
中編
栗色の髪
もーん 2020年10月12日
chat_bubble 1
6,226 views
このようなことがあるのかどうか、時折疑問に感じていたので思い切ってここに投稿してみたいと思います。
結論から先に申し上げます。タオルの中から髪の毛が出てくることはあるのでしょうか。
その時もいつものように洗濯機の上に吊るされたハンガーから乾いた下着や靴下、タオルを、碌に畳みもせずにそのままタンスの引き出しや収納かごに放り込んでいました。
そこには普段はあまり使用しない、たまたま洗った淡いピンク色のタオルがありました。収納かごに放り込もうとしたところ、2センチほどの髪の毛が一本くっついていることに気づきました。そんなことはよくあることです。取り除こうと摘まんだところスーッと5センチぐらい生地の中から出てきました。毛が貫通しているのかと思いタオルの裏を返すと髪の毛は見当たりません。そのまま引っ張ると10センチほどまで出てきました。どこまで出てくるのかと更に引っ張っていくと最終的に40センチぐらいの髪の毛が抜け出てきたのです。突然のことだったので鳥肌が立ったのを覚えています。ひとり部屋の中で唖然としました。
当然、それは自分の髪の毛ではありません。明かりに透かすと栗色に光沢のある細い髪の毛でした。その髪の毛はタオルの長手方向に沿うように、繊維の内部にまるで針で縫い付けたように入っていたのです。2センチほど出ていたので気づきましたが、表を見ても裏を返しても残りの部分は、表面からは見ることはできない状態で入っていたのです。
その髪の毛をまじまじと見てみると、まさかとは思いましたが心当たりがありました。当時の光景がよみがえってきたのです。
遡ること6年前になります。当時大阪に勤務していた時の話になります。大阪に赴任してしばらくたった頃、先輩社員に見合いの会に入ってみないかと誘われました。ここで身を固めろということです。勧められるまま何度か見合いを重ねるうち、気に入った女性が現れました。お互いバツイチで年齢は私より6歳下の大人しいおだやかな人でした。毎週のようにデートを重ね、3ケ月ほどたった頃、お互いの両親を紹介するところまで行き着いていました。
あの時は、私も彼女もお互いの両親もこのままうまく進んでいったらいいと思っていたのは確かです。結婚式は私の実家がある仙台で取り行うことに決めました。その前に式場のホテルで打合わせがあるので、一緒に仙台に行くことになりました。
出発する日は朝が早かったため前日に、私の住むマンションに彼女も泊まってもらうことにしました。夕食を済ませ、緊張している彼女に、ゆっくりとお風呂に入ってリラックスしてもらおうと、愛用のクナイプ入浴剤などを入れたりしました。その際、洗いたてのバスタオルと新品のタオル、歯ブラシを用意しておきました。彼女に似合う淡いピンク色のタオルが未使用の状態でちょうどあったので、それを選んだことをよく覚えています。
当日、私は紋付き袴のサイズを決めたり、彼女は白無垢に鶴や亀が刺繍された柄の着物などをいろいろと着付けし、花嫁姿を私の母に撮ってもらったり、こじんまりとした中でも楽しい式にしようと、忙しい中でしたがみんな楽しそうにしていました。これから新しい家族がふえる、新しい未来が築けるとみんな希望に満ちていました。
しかし、しばらくして結婚は破談となりました。
突然、目標がなくなってしまったように感じられ、ぽっかりと心に穴が開いた状態でした。
そんな中でも仕事に集中するうち、次第に時間が流れ、いつしか過去のことと感じられるようになってきました。
その一度きりしか使わなかったタオルが、6年後に突然現れ、あの時の記憶をよみがえらせたのです。
タオルに髪を縫い付けるという「おまじない」はあるのでしょうか。
結婚したい。一緒になりたい。という思いがそうさせたのでしょうか。
叶わなかった未来 後悔 取り戻せない もう会えないといった想念は、時を経るごとに増幅されるのでしょうか。
生霊の分身とはあるのでしょうか。
後日談:
- 結婚式は2010年3月14日の日曜日ホワイトデーに予定していました。大安でした。式場や日取りは母に決めてもらっていました。 血縁を結ぶということ、子供を授かるということは本人同士では乗り越えられない計り知れない力が働くのでしょうか。 自分たち、家族がうまくやろうとしても、なぜか邪魔が入る、一線を越えられない、互いの意思が通じない、そこには出生、地域が異なる、先祖が良く思っていないなどの不可抗力が存在するのでしょうか それとも私の努力 辛抱 情熱が足りないのでしょうか。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(1件)
コメントはまだありません。