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長編

タカノ君

あーたん 2020年9月1日
怖い 243
怖くない 205
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自分の人生の中で唯一人だけ本当に霊が見える人間がいる。 もちろんテレビや雑誌、ネット上ではそんな人がたくさんいるようだが本当かどうかわからない。 確信して言えるのは、タカノ君には霊が見える、ということ。 タカノ君と知り合ったのは高校2年生の時、 彼が自分の高校に編入してきたときだった。 タカノというのは本名でなく、自己紹介の時に担任の先生がなぜか名前を言い間違えてタカノ君と紹介し、 それにかぶせて彼が「ども、タカノです」と言ってクラスでウケたため以後タカノ君があだ名となった。 性格はなんとも表現が難しいんだが、明るいバカキャラかと思いきや、意外と大人っぽくて落ち着いたような、少しミステリアスな雰囲気もあり 当初は女子からもクール、たまに気味が悪い、と評価は分かれていた。 そもそもうちの高校に編入ということ自体が珍しかったのでなんとなくみんなから気になる存在ではあったし どちらかと言えば大半の人からは好感を持たれていた。 高校2年の夏に、みんなでキャンプに行こうという話になり、 タカノ君も誘って男子7人で1泊2日で行くことになった。 このキャンプでの出来事は自分にとって忘れられない記憶になった。 また、タカノ君がどんな人かわかった思い出でもある。 当日は友人Aの親がみんなが乗れる大きなSUV車で送り迎えしてくれることになった。 キャンプ場は他にはあまり人がいなくて快適だった。 森の中だけど大きな浅い川が流れていて雰囲気もよく、天気も良く、テンション上がった。 Aの親やA、Bをはじめキャンプ慣れてしているメンバーでせっせとテントを張ってくれて、自分はちょっと手伝った程度ですぐに完成。 2つテントを張り終わるとAの親はいったんクルマで帰宅して明日また迎えに来てくれることに。 午前中のうちに川でみんなで遊んだりフリスビー投げたり遊び惚けていたのだが、 ふとタカノ君が不自然にぼーっとしたり、一人でテントに戻ったりしていたのが気になった。 オレ「なんかあった?」 タカノ君「いや、日差しが強くて」 オレ「あー、みんなみたいに川で頭も濡らしちゃえば?」 タカノ君「そうね。ちょっと休んでから」 特にそれ以上気にも留めなかった。 昼は雑に買ってきたお菓子やおにぎり程度で済ませて、夕方になる前から早々にカレーを作り始めた。 タカノ君も含めみんなで協力してカレー作りの最中だった。 タカノ君「カレーなんだけど、管理人さんがいる小屋があるでしょ?あそこで食べない?」 と提案してきた。 A「え、なんで?せっかくキャンプまで来たら外で食べるっしょ」 B「逆に外以外で食べたことないわ。大雨とかなら仕方ないけど天気もいいじゃん」 タカノ君「・・ああ、そうね」 CやDもみんな外で食べたいというような意見を言っていて結局外で食べることになった。 なぜタカノ君がそんな提案をしたのか?まだこの時はわかっていなかった。 思いのほかカレーはタカノ君も外で明るく食べていた。さっきまで元気がなさそうだったが大丈夫そう。 そのあとは1つのテントにみんなで入ってトランプ。狭いけどそれもなんだか楽しかった。 ところが、途中で突然タカノ君がトランプを置いて無言のままテントを出て行った。 A「あれ、どうしたんだ?」 C「トイレか」 B「無言でスピーディに行ったからもうギリギリだぞあれはw」 というとみんなテンションも上がっているせいか大笑い。気にせずトランプを続けた。 だが、30分ほど経過してもタカノ君が戻ってこない。 俺「ちょっとトイレ見てくる」 と言ってタカノ君をトイレに探しにいった。空は星が綺麗だったが辺りは真っ暗。懐中電灯なしでは歩けない。 トイレには誰もいなかった。 どこへ行ったんだ? 戻ってきてもう1つのテントを覗いてみた。 ・・・と、そこにタカノ君がいた。 俺「わっ、なんで一人でここに? みんなとトランプしていたのになんでいきなりいなくなっちゃったの?」 タカノ君は片膝を立て、体育座りを崩したように足を延ばして座っていた。 懐中電灯もつけていない。 タカノ君「あぁ、ごめん。ちょっとね・・・。」 なんというか訳ありな感じを察した。 俺「なんかいろいろ黙っている感じだけど、どうして?」 しばらく沈黙だった。 俺「黙っていなくなるのはみんなに迷惑、という意見もあるかもしれない」 ちょっと良心をつついてみる。 タカノ君「・・・話しても信じてもらえるものでもないから困るんだよね」 俺「話してくれないと信じようもない」 タカノ君「なるほどw そうね」 当時の細かい会話は覚えてないけど、 大体そんなやりとりをした後にタカノ君は話し出した。 タカノ君「霊って信じている人?」 俺「レイ? ああ、ユーレイね。あまり信じてないけど、いないことも立証されてないからなんとも」 タカノ君「見えるんだよね。小さい頃から。なぜかわからないけど。」 別に信じるとか信じないとかでなく、ただ真剣に話しているので俺も真剣に聞いていた。 タカノ君「午前中、川の向こう側に女の人がいた。なんとなく20代ぐらいかな。」 話によると、その人の恰好は普通の帽子や長袖やらでキャンプに来る格好そのものの女性にしか聞こえなかった。 俺「それって、単にキャンプに来ていた別の人では? 確かに川の向こうは森が茂っているけど人がいないわけでもないだろうし」 タカノ君「・・・なんというか、違うんだよね。いや基本的に見た目は普通の人とたいして変わらないんだよ。でも違うんだ」 俺「霊と普通の人の区別はつくんだ?」 タカノ君「ああ。わかる。たまに紛らわしいのもいるけど。しかもあれは全身濡れていた。溺死かも」 俺「濡れているやつもいるんだ?」 タカノ君「いや、大体普通なんだよね。濡れているのはむしろ初めて」 とてもウソをついている感じがしなかった。 外は真っ暗。こんな薄くてたよりないテントしかない状況。 友人が近くで騒いでるとは言え、森は広くて暗くて静かだ。 霊など類は信じていないのだが、聞いていて“怖い”と思った。 タカノ君「午前中は川の向こうにいたのに、食事の支度をする頃に川のこっち側に来ていた。     でも無視してた。気づいてると思われるとなぜか余計に近づいてくるんだよ、ああいうのは。」 俺は胸が高鳴っていた。怖い。 タカノ君「カレーを食べている時にはいなくなっていた。だからホッとしていた。      ・・・だけど。いなくなった訳じゃなかったんだ」 俺「いなくなって、ないの?」 怖い。怖い・・。 でも聞かないわけにもいかない。 俺「最初の質問に戻るけど、“なんでトランプの最中にこっちに来たの?”」 タカノ君「あっちのテント・・・」 こちらを見ないで一点を見つめるようにゆっくりと話していた。 タカノ君「突然、あの女が、入ってきた。」 テントの中に?? あんな、狭い所に!? 背筋が凍るようにゾッとした。 タカノ君「AとBが隣り合っていたでしょ? あの2人の間に覗き込むように」 俺「・・・どうしたら、いいの? 追い出せるの?」 タカノ君「オレは霊媒師とか研究家じゃないから正直わからないんだよね」 俺「確認、した方が・・・、みんな、ほっとけないし」 タカノ君「そうか。確かに心配だよね。でも自分が覗くとついてきちゃうと思うんだ。余計に」 俺「俺が見るしかないかな」 タカノ君「できそう? 行くならとにかく近くにはついていくよ」 本当は逃げたかった。 いや、クルマもないしそもそも逃げるところなんてない。 友達は見捨てられない、と見栄を張っているだけだと思う。本当は怖かった。 隣のテントはわずか数メートル先。ゆっくりと近づいた。 一歩ずつ。 心臓が高鳴る。 タカノ君は俺のちょっと後ろについてきてくれた。 俺は友人のいる、霊のいる、テントをゆっくりと覗き込んだ。 だが、俺には友人たちの姿しか見えなかった。少し、ホッとした。 A「お!どうしたー。タカノ君は??」 俺「ああ、疲れたみたいで隣のテントにいて・・・」 B「さっきさー、こいつが小便もらしやがってさーw」 A「違うだろ、お前だよ。見てくれよ、俺の服びしょびしょにされたんだよ。ポカリこぼしやがって」 B「こぼしてないよ。俺の肩だって濡れてんだから」 血の気が引いた。 Aの右肩とBの左肩が濡れていた。 タカノ君はやはり嘘をついてない・・。 怖くなって無意識の中、慌ててテントの入り口から後ずさりした。 恐怖で頭が真っ白になってしまった。 その時、突然、俺の右腕を力強くグッ!と掴まれ引っ張られた。 俺「うわっ!!」 と叫んだ。 見るとタカノ君だ。 タカノ君が俺の右腕をいきなり掴んだまま強引に引っ張りまわすように力強く歩き出した。 俺「え、な、なに??」 無言でタカノ君はスタスタと歩き続ける。競歩の選手のように力強く速く。 どこへ向かっているのか? トイレの方?  混乱した。 この先に何かあるのか? そうは思えない。 タカノ君はどうしちゃったんだ? どこに行くの? なんなの? どうしたの? だが、 途中で何が起こっているのか、自分も気が付いた。 俺「ま、まさか!!」 次の瞬間、俺の背中がコップの水をぶちまけられたようにビシャリと濡れた。 霊が・・・、ついて来ている!! もう気絶寸前なぐらいパニックだった。 俺「タ、タカノ君・・」 タカノ君「歩こう!」 タカノ君はなんとか霊を振り払おうと俺を引っ張ってきたのだ。 俺には見えない。いや、正確には怖くて一度も振り返っていないから見てすらいない。 だが背中の冷たくなった感触は疑いようもない事実だ。 それに霊感のない自分でもわかる。何かが間違いなく後ろから来ている。 時間の感覚がわからなくなっていた。もう数十分も歩いたような、実際には数十秒だったような。 そしてちょっとした登坂を登り切った瞬間だった。 突然、タカノ君が足を止めてバッと振り返った。 タカノ君「帰れぇぇーーーー!!!!」 とんでもなくデカイ声で怒鳴った! びっくりして俺は腰を抜かした。尻もちをついてそのまま立てなくなった。 するとタカノ君は肩で大きくため息をついた。 タカノ君「・・・・・・よかった。帰ったわ」 俺「え」 怒鳴って霊を追い払ったようだ。 俺「そんな、方法があったの・・? そうなんだ・・。はぁ・・」 もう腰が立たないまま体に力が入らず地べたでぐったりした。 タカノ君「いや、過去にうまくいったこともあるけど、逆に怒らせることもあって、イチかバチかだった」 タカノ君もぐったり疲れたようだったけど、ハハっと小さく笑った。 そのあとは何事もなかったようにテントで友人たちと休んで夜が明けた。 霊の話は友人には一切しなかった。 ここでは書かないがタカノ君は霊が見えることで嘘つき呼ばわりされたり嫌な過去もあったので俺もあえて言わないことにした。 その分、タカノ君とは仲良くなった。 俺「塩があれば撃退できたかもね」 タカノ君「いや、塩はホントに全然意味ないから。むかし民家の玄関に盛り塩があったけどその横でおっさんの霊が座ってたしw」 俺「まじかよw」 お経はタカノ君が唱えたこともあるけど効果があったことはないらしい。でもちゃんとした人がやれば違うのかも、とか お札はいろんなものがあるから全然わからんとか色々話が面白かった。 タカノ君は霊が見える。 恐ろしい体験はトラウマだが、霊って本当にいるんだと自分は知ることができた。

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