
「……ああ、その話、知ってるよ。駅裏のやつでしょ?」
缶コーヒーを片手に、彼は苦笑いを浮かべた。
俺が例の自販機の噂を話すと、思いのほか食いついてきたのだ。
「大学の頃さ、あれで“当たった”ことがあるんだよ、実は」
彼が言うには、駅の裏手、古い雑居ビルの脇にあるあの自販機。
夜に通ると、ときどき光ってるらしい。周囲に誰もいないのに。
普通のラインナップ。ジュースもコーヒーも見慣れたものばかり。
でも“当たり”が出ると――もう一本、見たことない缶が落ちてくる。
「白い缶。ラベルもないし、ブランドロゴもなかった。
触った感じ、ちょっとだけ温かった。何が入ってるのか、まったくわかんなかった」
興味本位で飲んだ。
開けた瞬間、音も匂いもなかったという。
口に含んでも甘くも苦くもない。水でもない。
まるで何も飲んでいないような、でも体に何かが入ってきたような、
そんな感じだったらしい。
「で、その日の夜さ。夢を見たんだよ」
夢の中、誰かが待っていた。
見覚えがあるような、でも思い出せない顔。
どこかで別れた誰かのような気もするし、
まだ会っていない誰かのようでもある。
その人が、にこっと笑って言ったという。
「おかえり」
朝、彼はベッドのそばに空の缶が置かれているのを見つけた。
昨日捨てたはずの、あの白い缶だ。
底には小さく”16”という数字が刻まれていた。
「それ以降は一度も当たってない。
けど、夜に部屋で寝てると、ときどき“ガチャン”って音がするんだ。
缶が落ちるあの音。自販機なんて、部屋にないのにさ」
そう言って、彼はふと笑った。
「だから持って帰っちゃダメなんだよ、あれ。
たまに“会いたくなる”けどさ。もう一回あれを飲んだら、
たぶん……今度は“向こう”から来るんだと思う」
それっきり彼とは会っていない。
SNSも連絡先も、急に消えていた。
ただ一度だけ、俺の家のポストに白い缶が置かれていた。
当たりなんて、押してないのに。
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