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長編

バイト先での出来事

みほ 2020年8月22日
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怖くない 187
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長文です。 30年位前のことです。 高校の卒業式の少し前、部活で一緒だった同級生の女の子が、家の近くにある和菓子店でバイトをする話をしていました。店のガラス戸に貼ってあったアルバイト募集の紙に高額の時給が書いてあったからだと。 卒業後、私は期限のある別のバイトを始めたのですが、その終了後、彼女が働いているであろう和菓子店のアルバイト募集に応募しました。 本店で面接があり、採用され、私は自宅近くの店舗の販売員の職に就きました。 卒業から1ヶ月程しか経っていないのに、店に友達の姿が無いのは不思議でした。当時、市内に数店舗を展開する和菓子屋でしたが、友達の家からも私の家からも一番近い店舗は同じでしたので、彼女がいるとすればそのお店でした。 携帯の無い時代で、本人に直接連絡するのは今ほど簡単ではありませんでしたので、「え?あの饅頭屋でバイトしたの??先に言ってくれたら止めたのに!私、すぐ辞めたわ!」と彼女から聞いたのはずっと後のことでした。 経営者のおばさんが、めちゃくちゃ性悪だったのです。 バイト仲間は全員女性で、1つ年下の高校生と、3つ上の大学生と、私の母親くらいの年齢の三人でした。シフトがあり、常時二人体制でした。 性悪経営者は本店にいたので、お客さんのいない時、私達は簡単な作業をしながらお喋りをしていました。 年上の二人は既に1年ほど勤務していて、店の事や経営者(奥さんと呼んでいました)の事を話してくれました。 ・奥さんが性悪いから、バイトが続かない。皆んな泣いて辞めていく。 ・そんなだから、奥さんは恨みを買っている。 ・どの店舗にも幽霊や生き霊がでる。 といった内容。(さっきネットで調べたら、現在6店舗あるようです。今も出るのかしらん) 母くらいの年齢の彼女も、私の在職中に泣きながら辞めていきました。 私と高校生バイトがシフトで入っている時に「饅頭にカビが生えていた」と怒鳴り込んで来たおばさんがいました。 「お詫びにこのくらいの菓子出せないのっ」と言って、ショーケースの上に並べてある箱に入った和菓子をバンバンと掌で叩いた挙げ句、「保健所に訴えてやるっ」と店から出ていきました。 私は事を収められなくて、保健所云々と事が大きくなった事を申し訳なく思い、高校生は「あんなオバハンに負けた」と、二人して泣きました。私は泣きながら、本店にいる奥さんに電話で説明しました。 私の説明した怒鳴り込んで来たおばさんの風貌が、前に泣きながら辞めていった一人と一致するらしく、また、おばさんが手にしていた饅頭が、饅頭用の包装紙ではなく、おかきの箱に使う包装紙に包まれていた事も疑わしく、本店では「辞めさせられた〇〇さんが嫌がらせに仕組んだ」という結論に至ったようでした。 その翌日、大学生バイトと一緒だったのですが、前日彼女は本店にいたようで、事情は奥さんから聞いていて、「〇〇さんならやりそうな事。」「ほら。嫌がらせ受ける程恨まれてるって言ったでしょ。」と言っていました。 因みに、この件による営業停止などの保健所による処分はありませんでした。 本店には工場が併設されていました。大学生バイトによれば、工場に男と、長い髪の女の霊が出るそうで、「工場で直接見なくても、応援で店に居れば、裏(工場)から悲鳴が聞こえるから。本店に応援で行くの、楽しみだね」とからかうように言われました。 実際、3回程本店へ応援に行きましたが、工場では働く人しか見ませんでした。けれど、店で接客をしている時、何度か悲鳴が工場から聞こえました。女子の声で「きゃーっ」とか「でたっ」とか。その都度、奥さんが「何騒いでるのっ!」などと怒鳴りながら、工場の奥へ進んで行くのが分かりました。悲鳴の主は騒ぎ続けていましたが、奥さんも怒鳴り続けていました。「ほんとに出たんですぅ…ヒック…」「そんなもん、でないっ」みたいな感じ。 最初は、悲鳴にびくっとなっていましたが、接客で忙しく、また、店には出ないと聞いていたので、だんだん対岸の火事のような感覚になっていました。 私が主に就労していた店舗は、古い木造家屋の一部を改装したものでした。 何屋さんだったか忘れましたが個人経営のお店と小さな電気店に挟まれていて、前面はガラス張り、その真ん中あたりに自動ドアがありました。ドアから入ると左手の壁におかき類の陳列棚があり、正面奥やや右手に和菓子のショーケース、右の壁側にはケーキのショーケースがありました。ドアを入ってすぐの所に商品陳列用の丸いテーブルがありましたので、テーブルが邪魔して、和菓子ショーケースが見え難いといった配置でした。和菓子ショーケースの奥には小部屋があり、ショーケースのすぐ近くに小さな小さな台所、奥には大型の冷蔵庫、あとは化粧箱を保管する棚がありました。小部屋といっても扉はなく、入り口にのれんがかかっていました。 冷蔵庫の横に小さなドアがありまして、その奥が大家さんの住まいだと聞いていました。大学生バイト曰く、おばあさんが一人で住んでいるが、そのおばあさんも生きているかわらないとか。一度だけそのドアが開いていて、90代位のおばあさんの姿を見ました。動作はゆっくりでしたが、ちゃんと生きておられました。 梅雨時期のその日も20時閉店まで大学生バイト先輩と一緒でした。それぞれ、離れた場所で閉店の準備をしていました。「ケーキかぞえまーす」「自動ドアきりまーす」など、言ってから作業するのが通例でした。 その時、先輩はケースの裏からケーキを数えていました。私は和菓子ケース後ろの小部屋の壁にある自動ドアのスイッチを切りました。その瞬間、自動ドアが静かに半分まで開きました。私は冷蔵庫へ向かう途中、ドアの開く音だけを聞きました。 「何で自動ドアが開くのっ!」ケーキケース裏の先輩が叫びました。男みたいな人なんですが、女みたいな悲鳴に近い声をあげたので、私もビックリしました。 前の歩道を凄いスピードで自転車が横切ったとかで、通電しているうちにドアが開いたんだろうと、私は考えました。外からは救急車のサイレンが聞こえています。何故か、私は自転車に乗った小さな男の子が事故に遭ったというイメージが浮かびました。 先輩は奥の小部屋にある自分の鞄を掴むと、外へ飛び出して行きました。ケーキを最後まで数えずに。半分開いたガラス戸の隙間から「はやくっ!はやくっ!いいから、はやくっ!」と怒ったような様子で私を呼びました。訳がわからない私は、台所にあるポットの電源が切れているか確認し、照明を消してドアに向かいました。丸いテーブルの辺りまで来て、傘を忘れた事に気づき、また奥へ戻りました。先輩が「そんなん、いいからっ!はやくはやくっ」と叫んでいます。 さっき通った時はなんでもなかったのに、引き返しかけると、和菓子ケース手前の、顔のあたりの高さの空気だけ、異常に熱いのです。今でいう猛暑日レベル(当時に猛暑日はありません)。小部屋に置き忘れた傘を掴んでドアの方へ向かうと、空気の温度は通常に戻っていました。 外に出ると先輩はちょっと離れた所(電気店との境界辺り)に立っていました。「何もなかったか??」と聞かれ、私は素早く鍵を閉めながら変な熱い空気の事を話しました。先輩は走って逃げ出しました。私は自転車を押して、先輩を追いかけました。先輩が待っていてくれたのですぐに追いつき、一緒に駅まで歩きました。「明日言う。今は言えない。あした言うから」と先輩は訳を話してくれません。口調はいつもの男みたいな感じに戻っていました。でもやっぱり怖がってる。19時50分頃迄楽しく喋っていたのに、一気に重い空気になってしまいました。雨は降っておらず、湿気を含んだ空気がムッとしていました。内心怖かったのですが、気になって仕方ない。でも、やはり先輩は話してくれませんでした。 駅で先輩と別れ、自転車に乗って私は家に帰りました。 翌朝、先輩は勿体つけずに話してくれました。 半年ほど前、同じ事があったそうです。その時の先輩の相方は先輩と同い年のショートカットの可愛い子で、我々に見えないものが見える人だったそうです。そして、例外に漏れず和菓子屋を辞めていました。 その夜は、可愛い短髪がケーキを数えて、先輩が自動ドアの電源を切ったそうです。自動ドアが半分まで開き、外からは救急車のサイレン。短髪はケーキケースの後ろにしゃがんでおり、開いたドアから小さな子供が入ってくるのをケース越しに見たそうです。親がついてこない。20時に子供だけなんて変だなと思いながらケーキを数えていると、ふと、脚しか見えていないことに気づいたそうです。そして、丸いテーブルの辺りで脚は消えたのだとか。(先輩が示したその場所は、昨夜顔の高さの空気だけが熱くなっていたすぐ側でした) 短髪は悲鳴を上げて外に飛び出し、外から先輩に直ぐに出るよう呼びかけたそうです。昨日先輩が私に言ったように「早くっ」と。何も知らない先輩でしたが、短髪の鞄も持って、慌てて外に出たそうです。 昨日は先輩も私も見えないタイプなので見えませんでしたが、また脚だけ入って来たに違いないと先輩は言いました。 暫くの間出勤するのが怖かったのですが、何も起こりませんでした。 その後、例の奥さんに性悪いことを言われ、給料も半分しか貰えず、私も泣きながら店を辞めました。就労店舗で貸与された制服がわりのエプロンを、電車で25分ほどの所にある本店まで返しに来いと言われましたが(先輩によると、奥さんは私に文句を言ってやろうと待ち構えていたそうです)、就労店舗に母が持って行ってくれました。今思い出しました。奥さんが居たら、文句言ってやろうと母は決めていました。 そののち、同級生の友達に「先に言えば止めたのに!」と言われたのです…。彼女も泣いて辞めたそうです。 メインは消えた脚の件ですが、祖母の言っていた「生きている人間の方が怖い」という言葉の方が正しいように思える今、奥さんの方が怖いと感じます。

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