
長編
海浜公園の出来事
か 4日前
chat_bubble 2
29,978 views
する姿が見られる。と喜んでいると、それが鳶とは少し違う事に気づきました。
背中が妙に盛り上がり、翼はやけに短いように見えました。
飛びかたも、普通は一直線に滑空するものだと思いますが、ゆらゆらと上下しながら、やけにのんびりと近づいて来ます。
私は近眼なので、かなり近づいてやっと気がつきました。それはやはり、鳶ではありませんでした。鳶ような色合いをしたそれは、海亀でした。
海亀は、私の上空をゆったりと泳いで行きました。
海亀越しに見た空は、水面のように揺れ波打っていました。
海亀は、私の来た防風林の中に、溶けるように消えて行きました。
そのときは、目の前で起きた事の意味がわかりませんでした。
もう一度、海を見てみました。空と海と砂浜の境界線は曖昧で、相変わらず、薄い青色に霞んで見えます。
その風景は、以前、沖縄の座間味諸島でゴーグルを付けて見た海中の景色と酷似していました。
よく見れば、先ほどまで自分が砂浜だと思っていたこの砂地は、陸上の様子と異なっているように見えました。
灰色の岩から、柔らかな植物が生えており、風もないのにゆらゆらと揺れていました。その植物の周りに、小さな生き物がたちが隠れているのですが、それはどう見ても小魚に見えました。ハエに見えたのはこの子達だと思います。
ここは、海中だ。
そう理解した瞬間、驚きと同時に、奇妙な寂しさが込み上げて来ました。
言うなれば、母校の小学校を見学した時のような、楽しい思い出を思い出し、もう二度と戻れない事を噛み締めるような、望郷の思いにも似たもの悲しさです。
もう少しここに居たい。そう思い始めた頃、やや左前から、大きな船底のような黒い影が見えました。
それを見た瞬間、さっきの寂しさなどぶっ飛び、生物的な恐怖に教われました。
海の中で、そのように巨大な黒い生き物と言えば、鯨しかいません。
私は、小さい頃から鯨が苦手なのです。
なぜかはわかりませんが、あまりの怖さに、鯨の写真に触ることもできず、鯨の大きな絵が描いてある市民プールで大泣きした記憶があります。高所恐怖症の人はわかってくれるかも知れませんが、とにかく足がすくむほど怖いのです。
黒い影は、ぬるりとした滑らかな動作でこちらによってきました。
その影が鯨であるかどうかもわからない状態で、私は背を向け、あわててバイクに向かいました。
振り返ることはできません。もし、あの巨躯が私の目の前に現れた
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(2件)
- そのような夢を見たのでしょう匿名
- ただ単に怖いだけでなく、もの哀しく美しい話でした。 こういう余韻を感じさせる話は好きです。もぐこわ