
長編
山でのスナップ写真に
匿名 2021年1月15日
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私は心霊写真や怪談が子供の頃から大好きですが、霊体験はなく、また世の心霊現象や心霊写真のほとんどは錯覚か勘違いか夢か作り物、ただ中には稀に本当の心霊によるものがあるのではないかと思っている者です。
今回は私の母にまつわる話を書かせていただきます。
母は心霊好きな私と違い、「幽霊なんているわけがない、本物の人間のほうが余程怖い」なんて普段から言っているほど霊というものを信じていません。
そのくせ、子供の頃に人魂を見たとか、夜に外を歩いていたら変な光を見て騒いだりとか、霊を信じているのかいないのかわからない人です。
ただ、そういう話を面白がって作ったり嘘をいう人でもないので、人魂の話にしても本当に人魂だったか真偽は別として母はそういう何かを確かに見たのだな、と信用はしています。
その母は、50代の頃に登山にハマり、地元の山岳会に入って同年代のおじさおばさんと登山を楽しんでいます。
本格的な冬山登山などにも手を出し、私ら家族を毎回心配させる日々です。
今から20年以上前になりますか、写真がまだフイルム撮影が主流だった頃、母は山登りで高山の景色や草花を撮影するのにも力を入れていました。
そんな母が、心霊に興味を持ってやまない私に、半ば冷やかし、半ば真剣に、「これなんだと思う?」と1枚の写真(プリント)を見せます。
それは、どこだったか忘れましたが、登山好きなら誰でも知っているという信越地方にある名峰の中腹にある山小屋の前で撮られたものでした。
母の入っている山岳会のメンバーが、山小屋を発とうと山小屋の前に集まっているところを撮ったとのことで、ちょうど写真の中央に母が写っており、それで撮影した仲間が写真をくれたとのことでした。
山小屋を後ろに母を含め5人くらいの中高年男女が写り、山小屋の後ろは森になっています。
何の変哲もないスナップ写真です。
ボケもブレもなく大変綺麗に写っています。
私は、心霊写真あるあるで背景の木々や山小屋の窓、手前の地面などに目をやりましたが、別段変なものは見当たりません。
そんな私に母はいいます。
「違う、私の腰の辺り」。
良く見ると、横を向いて仲間と会話している様子の母の腰に、赤い球形の物が写っています。
いや、写っているというか、どう見ても、大きな風船を母が腰にくっ付けている、そんな様子にしか見えません。
あまりにはっきりくっきり普通に写っているので、大変目立っていたにも関わらず、それがこの写真の不審な箇所であるとは思いもよらなかったのです。
どう見ても、霊どころか、これは明らかに赤い風船が実体としてそこにある、それ以上でもそれ以下でもない写真です。
しかし、前述したように嘘や冗談でこんな写真を私に見せるような母ではありません。
やはり何かこの写真には不審なことがあるのでしょう。
「もしかしてこの風船みたいなの」、私が訊くと「そう、それ」と母は真剣な顔で答えました。
山登りには詳しくない私ですが、それでもこの写真から読み取れる状況としてはおかしな様子であることは解ります。
私は中岡俊哉先生ばりに鑑定を始めました。
まず、写真に写り込んでいるその風船様の物体を鑑定すべく、私はスキャナでデータ化し、パソコンの画像ソフトで拡大鮮明化してみました。
それはどう見ても確かに風船で、しかも口で膨らませるような小さく薄いのではなく、街などで見かける厚手のしっかりした素材のものであると推測できました。
色は真っ赤で、大きさは隣の母の背丈から直径1メートル程、母の腰を中心に浮かんでいます。
質感も風船のそれ、表面には風船を指で触れた際に付着する白い粉状のものまで付いているようにも見えました。
ただ、それが母の身体にどのように接しているのか、またはそこに浮かんで触れているだけなのかは、母が背負っている荷物に隠れていて判りませんでした。
このことから私が出した結論は、これは風船が(理由は不明ながら)そこに存在した、それ以外は考えられない、というものでした。
しかし母は否定します。
そんなものが腰に付いていたりそばにあればすぐに気付くし、間違ってぶら下げて山に登るなんて有り得ない。
誰かのいたずらなんてまして考えられない。山岳会の仲間は皆真面目で、何より命の危険と隣り合わせの山でそんなことはしない…
確かに母の言う通りです。
普通の登山にそんな風船様の物など持って行ったりはしませんし、そんな物を用もなく携行すれば命の危険にさえ晒されます。
登山の器具にそういう形状のものはないのかと確認しましたが「ない」と母は断言するし、私も見たことがありません。
もしかして、滑落時に危険を和らげるために、車で言うところのエアバッグみたいな物があるのかとも思いましたが、山で滑落したらそんなものは役に立たない、と母に一蹴されました。
結局、真相は判らないまま。
その写真は私が預かり、どこかに存在するはずですがだいぶ奥に仕舞い込んでしまったようで先日探しましたが見つかりませんでした。
また、データ化したファイルはさすがに気味が悪く消してしまい、今は皆さんに披露することができません。
以前、某巨大掲示板にうぷして見てもらったところ、「どう見ても風船だが、確かに不思議な写真ではある」などといった感想をもらいました。
山では不思議なことが起こる、と聞きますが、まさに不思議な話でした。
後日談:
- その後、母には特に何もなく、70歳になる最近まで本格的な登山を続けていました。 今はさすがに本格登山は引退し、近くの手頃な山でハイキングを時折楽しんでいるようです。
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