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温室の水音
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温室の水音

6時間前
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中学二年の冬、私は帰り道に市営温室へ寄るのが習慣だった。

暖房のきいた建物で、池の魚を眺めてから帰る。入場料はいらないし、受付の人も何も言わない。花には興味がなかった。

ある日、手袋を片方なくしたことに気づいて、閉館の放送が流れたあとも池のそばを探していた。

「もう閉めるよ」

声をかけてきたのは、剪定ばさみを持った職員の女性だった。白い作業着の袖に土がついている。

「すみません、手袋が」

「明日でもいいでしょう。ほら、出口まで行きなさい」

彼女は私の後ろを歩いてきた。大きなばさみが、歩くたびに軽く鳴る。

気まずくなって、私は池の魚の話をした。返事はなかった。

池の向こう側にある石のベンチの下で、赤い毛糸が水面に垂れているのが見えた。誰かが落としたマフラーだと思った。

女性は立ち止まり、ばさみを構えた。

「そこ、近づかないで」

チョキン、と乾いた音がした。

毛糸は水面から消えた。ベンチの下にも、池の中にも何もない。

「今、何を切ったんですか」

「伸びすぎたもの」

彼女はそう言って、私を出口へ急かした。

翌日、手袋を見つけた私は、閉館前に温室へ行った。池のそばのベンチに、赤い毛糸のマフラーが置いてあったからだ。昨日のものと同じだと思った。

池を覗くと、水の中に子供が立っていた。

顔はよく見えない。濡れた髪が額に貼りつき、首には赤い毛糸が巻きついている。水は膝ほどの深さしかないのに、その子は苦しそうに手を伸ばしていた。

「助けて」

私は声を出せなかった。

背後で、ばさみが鳴った。

女性職員は池の縁にしゃがみ、赤い毛糸を一度だけ切った。子供は水面に沈まず、霧のようにほどけて消えた。

「毎日、同じ時刻に来るの」

彼女は何事もなかったように、池の縁を拭き始めた。

その日の帰り、出口で「明日も来るの?」と聞かれ、私は反射的に「はい」と答えた。

次の日から、温室には行かなかった。

それでも、しばらくは毎日、帰宅すると母が玄関で聞いた。

「今日も温室に寄ったの?」

母は私が通っていたことを知らない。聞かれるたび、私は「寄ってない」と答えた。

最後の日、母は少し困った顔で言った。

「じゃあ、どうして毎日、靴が濡れてるの?」

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はじめまして、よろしくお願いします。

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