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長編

楽しく安全な登山を

しもやん 3日前
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怖くない 413
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ープはそのどちらでもないようだった。鋭利な刃物で意図的に切断されていたのである。  その後もペナントは見つかったが、ほとんどすべて落下していた。それらのどれもが何者かによって切断されたらしい切り口を見せていた。  わたしはペースを速めた。日没が迫っているというのもあるが、この山域に一分たりともいたくなかった。15:30ごろ、当ルートの北端であるお金峠に着いた。ここにも立派な道標があるはずで、北谷尻谷やお金出合への情報が記載された手作りのプレートがあるとのことだった。  それはすぐに見つかった。記事通りの場所にちゃんと括りつけてあった。もちろん情報はいっさい得られなかった。全面真っ赤に塗りつぶされていたからだ。下に残されたわずかなスペースには、〈楽しく安全な登山を〉の文字。  わたしは膝にかかる負担もいとわず大急ぎで神崎川へ向かって下り始めた。道標やペナントを破壊しながら歩く悪意のかたまりのような登山者が、すぐそこまで迫っているような気がした。  15:40、お金明神分岐。ここには木に明神方面への道を示す手書きの文字が書かれているのだが、それももちろん塗りつぶされていた。わたしはもうさほど驚きはしなかった。ただただ気色が悪かった。  16:00ごろ、お金出合。ここにも手作りの道標があるのだが、わたしはいちいち状態を確認しなかった。どうなっているかは見るまでもなかった。進路を南にとり、大瀞から中峠を目指す。山中はもうかなり薄暗い。いつもなら夜間ハイクを怖いと思ったことはないのだが、今日だけは気が進まなかった。この時間では下山途中に陽は落ちてしまうだろうが、せめて日没までには地図に記載のあるまともな登山道に復帰していたかった。暗がりに浮かび上がる真っ赤な道標を見たいとは思わなかった。  17:10、すっかりあたりは暗くなっていたものの、どうにか中峠に着いた。ここから朝明渓谷までは1時間程度の行程である。中峠ルートは若干険しいものの、地図に記載のある通常ルートである。ここまでくれば陽が落ちても大丈夫だ。  ザックを下ろしてヘッドランプを準備しがてら、風の吹き荒ぶ中峠でしばし休憩をとる。すっかり緊張もほぐれ、漠然と温泉やら夕飯やらのことを考える余裕も出てきていた。 「こんばんは」  わたしは情けないほど大げさに驚いていたと思う。慌てて声のしたほうを照らすと、老齢の登山者が闇のなかにぼんやりと浮かび上がっていた。  言

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  • 人の悪意ほど恐ろしいものはありませんね。この老人のしていることは、「犯罪」です。この話を読んでからは、山怖い話の中でも、秀逸な実話だと思いました。
    慈母観音
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