
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