
長編
K動物病院と連続殺人事件の迫間
匿名 2024年10月18日
chat_bubble 0
122,014 views
これは去年失踪した友人Sの話。心霊スポット巡りが趣味のSはある日
「凄い心霊スポットが〇県にある。」と、連絡してきた。
「凄いって、何が?」と訊くと
「そこに夜、行ったら、ほぼ確実に心霊現象が体験できて、その映像をいろんなユーチューバーが公開しゆうぞ(しているぞ)。」と興奮気味に言う。
Sが言うにはそこは「K動物病院」という廃病院で、関東在住の者がその物件を借りて、心霊現象を体験したい者たちに有料で一夜、貸しているという。
そこでは平成時代後期、廃屋になってから殺人事件が起こったが、加害者も自殺しており、且つ、心霊体験物件として貸し出す際、最初に、管理人の依頼で試しに宿泊した者も自殺したという、いわくつき物件。
その事件は「SM殺人事件」と呼ばれているもので、あるSMサークルが、病院が廃墟になってから、病院や隣接している院長宅に不法侵入し、勝手に使用していた。
そのプレイの中で、コンクリート造りの頑丈な大型犬用の檻に、M男を内壁の鉄製リングに鎖で繋ぎ、1~2週間、閉じ込める、というものがあったのだが、食事も檻内でドッグフードだけだったらしい。
その男はこういう過酷なプレイが初めてだったため、精神に異常を来し、檻での収容期間が終了し、S嬢が鎖を外しに檻内に入ってきたところ、殴り倒し、逆にS嬢を閉じ込めてしまった。
そして他の部屋から刃物を取って来て、S嬢を滅多刺しにして殺した。その後、M男は帰宅すると自殺したから、この事件は被疑者死亡のまま書類送検されているらしい。
その滅多刺しにされて殺された際の血飛沫や血溜りが夥しい血痕となり、今でもその檻の床等に残っているのである。
そこがこのK動物病院の人気の一つだが、これを聞きつけた関東在住のK氏がこの物件を借り受け、毎日、夜から翌朝まで、貸し出すサービスを開始することにした。
K氏は同様のサービスを行う物件を関東にも借りているのだが、サービスを開始する前に必ず、試しに特定の依頼した者に物件に泊まって貰っている。それは貸出サービスを行っても問題がないのかどうかを確認するため。
K動物病院でも30代の女性に、試しに宿泊して貰ったのだが、その翌日、この女性も帰宅後、自殺してしまう。それは薬(睡眠薬か)の過剰摂取によるもの。
そこでK氏は警察立ち合いの元、病院内と院長宅に設置している監視カメラを確認したところ、女性は院長宅の二階に荷物を置くと、一階の仏間に直行し、仏壇の前で30分ほど、何もすることなく、立っていた。
それが終わると病院内の手術室へと行き、手術台の前で同様に30分ほど立っていた。それが終わるとまた仏間へ、と、いう具合にこの行為を朝まで繰り返していた。そして帰宅するとすぐ自殺した。
元々この女性には可笑しな言動があった。何ヶ月も前からK氏宛にメールや電話で、次に「試し泊」を依頼する際は是非自分に、と、100回以上、要望していたのである。
だからK動物病院に泊まりたい、という訳ではなく、どこの事故物件でもよかったのである。
これは見方によれば、S嬢やM男の霊がその試し泊まり客を招いていた、とも受け取れる。
そんな警察沙汰があったにも拘わらず、K氏はK動物病院の貸し出し(宿泊)サービスを開始する。K氏の思惑通り、この病院は人気となり、何ヶ月も先まで予約が埋まることになった。
そんなK動物病院だが、K氏が宿泊者に場所の公開や建物の外観の撮影を禁止しているため、四国ということ以外、所在地が分からなかった。
が、ある日、友人のSから
「K動物病院のことをGoogleで検索したら、AIの回答で〇県M市Y町のF動物病院と出たぞ。」と言ってきた。
私はM市に合併する前のY町の’90年代の住宅地図を持っていたから、動物病院がありそうな国道沿いを虱潰しに確認してあげたのだが、そのような病院はなかった。ましてY町はM市の中でも田舎の方。
動物病院のような施設があるとしたら同M市のI町だろうと思い、検索すると「F獣医科病院」がヒットした。この病院はネット電話帳のような複数のサイトに記載されており、一見、診療が現在も行われている病院のように思われた。が、Googleマップでは「閉業」となっている。
このことをSに伝えると
「分かった、もっと詳しゅう(詳しく)、ネット動画を見てみる。」とのこと。
それから何時間か経った後、Sから連絡があり、
「おまえの言う通り、K動物病院はF獣医科病院のことやった(ことだった)。何人もアップしちゅう(している)病院のYouTubeのコメント欄を見よったら(見ていたら)、『ここはF○○科病院だろ』というのがあったき(あったから)。」と言う。
Sは来週末、宿泊ではなく、K動物病院の周囲を見てくる、と、言っていたのだが、その5日後位、また連絡があり、妙なことを言っていた。
「あれから毎日変な夢を見る。」と。
どこかの線路、恐らくJRの線路沿いを自分が必死に走っている夢らしいが、まるで何かに追われているかのようで、その間、ずっと汽車の警笛が鳴り響いている、と。
その時、私はただの夢だろうと思っていたのだが、まさかSにあんな災難がふりかかることになろうとは。
また、SはK動物病院に行った後、同じI町内の、昭和期に発生した某連続強盗殺人事件の二ヵ所の現場に行くとも言っていた。K動物病院に近い方は殺人現場で、もう一ヶ所は強盗現場。
後者は私も行ったことがあるが、今でも一日に数える位しか本数のない列車以外では、徒歩でしか行けない寂しい所。その時はそこが強盗現場とは知らなかったが、半世紀以上経った今でもその現場は廃屋として姿を留めている。実はこの付近でもSが訪ねる前、忌まわしいことが起こっていた。
K動物病院については、私なりに調べてみたが、病院が稼働している頃にも殺人事件があったようである。が、その事件は不可解な点があり、監視カメラに犯人の姿は映っておらず、手掛かりも一切なく、犯人は捕まっていないらしい。被害者は病院のスタッフで、温厚な性格だから人から恨みを買うことはない、という。
それ以後、夜間、病院の窓に白い人影が映ることがあるという。
この時から「死の連鎖」が始まっていたのだろうか。一つの動物病院で関係者二人が殺され、二人が自殺する等、尋常ではない。呪われている、としか思えない。
それからSとは、動物病院等へ行くと言っていた日以降、連絡が取れなくなった。実家に連絡しても、やはり連絡は取れない、という。何か胸騒ぎを覚えた私は、次の休日、K動物病院や連続強盗殺人事件現場等、Sが巡ると言っていた地を回ってみることにした。
K動物病院は思ったより廃墟感が強く、院長宅の門もツタが絡まり、閉まらなくなっており、ここに毎日、ユーチューバーたちが来て、宿泊しているのが信じられないほどだった。
次は山手にある殺人事件現場の旧浄水場に行った。東側に空き地があるが、ここに昭和期、管理人の宿舎があったのだろう。宿舎に昭和中期のある深夜、複数の県で殺人を犯した犯人が押し入り、管理人の一家5人を斧で惨殺した。
翌日、発見された時、管理人の4歳になる孫は顔の上半分がなくなっており、たまたま帰省していた30歳の長女は瀕死の状態のまま強姦され、その後、更に斧を振るわれ、息の根を止められていた。
この側の動物霊園で作業していた作業員にSのことを聞いてみたが、手掛かりは得られなかった。
最後の強盗現場へは県道から徒歩で下っていくことになるが、その下り口付近の路肩にSのバイクがあった。
取り敢えず、歩道を下って行ったが、この歩道の終点にはJRの駅がある。その駅の手前にあるのが、浄水場の管理人一家を殺害した翌日、犯人が強盗に押し入ったO商店跡。数年前に来た時とさほど変わっていないが、強盗事件現場と知った上で再訪すると、やや、おどろおどろしさを感じる。
ここの駅は2010年代に地元の利用客がいなくなったが、谷底にある山林に囲まれた駅ということで、休日は一定数の観光客が駅に降りる。
この駅付近の線路の箇所には元々、川が流れていたが、ここに駅を設置するため、導水トンネルを複数造り、流路を変更し、元の川を埋め立て、線路を敷設、駅を設けた。
数年前と同じく、線路沿い歩道を北に歩いて行った。以前は導水トンネルに向かうため、この道を歩いた。それは鉄道トンネル並みの巨大なトンネルだった。
周囲を注意深く見ながら歩いていると、東の山際に何かが見えた。草木をかき分け、それを確認してみると、Sが持っていたスマホと同型の機種だった。が、付近を探してみるも、それ以外、何も発見できなかった。
取り敢えず電源を入れてみて、Sのものかどうか確認してみたが、K動物病院等へ行った日の動画があることが分かったから、再生し、Sのスマホだと判明した。その日巡った前述の三ケ所のスポットが録画されていた。
まず、K動物病院の南上を東西に走る道路から、歩道を下りて病院に向かっていた。しゃべりながら撮影していた。実況中継のように。
「ここが最近、全国的に有名になった、四国最恐の心霊スポットと言われるK動物病院こと、F獣医科病院です。」
建物の角を曲がると、そこが病院の入口だった。
「ここが病院の入口のようですね。院長が生前、ドアに貼った、手書きの休診のお知らせを記した張り紙もまだ残っています。左側には動物の檻がありますが、これは歩道に面しているので、殺人があった檻とは別のようです。」
その下が院長宅のようである。
「ここが院長宅です。しかし見てください、この荒れよう。草茫々で、とてもここで毎日、様々なユーチューバーが泊まって撮影しているとは、言われないと分かりませんよね。」
院長宅の先で歩道は分岐し、直進道は民家で行き止まりとなり、左折すると下の車道に下りられる。
Sは車道に下り、そこから仰ぎ見る形で院長宅を撮影しながら、西へと歩いて行った。
車道沿いの小屋のような建物を過ぎると、西隣のハイツとの間に、院長宅の西側の部分と病院の一部が見えた。
「あ、院長宅の背後に病院の窓の一つが見えています。もしかするとあれが、友人の言っていた、夜、白い人影が映るという窓かも知れませんね。」
友人とは私のことか。
Sは言い終わると撮影を一旦停止しようとしたようだが、再び病院にスマホを向ける。
「え?さっき、病院の窓のカーテンが揺れたような気がしましたが・・・。でも時間的には宿泊客はチェックアウトしている筈なので、誰も病院と院長宅にはいない筈です。K氏も関東にいる訳だし・・・やはり、見間違いだったのでしょうか・・・。」
その後、Sは自分のバイクへ戻り、旧浄水場へと移動する。
「はい、ここが〇〇連続強盗殺人事件の一つの殺人現場、旧○○浄水場です。ここの草地の広場に恐らく、かつて管理人一家の住む家があったものと思われます。昭和の時代、一家5人が斧で殺害された訳ですが、周囲に民家は一軒だけ。その民家も坂道を上がった先にあるので、ここで騒ぎがあっても気づかないかも知れませんね。その立地を考慮した上での犯行だったのかも知れません。」
Sは一連の説明を終えると、次の現場へと移動しようとしたが、何かの気配に反応する。
「あら?何かあっちの木陰から何かがちらっと見えたような・・・。」
再びスマホを浄水場へと向ける。
「げっ、えええ?あ、あれ、女?何で・・・?場内の木陰から変な感じの女が出てきました。」
そう言って浄水場内の奥の灌木の方を撮影しているのだが、映像を見る限りでは人影らしきものは確認できない。
「何あの女?顔が土色と言うか、血の気がない。下を向いたまま、身体をゆらゆら揺らしながら、こっちに向かってきます・・・・ま、まずい!」
そう言うとSは急いでバイクの方に走っていき、録画を停止した。
「はぁ、はぁ、な、何とか、さっきの旧浄水場を後にして、こちらにやってきました。一体、あの気持ち悪い女は何だったのでしょうか。と、言うより、ほんとにあれは生きた人間だったのでしょうか。」
映像が変わると、前述の谷底にある駅手前の廃屋近くに来ていた。
「すぐそこに見える廃屋が、○○連続強盗殺人事件の強盗現場のO商店跡です。犯人は浄水場で一家を殺害した翌日、ここに来て、『夕べ、人殺しをしてきた。』と言って斧を見せて店主を脅し、現金2,000円と店のお菓子を奪って逃走しました。」
O商店は二階部分が店舗の入口で歩道に面しており、斜面下の一階部分が店主家族の居宅として使用されていたようだった。
Sは二階からO商店跡へ入ろうとするものの、あまりにも荒れ果てているせいで、不安に思ったのか、屋内には入らなかった。
「見て下さい。辛うじて建物は残っているものの、屋内はボロボロで、今にも崩れそうです。だから中には入らないようにした方がいいですね。」
外から屋内を端から端まで撮影した後、なぜか土砂に半分ほど埋まった、二階から一階へ続く階段を黙ってしばらく撮っていた。
「今、階段の下から何か音がしたような気がしましたが・・・。」
Sは階段下を凝視しているようだった。
「な、何か足音のような音が、一階から階段に向かって近づいて来ているように思います。」
Sの映像からはやや緊迫感のようなものも感じられるが、映像にはそんな音は入っていない。
「あああ、あれは・・・・さっきの女です!浄水場にいた気持ち悪い女です。しかし、ここへの道は一本道で、私はバイクで浄水場から移動してきているので、女が私より早く、ここに来ることは物理的にあり得ません!」
Sはかなり焦っているようだが、映像にはやはり、そんな女はどこにも映っていない。
「あ、あの女はやはり人間ではない、幽霊です!」
そういうとSは走り出したが、なぜか元来た道ではなく、駅の方に下っていった。
焦っていたせいか、録画は停止しないまま、そのまま映像は撮られており、Sは線路沿いまで来た。すると北方にあるトンネルから列車の音が聞こえる。
「ま、まずい、あの女が追うて来た(追って来た)!」
スマホは手に握られた状態なので、本当に女が追って来ているのか、映像では分からない。
Sは歩道が続く北へと、線路沿いを走っていくが、列車の走行音は段々大きくなってきて、警笛を鳴らし始めた。列車はどうやらトンネルを出て、駅に近づいているようである。
「フォーン、フォーン、フォーン」警笛音と走行音は益々大きくなり、Sの方に近づいているようだった。
「あっ!」
そう言うとSは転倒したようだった。どうやら、歩道を塞いでいた倒木か何かに足を引っ掻け、転んだようである。と、同時に映像は飛び、急に真っ暗になって、一定時間が経過後、切れた。転倒した際、Sの手からスマホが投げ出され、地面に落ちたようで、しばらく真っ暗な映像が続いた後、切れた。
が、何か映像に違和感があった。
「何かおかしい・・・。」
映像が切れる瞬間、何かが一瞬、映ったように見えた。そこでもう一度その部分を再生し、違和感のあるところで一時停止してみると、そこには・・・・不気味な笑みを浮かべる、髪の長い女の顔がうっすらと映っていた。
「な、なんやこれは!?これがもしかして、Sが言いよった(言っていた)、追っかけて来ていた女なのか。どう見てもこれは生きた人間やない。」
それ以来、Sの行方は分からなくなった。
後日、分かったことだが、Sがこの駅に来た日の数ヶ月前、この付近の川(前述の流路が変更された川)で不審死をした中高年男性の遺体が発見された。死後、一ヶ月以上経過し、腐敗も進んでおり、顔貌の確認も不能だったにも拘わらず、川辺の岩場に座ったような状態だったという。
目立った外傷もなく、死因も不明のまま、火葬された。現在も身元は判明していないという。
この男性の死と、Sの消息不明の理由とは何か関係性があるのだろうか。また、あの女の霊的存在は、それらに影響を及ぼしたのだろうか。K動物病院で殺害された病院スタッフ、奇妙な行動を繰り返し、試しの宿泊後、自殺した女性等との関連性はどうなのか。
一体このI町で何が起こっているのだろうか。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。