
長編
申告外貨物
しもやん 3日前
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かと思うほど驚いた。出てみると通関部門からで、たったいま輸出許可が下りたとのことだった。
* * *
わたしは結局、税関へは通報しなかったし、それどころか会社の誰にもこのことを話していない。その後同じ荷主から依頼があったらと思うと血の凍るような気分だったが、幸い現在にいたるまで、2度めの依頼は受注していない。料金回収も驚くほどスムーズだった。請求書を送った翌日には入金されていた。
くり返すが通関業者はあくまで荷主の代行として通関に携わっているだけだ。荷主が黒か白かを判断し、正義の裁きを下すのが仕事ではない。これは弁護士が依頼人の無罪を実は信じておらず、有罪だと確信していてもなお量刑の軽減に臨むのに似ている。もちろん麻薬なり拳銃なりが出てきたとき、律儀に税関へ通報する人間も業界内にいるにはいる。
けれども誰がそんな厄介ごとを背負い込みたがるだろうか? 反社会的荷主の貨物を扱ったことが判明すれば会社も無事ではすまないし、通報した人間も長く執拗な取り調べを受ける。それに輸出は輸入と異なり、許可が下りてしまえばもうこちらのものだ。貨物は日本の法律がおよばない外国へ消えていき、二度と日の目を見ることはない。
仮にわたしが通報していたとしても、本船はすでに出港したあとだっただろう。たった1つのコンテナに〈生ごみ〉が積み込まれているかもしれないというだけで、本船を回航させるほどの権限は税関にないし、第一税関自体が検査をして許可を下ろしたのだから、そんな後出しじゃんけんは通じない。
それにあれが本当に書いてあった通りのものだったとも言えない。わたしは箱を開けて中身を見なかったし、作業員がいたずらであんな文字を書いただけということもありうる。そういうことをやらかす外人は多い。
けれどももし、中古のテレビを引き取る要領で彼らが例の生ごみを引き取っているとしたら? 仕入れ先はいくらでもある。殺人犯、暴力団関係者、老親の介護に疲れた家庭。日本のどこかに遺棄すればいずれ警察の捜査であぶり出されるだろうが、国外なら彼らの手も届かない。法律も無効である。輸出者は法外な値段で貨物を引き取り、輸入者も法外な値段で貨物を現地で処分する。排出元は少しばかり高い処分費用を支払っていままで通りの生活を送ることができる。誰も損をしていない。輸出された本人以外は。
市場は技術的に不可能でない限り、発生し
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- このお話は結構良かったです。しゆか