
長編
申告外貨物
しもやん 2020年3月7日
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主が合理主義者である証拠でもあるのだろう。
毎度こんな調子なので、結局税関の現物検査は形骸化している。貨物確認ができるのはコンテナの手前に見えているものだけで、奥になにが入っているかは荷主以外誰にもわからない(それを証明するため税関へ作業中の写真を提出するのだが、われわれ通関業者はしょせん代行業務なので、それが本当に目の前の貨物と一致するのか判断のしようがない。荷主がなんらかの理由から、まったく関係のない写真をよこしてお茶を濁していないとは言い切れない)。
「写真通りですね」税関職員が皮肉交じりに言った。「こんなぎっしりよく詰めるなあ」
税関職員はしきりに通関書類と現物を見比べているが、見えるのは手前に積まれた中古の布団だけである。
「この荷主さんとはお付き合い長いんですか」
「新規顧客です。見積もりを頼まれて、受注しました」
「日本人?」
「外国人です。パキスタンかスリランカ人あたりでしょうね」
「あの人たちは本当にたくましいですよね」
こんな調子で雑談を交わし、検査は終了した。税関職員はなにも問題ないと宣言し、ぶらぶらとオフィスへ戻っていく。わたしは大きく伸びをして、コンテナの扉を閉めにかかった。
片方の扉を閉め、もう片方に渾身の力を込めたそのとき。布団の隙間から細長い長方形の箱が見えた。長さは2メートル弱、幅は80センチ弱。真っ黒でなんの柄も印刷されていない。たぶんその箱からだろう、なにやら不快な匂いがかすかに漂ってきている。考えなしに生ごみを突っ込んだ真夏のごみ箱のような匂い。わたしは手元の通関書類と謎の箱を見比べてみた。写真にこんなものは写っていなかったし、申告貨物のなかにも一致するような品目は見つけられない。
もっとよく見ようと思い、布団を押しのけて隙間を広げてみる。すると箱の表面がもっとよく見えてきた。なにか文字が書いてある。英語だ。よく見えない。co、corp? いや、corpse。corpseと書いてあった。単語の意味がわかった瞬間、わたしは布団の隙間を閉じてなにも見なかったことにした。扉を閉じ、大急ぎでシール封印する。
検査指定票をドライバーに返却し、CYヤードへ戻してよいと伝えた。たぶんわたしの声は震えていたと思う。ドライバーは冬の寒さだと思ってくれたようで、不審がることもなく巨大なコンテナシャーシを検査場から発進させた。その瞬間、会社用の携帯が鳴り響いた。心臓が止まる
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- このお話は結構良かったです。しゆか