職場が山奥にある牧場なんだけど、去年の10月の終わり頃、仕事帰りに変なものを見た。 山奥だから、当然野生動物が多い。 冬に近づくにつれ、猪や鹿など、牧場にある餌を食べに来るから目撃する頻度が増える。 帰り道、運転していたら対向車線の真ん中でもごもごと動く毛の塊のようなものが見えた。 狸か狐かな？と思い、轢いたらいけないのでスピードを緩めて横を通りすぎた。 すれ違いざまチラッと見ると、芋虫が悶えるような動きで毛の塊が二つあった。 動物の赤ちゃんが車に轢かれてしまったのかと思って、せめて道路脇に寄せておくかと車を脇道に停めてそれに近づいた。 夕方の山道だしかなり暗かったから、スマホのライトで照らしつつ近づくと、それはほんとに毛の塊で、頭とか顔とかが見当たらなかった。 なんというか、例えるなら狸の尻尾をぼわぼわにしたような、サイズ的にもそんな感じの塊。 なんじゃこりゃと思ったけど、取りあえず轢かれた形跡もないし生きてるっぽかったから、足でゆっくり脇道に寄せた。 寄せてる最中、それはもっと激しくもごもご動いてた。 狸っぽい毛色だったし、奇形の子供か何かかなと思って、寄せた後は普通に帰宅した。 翌日、職場でその話をしたら、大先輩のおっちゃんにそういやお前にサンペの話すんの忘れてたわと言われた。 曰く、昨日見た毛の塊は『サンペ』というもので、関わると不吉なことが起きるといういわゆる妖怪的な存在らしい。 見ても知らんぷりしな、と言われたけどもう遅いわ。 助けたつもりだったのに、これで嫌なこと起きたらマジで納得できないと言うと、おっちゃんは「佐藤さん(仮名)いるだろ？左手の薬指と小指無いの知ってるよな？あれ子供の頃、親に内緒でサンペを家に持ち帰って火つけたり転がしたりして遊んだらしい。翌朝激痛で起きると、薬指と小指が根元から綺麗に無くなってたんだと。布団は血まみれ、枕元に置いておいたサンペは消えてて、指もどこにも無かったらしい。親に死ぬほど怒られたって笑ってたよ」と言った。 佐藤さんやべぇ。 ちなみに佐藤さんはいぼ痔だしハゲてる。 50代なのに総入れ歯だし色々残念だ。 でも佐藤さんみたいにサンペを虐待してないしむしろ助けてる。 これで不幸になったらたまったもんじゃない。 サンペを見てから一年くらい経ったけど、今のところ不幸な事は起きてない、と思う。 けど、毎日頭皮の心配をするようになったのはちょっと不幸なのかも