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海浜公園の出来事
長編

海浜公園の出来事

2016年6月3日
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あれは、就職2年目の5月下旬のことでした。 私が就職した会社は、休日出勤が多いのですが、代わりにしっかりと平日に振替休暇を頂けます。 その日も平日休みを頂き、ゆっくりと月曜日の朝を過ごしていました。 気持ちの良い初夏の晴天。 せっかくなので、私は、ツーリングに行くことにしました。 その日は夕方から予定があったので遠出はできませんでした。 そこで、今まで近すぎて行ったことが無かった近場の海浜公園へ行って、おにぎりでも食べながら海を眺めてキャンプ気分を味わおうと思い立ちました。 私は就職してから都内へ引っ越したので、会社までの道のりなどは記憶していましたが、土地勘はあまりありませんでした。 Googleマップで検索すると、目的地まで車で30分ほど。 スマートフォンでナビを起動させ、中型バイクのハンドルに取り付け、比較的軽装で出発しました。 海浜公園までの道のりはほぼ直線で、私は緊張感もなく走っていました。 しかし、海浜公園まであと3分とナビに表示されたあたりで、急にナビが進まなくなってしまいました。 スマートフォンのナビがフリーズしてしまうのはよくある事だったので、さして気にせず、あと3分くらいなら道なりに行けば着くだろうと思い、そのまま進みました。 一本道の周りは、防風林が並び、その間からたまに、穏やかな海が見えました。 爽やかな風が吹いていて、そのときはただ走ってるだけで楽しかったのを覚えています。 あと3分にしては長すぎる距離を走っていると、道の先に浜が見えました。 ホームページでは親子連れが賑わっているように書いてありましたが、その日は一人も利用客はいませんでした。 私は、平日だからだろうと気楽に考えていました。 どこかにバイク置き場があるはずだったのですが、どこにも見当たらず、仕方ないのでなるべく端に寄せてバイクをとめました。 他の車が来たときのために、バイクが見える距離でゆっくりおにぎりを食べよう。 そう思い、砂浜に足を踏み入れると、足元を低空で無数の小さなものが飛んでいくのが見えました。 そのときは、大きなハエかな。と少し嫌悪感を抱きました。 顔をあげると、靄がかかったように遠くが青く霞んで見えます。 さっきまでは普通に見通しが良かったのに、おかしいな。と思って目を擦ったり、瞬きをしたりしていると、遠くから鳶が飛んでくるのが見えました。 かなり低い所を飛んでいます。 近くで飛行する姿が見られる。と喜んでいると、それが鳶とは少し違う事に気づきました。 背中が妙に盛り上がり、翼はやけに短いように見えました。  飛びかたも、普通は一直線に滑空するものだと思いますが、ゆらゆらと上下しながら、やけにのんびりと近づいて来ます。 私は近眼なので、かなり近づいてやっと気がつきました。それはやはり、鳶ではありませんでした。鳶ような色合いをしたそれは、海亀でした。 海亀は、私の上空をゆったりと泳いで行きました。 海亀越しに見た空は、水面のように揺れ波打っていました。 海亀は、私の来た防風林の中に、溶けるように消えて行きました。 そのときは、目の前で起きた事の意味がわかりませんでした。 もう一度、海を見てみました。空と海と砂浜の境界線は曖昧で、相変わらず、薄い青色に霞んで見えます。 その風景は、以前、沖縄の座間味諸島でゴーグルを付けて見た海中の景色と酷似していました。 よく見れば、先ほどまで自分が砂浜だと思っていたこの砂地は、陸上の様子と異なっているように見えました。 灰色の岩から、柔らかな植物が生えており、風もないのにゆらゆらと揺れていました。その植物の周りに、小さな生き物がたちが隠れているのですが、それはどう見ても小魚に見えました。ハエに見えたのはこの子達だと思います。 ここは、海中だ。 そう理解した瞬間、驚きと同時に、奇妙な寂しさが込み上げて来ました。 言うなれば、母校の小学校を見学した時のような、楽しい思い出を思い出し、もう二度と戻れない事を噛み締めるような、望郷の思いにも似たもの悲しさです。 もう少しここに居たい。そう思い始めた頃、やや左前から、大きな船底のような黒い影が見えました。 それを見た瞬間、さっきの寂しさなどぶっ飛び、生物的な恐怖に教われました。 海の中で、そのように巨大な黒い生き物と言えば、鯨しかいません。 私は、小さい頃から鯨が苦手なのです。 なぜかはわかりませんが、あまりの怖さに、鯨の写真に触ることもできず、鯨の大きな絵が描いてある市民プールで大泣きした記憶があります。高所恐怖症の人はわかってくれるかも知れませんが、とにかく足がすくむほど怖いのです。 黒い影は、ぬるりとした滑らかな動作でこちらによってきました。 その影が鯨であるかどうかもわからない状態で、私は背を向け、あわててバイクに向かいました。 振り返ることはできません。もし、あの巨躯が私の目の前に現れたら、あの、異様に静かな瞳と目があってしまったら。 人によっては夢のような出来事かも知れませんが、私には耐え難い恐怖でしかありません。 足首を固定したライダースブーツが、砂浜にとられてうまく走れませんでした。これは、夢の中で体がうまく動かない現象によく似ていました。 私は泣きそうになりながら、バイクにたどり着き、あわてて飛び乗りました。 ミラーにかけてあったヘルメットをかぶり、震える指先でキーを差し込みました。 そして顔を上げ、しまったと動きをとめました。 バイクは海の方を向いて止めてありましたので、バイクにのれば、必然的に海を見てしまいます。 もし、目の前の空間いっぱいにあの鯨がいたら。耐えられない。 恐怖で目を閉じることもできませんでした。 呆然とする私の眼前に広がっていたのは、やはり穏やかな海でした。 私は安堵と同時に、あの妙な寂しさを感じました。 まるで、驚かしてごめんね。と言われたような気持ちになりました。 ヘルメットの顎紐をとめ、狭い道で苦労してバイクを反転させ、元来た道を戻りました。 念のためスマートフォンのナビで自宅の住所を設定してみると、やはり30分ほどで帰れると表示されました。 帰り道は、どこかぼうっとしてしまい、何度か青信号に気づかずクラクションを鳴らされてしまいました。 帰ってからホームページを見ると、私は、海浜公園私のずいぶん端の方に行ってしまっていたようで、Googleマップでもあの砂浜の位置は確認できました。 しかし、そこには鉄格子が設置され、こ洒落たベンチなどが置かれており、私の見た砂浜と状況が異なっていました。 あの海浜公園は、埋め立て地を利用したものですが、それと何か関係があるのかもしれません。

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