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長編

絶望の世界(上篇

匿名 2018年10月8日
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序章 11月8日(日) 晴れ 今日はホームページ開設記念日です。日記を付ける決意をしました。 学校での嫌な事とかもきちんと書いていくつもりです。 僕の周りの人は僕がインターネットをやってる事を知りません。 知ってる人に見られる心配が無いので自由に書けます。 頑張ります。 第一週 「跫音」 11月9日(月) 晴れ 今日はお弁当に虫が入ってました。後ろの席の奥田が笑ってます。 どうやら奥田が虫を入れたようです。虫は箸でつまんで捨てました。 ご飯が茶色くなってましたがもったいないのできちんと食べました。 少し苦かったです。 11月10日(火) 晴れ 昨日虫入りのお弁当を食べたせいで僕のあだ名が「虫」になりました。 奥田が言い始めたんですがいつの間にかみんな真似してます。 やっぱりご飯粒の隙間に入ってた虫の足も捨てるべきでした。 ちぎれた足まで取り除くのが面倒だったので一緒に食べてしまったんです。 後悔してます。 11月11日(水) 晴れ 「虫」というあだ名が定着しそうです。他のクラスの人達まで僕を「虫」と呼びます。 奥田が特にしつこいです。あまりにしつこいので黙ってました。 そしたら「虫なだけに無視すんのか?ヒヒヒ」なんてくだらないことを言ってました。 奥田にはギャグのセンスがないと思いました。 つまんないです。 11月12日(木) 曇り 朝、学校に行ったら僕の机に大きく「虫」と彫られてました。彫刻刀で彫った様です。 削りカスもそのままになってます。チクチクしてとても嫌でした。 奥田が彫刻刀を持って机を彫る真似をしてきましたが、また黙ってました。 そしたら「シカトすんじゃねぇ」と叫んで僕を殴りました。 痛かったです。 11月13日(金) 曇り 13日の金曜日。とうとう僕を本名で呼ぶ人はいなくなりました。 目の前で奥田が出席簿の僕の名前の部分を修正液で消してます。 上から「虫」と書いて僕に見せてきました。連絡簿や下駄箱の名札もやられました。 もうこの学校に岩本亮平という人間はいません。 僕は虫です。 11月14日(土) 晴れ 机の中に虫が入ってました。セロテープで「お前の友達」と書いた紙が貼ってあります。 奥田の字でした。セロテープをはがすと皮も一緒にはがれました。 まだ生きてましたが指でゆっくりつぶしてやりました。 汁の垂れる感じがとてもかわいらしく、何度も何度もグリグリしました。 快感です。 11月15日(日) 晴れ 学校がない日がこんなに待ち遠しいと思ったことは初めてです。 親も僕の心のSOSをキャッチしてくれません。 唯一妹の早紀だけが「お兄ちゃん最近元気ないね。何かあったの?」と気遣ってくれます。 僕は「別に。」と答えて自分の部屋に入りました。泣きながら早紀の似顔絵を描きました。 切ないです。 第二週 「浸食」 11月16日(月) 雨 ホームルームの時間、クラスのいじめ問題について話がありました。 クラス委員の荒木さんが「最近このクラスでいじめがあります。」と言ってました。 その時後ろから紙が回ってきました。「お前の事だろ?」と書いてあります。 奥田がクスクス笑いながら机の下から蹴ってきます。 放課後、荒木さんは奥田達のグループに囲まれてました。 見なかった事にします。 11月17日(火) 曇り 荒木さんの眼鏡がなぜか壊れてました。理由は分かりません。 学級掲示板に張ってあった「いじめ、カッコワルイ。」のポスターもはがされてます。 ポスターは僕の机の中にグシャグシャになって入ってました。 奥田に「そのポスター、いじめられてるヤツがカッコワルイって意味なんだぜ。」と言われました。 知らなかったです。 11月18日(水) 曇り 今朝、机の中に手紙が入ってました。「放課後教室に残ってて下さい。荒木。」と書いてあります。 放課後荒木さんに会うと、突然壊れた眼鏡を投げつけられました。 「アンタのせいよ!」と叫んでます。荒木さんはそのまま走り去ってしまいました。 帰り道、奥田と荒木さんが一緒にいるのを見つけました。 訳が分からないです。 11月19日(木) 曇り 奥田に荒木さんの壊れた眼鏡の修理代を請求されました。何故奥田になんでしょうか。 それに僕は荒木さんの眼鏡を壊した記憶は有りません。実に不思議です。 レンズ代込みで3万円持ってくるように言われました。貯金をおろさないと払えません。 横から荒木さんがやってきて「私は悪くない。虫が悪いのよ・・・。」とつぶやいてました。 僕が悪いらしいです。 11月20日(金) 晴れ 3万円を奥田に渡しました。でも今度は荒木さんの新しく買う眼鏡代を請求されました。 結構高いのを買うらしく、5万円持ってくるよう言われました。そんな大金有りません。 荒木さんは昨日から目を合わせてくれません。やっぱり僕が悪いせいでしょうか。 それにしても僕の何が悪かったのでしょう。昔上履きを嗅いでたのがバレたのでしょうか。 誰にも見られてないハズです。 11月21日(土) 晴れ 5万円用意出来なかったので奥田には代わりにガムをあげました。殴られました。 その後何人もやってきて囲まれました。中には荒木さんもいます。 皆に蹴られてる最中、荒木さんは僕へのいじめを非難した為に奥田に殴られた事を知りました。 今、荒木さんは僕を蹴ってます。その目はとてもとても充実していました。 良かったです。 11月22日(日) 曇り 結局僕が女の子の上履きを嗅いでた件はバレてませんでした。 一応机の奥の引き出しに隠してた持って帰ってきた上履きは全部捨てました。 荒木さんの上履きも有ったので舐め回してから捨てておきました。 僕のコレクションは上履きだけでないので寂しくありません。でもいじめは無くならないと思います。 複雑です。 第三週 「激化」 11月23日(月) 晴れ 今日は休日なので学校が有りません。一日中家にこもってました。 早紀が友達と遊びに行ってしまったので僕は独りでした。親とは必要最低限の事しか会話しません。 早紀には友達がたくさんいてうらやましいです。クラスではかなりの人気者らしいです。 僕には友達がいません。まともに話してくれる人は早紀だけです。 学校の人達は嫌いだけど女子の使ってるモノは大好きです。それだけが学校に行く理由です。 僕はまだ大丈夫です。 11月24日(火) 曇り 学校に行ったら、僕は人気者になってました。 教室に入るなり奥田が「みんなー!虫が来たぞー!」と声を上げました。 すると何故か盛大な拍手で迎えられてました。そして僕の行動全てを奥田が説明します。 話しかけようとしても奥田が「今虫が何か言ってます。独り言でしょうか。」と言って誰とも話せません。 不思議です。 11月25日(水) 曇り 僕が歩くと道が出来ます。みんなが避けてるのかと思ったらそうでもありませんでした。 たまにすれ違いざまに頭を叩いていく人が何人かいます。蹴っていく人もいます。 その人達はみんな奥田から「虫に触れた勇者」として賞品をもらってました。 教室の黒板には隅に「虫に触れた人はアルコールできちんと消毒しましょう。」と書かれてありました。 胸が苦しいです。 11月26日(木) 晴れ 教室に入るときは相変わらず虫コールで迎えられます。でも帰りはほったらかしにされます。 寂しいので誰もいない放課後に女の子のロッカーをあさってました。 体操着とかは全部持って帰ってしまったらしく、仕方ないので上履きを取りに行きました。 今日は何故か異様に興奮してしまいしゃぶりついてました。いじめの反動でしょうか。 落ち着きます。 11月27日(金) 曇り 奥田に見られました。写真を撮られた瞬間に気づきました。 放課後も僕を尾行していたらしいです。上履きを口に含んだまま呆然としてしまいました。 奥田は大笑いしながら「明日を楽しみにしてな。」と言ってました。もうどうしようもありません。 僕は声をあげて泣きました。随分長く泣いてた気がします。誰もいない放課後。誰も慰めてくれません。 時間を戻して欲しいです。 11月28日(土) 雨 朝、早紀が途中まで一緒に行こうと言ったので学校に行ってしまいました。本当は休むつもりでした。 学校中に昨日の写真が貼ってあります。教室に入ると冷たい視線で迎えられました。異様に静かです。 机には男物の上履きがたくさん詰まってました。誰かが「虫は死ねよ。」と言ってるのが聞こえました。 暴力的ないじめから陰湿ないじめに変わり、完全に無視される様になりました。露骨に避けられます。 唯一奥田だけが話しかけてくれました。「学校休んだら家に写真送る。」と言われました。 逃げられません。 11月29日(日) 晴れ 今日は休息の日。明日は学校に行かなければなりません。そうしないと早紀にもバレてしまいます。 僕は決して悪いことをしたとは思ってません。少し人と違った趣味を持ってただけです。 でも早紀には知られたくないです。その為なら僕は何だってします。 今日も早紀を見るだけで救われた気分になりました。もう僕には早紀しか残されてません。 他には何もないです。 第四週 「天誅」 11月30日(月) 雨 いじめは陰湿になったと思ってたら違いました。ますます暴力的になってました。 休み時間ごとにトイレに呼び出されて酷いことばかりさせられます。思いだしただけで気持ち悪いです。 何故こんなことになってしまったんでしょうか。このままでは僕は死んでしまいます。 全ての発端は奥田。あいつが僕の弁当に虫を入れたのが始まりです。 奥田が僕を虫と呼んだせいです。奥田が荒木さんを殴ったせいです。奥田が写真を撮ったせいです。 全部奥田のせいです。 12月1日(火) 曇り 僕はただひっそり生きたいだけだったのに。もう耐えられません。でも僕に死ぬ勇気は有りません。 今日奥田が「今度お前の妹に例の写真見せてやるな。」と言ってました。 それだけはさせるわけにはいきません。そんな事されたら終わりです。絶対に止めないと。 奥田は僕の全てを奪うつもりです。プライドはもう奪われました。お金も。名前も。 早紀だけは、渡さない。 12月2日(水) 天気なんかどうでもいい ・・・・・・・・・・・・・・・・・。 aaaaaaaaaaaaaa ・・・・。 12月3日(木) aaa 殺してやる。 12月4日(金) 雨 奥田が死にました。駅のホームから転落したそうです。バラバラに砕け散りました。 巷では「黒いマフラーの男が突き落とした」と噂になってますが実際に見た人はいません。 皆死体ばかり見てて犯人を捜そうとした人はいなかったそうです。民衆は無責任です。 証言も曖昧なため警察は事故死と判断して捜査を打ち切りました。 奥田の死は神様が下した天罰だったのではないでしょうか。奥田はあまりに悪いことをし過ぎました。 僕に対するいじめもちゃんと神様が見てくれていたんです。神様ありがとう。 満足です。 12月5日(土) 曇り 奥田のいない学校は何故か寂しく感じます。奥田がいなくなって一番嬉しいのは僕のはずなのに。 いじめはなくなりましたが誰にも相手にされなくなりました。僕はただ空気と同じ存在になってます。 耐え難い喪失感が僕を襲います。何も奪われない、何も得られない時間が過ぎていくだけでした。 思い返してみると、この4週間ほど他人に構ってもらった日々は今まで有りませんでした。 奥田は「いじめ」という形で僕に光を与えてくれたのかもしれません。 それとも僕は奥田の暴力を愛していたのでしょうか。今となっては確かめる術は有りません。 僕はまた、闇に帰るだけです。 12月6日(日) 晴れ 誰にも言えない僕の秘密。 部屋に掛かった黒いマフラーを見るたびに、僕はグシャグシャになった奥田の姿を思い出します。 それ以上のことは思い出せない。 思い出さない。 第五週 「遺産」 12月7日(月) 雨 僕は学校に行かなくなりました。どんな顔で行けばいいのかもわかりません。 本当は皆に言わなくちゃいけないことが有るのに。でも僕は言いません。言いたくありません。 ここ数日で色々なことが有り過ぎました。考える事が多すぎてもう疲れました。 しばらく家で早紀の顔を見て落ち着いてるつもりです。 動きたくないです。 12月8日(火) 晴れ 生活指導の杉崎先生が僕の家にやってきました。何の用かは分かりません。 親が応対したんですが僕はずっと寝てるフリをしてました。明日も来ると言ってたそうです。 わざわざ家に来るまでの用って何だったんでしょうか。気になるので明日は会ってみるつもりです。 先生は奥田の死と僕が学校に行かなくなったことに何か因果関係があると思ってるのでしょうか。 疑問です。 12月9日(水) 曇り 杉崎先生に会いました。すると僕にデジカメをくれました。奥田のロッカーに入ってたものだそうです。 何故こんなものを見つけたのかはすぐに分かりました。先生はいじめの事実を消すつもりです。 「ウチの学校はなるべくクリーンなイメージでいきたいんだよ。」と言ってました。 以前校内に張られた僕の痴態が写った写真はデジカメをプリントアウトしたものだったそうです。 自分でデジカメを始末したら足がついてしまうとでも思ったのでしょうか。僕に始末させるつもりです。 大人は卑怯です。 12月10日(木) 曇り 今日も杉崎先生が家に来ました。「いじめの事は黙っとけ」みたいな内容の話ばかりでした。 ただ、話の最中先生はずっと僕のことを疑惑の視線で見てました。なんだか照れくさいです。 そして別れ際、「・・・お前が殺ったんだろ?」と言われました。僕は何も答えられませんでした。 僕が黙ってると、先生は「しばらく学校には来なくていい。」と言って帰ってしまいました。 言われなくても行く気ないです。 12月11日(金) 曇り 改めて奥田のデジカメを見てみました。上履きをくわえた僕の姿が何枚も写ってます。 普通の人が見たら気持ち悪くてすぐスイッチを切っちゃうだろうな、と思いました。 おそらく杉崎先生もそうしたと思います。同じ男としても僕の性癖は理解できないかもしれません。 デジカメの画像を全部見たのは奥田以外で僕だけでしょう。きっとそうです。 だから僕はアレを・・・見つけられたんです。 12月12日(土) 晴れ もう1度落ち着いてデジカメの画像を見てみました。アレをじっくり見るためです。 最初は上履きくわえた僕が写ってます。メモリを遡っていっても僕の痴態ばかりです。 殴られてる僕、泣きべその僕など、僕の知らないうちに結構撮られてました。 そして、ある日を境にまったく別の画像が写ってたんです。奥田が・・・・女の子を・・・・犯してました。 ハメ撮りでした。相手の子の泣き叫ぶ表情も鮮明に写ってます。 気づいたら僕は自慰にふけってました。知ってる人の性行為は異常なほど興奮します。 僕はすぐに果てました。 12月13日(日) 曇り 頭からあの画像が離れません。他人の性行為は今まで本とビデオでしか見たことありませんでした。 でも、アレを見ると性に対する妙な現実感が沸いてきます。決して違う世界の事じゃないんです。 僕自身が奥田と同じことをできるんだと思うと、ますます興奮してしまいます。 相手がいれば僕にもできます。相手がいれば。僕の相手は・・・・・・・・・・・・・・・早紀? 早紀と、したいです。 第六週 「歪曲」 12月14日(月) 晴れ 妹と性行為を行いたいと思うのは間違ってるんでしょうか。人としてやってはいけない事かもしれません。 やはり思い止まるべきです。早紀へは兄として愛情を注げばいいんです。それが自然だと思います。 それに僕は自分の性器に自信がありません。早紀に見られるなんて恥ずかしいです。 早紀にだけは僕のみっともない姿を見られたくないです。だから性行為なんかできません。 我慢します。 12月15日(火) 晴れ いつ見ても早紀はカワイイです。同じ兄弟とは思えません。でも間違いなく兄弟です。 たぶん早紀は僕が持つはずだった良い遺伝子を全部持って生まれたんだと思います。 だから残りモノの僕はこんなダメ人間なんです。親が遺伝子の分配を間違えたんです。 僕の遺伝子を早紀が受け取れば本当の僕が生まれてくるかもしれません。 確かめたいです。 12月16日(水) 晴れ 今日はヨドバシに行ってデジカメとパソコンを繋ぐケーブルを買いに行きました。 本来なら学校に行ってなきゃいけない時間に外をウロウロするのは少しドキドキします。 家に帰ったら早速例の画像をパソコンに取り込みました。これでプリントアウトもできるようにます。 女の子の表情も誰なのかはっきりわかる程うまく撮れてます。奥田は写真屋になれたかもしれません。 興奮します。 12月17日(木) 曇り デジカメの僕が写ってる部分を削除しました。奥田の強姦画像は残してあります。 これで僕の痴態がこれ以上出回る事はないと思います。早紀に見つかる可能性も減りました。 学校に出回ってるのはそのうち捨てられてしまうと思います。僕が行かなきゃ存在価値のないモノです。 過去のみっともない姿が消えたおかげで、僕は早紀に近づく権利を得た気分になりました。 嬉しいです。 12月18日(金) 曇り 早紀をデジカメで隠し撮りしてパソコンに取り込んでみました。壁紙にするととても良い気分になります。 ネット上ではアイコラというモノが反乱してます。フォトショップとかで作ってるらしいです。 僕のパソコンにはフォトショップがインストールされてます。気づいたら僕は早紀コラを作ってました。 本物の早紀の胸もこんなに膨らんでるんでしょうか。肌は綺麗こんなになんでしょうか。毛はこんなに。 もう止まりません。 12月19日(土) 晴れ お風呂に入るとき、常に早紀の後に入るように心がけるようになりました。 早紀のつかったお湯に浸ると言いようのない一体感に包まれます。とても気持ち良いです。 お湯を飲むと早紀の味がします。早紀のエキスがたっぷり溶け込んでいるからだと思います。 なぜ僕と早紀は兄姉なんでしょうか。他人ならこんなに歪んだ愛情を抱かずに済んだのに。 神様、あんまりです。 12月20日(日) 曇り 妹を好きになってしまうのは僕だけじゃないはずです。だから僕が早紀が好きなのは普通のことです。 僕は奥田みたいに女の子を強姦したりはしません。早紀にそんなことはしないつもりです。 早紀は僕のことをどう思ってるのでしょうか。きっと僕が早紀を想う様に早紀も僕を想ってるはずです。 小さい頃早紀は僕の真似ばかりしてました。だからこの気持ちも真似してるはずです。 絶対そうに決まってます。 第七週 「崩壊」 12月21日(月) 曇り もうすぐクリスマスです。早紀に何をプレゼントしてあげようか考えてます。 僕にはお金がないのであまり高いのは買えません。どうしても小物になってしまいます。 早紀はちょっと幼い感じがするのが似合いそうです。ヌイグルミとかブローチとかいいもしれません。 早紀の喜ぶ顔が目に浮かんでホクホクした気分になります。明日ハンズに行って決めてきます。 楽しみです。 12月22日(火) 晴れ 結局ハンズでオルゴールを買ってきました。もちろんプレゼント用に綺麗に包んでもらってます。 音色がとても純粋な感じがして、早紀にはぴったりだと思ったのでオルゴールに決めました。 考えてみると今まで早紀にここまで心のこもったプレゼントをしたことはありませんでした。 早紀に対するこの気持ち、これこそが純愛なのかもしれません。もう迷いは有りません。 僕は早紀を愛してます。 12月23日(水) 晴れ 普段は妄想に浸ってばかりの僕も、早紀の前だとそんな気分じゃなくなります。 早紀と話す時、僕の中汚れてない部分が暖かくなる気がします。とても気分が良いです。 僕にもまだ純粋な気持ちが残ってるんでしょうか。僕はまだ堕ちるところまで堕ちてないんでしょうか。 早紀がいてくれれば、僕は踏みとどまれます。虫じゃなく人として生きていけます。 明日が待ち遠しいです。 12月24日(木) 曇り クリスマスイヴです。楽しくなる予定だったのに早紀の様子がおかしいです。 朝、早紀は終業式に行きました。 昼、早紀が帰っきたあと、杉崎先生が家に僕の成績表を持ってきました。早紀に渡して帰ったそうです。 夕方、僕は早紀から成績表を受け取りました。何故か無言でした。 夜、プレゼントを渡そうと早紀の部屋に行ったら「来ないで!」と言われました。 そのあと「私お兄ちゃんが何したのか知ってるんだからっ!」とも言われました。 何が起こったんでしょうか。 12月25日(金) 曇り 早紀が何を知ったのか分かりません。訳がわからないままクリスマスになってしまいました。 聞こうとしても無視されます。でもただ一言「杉崎先生言ってたよ・・・」とだけ口を開いてくれました。 昨日、僕の成績表を受け取る時、先生に何か言われたに違い有りません。一体何を。 杉崎先生は僕に奥田のデジカメをくれました。デジカメには僕の痴態が写ってました。 学校にはそれがプリントアウトされたモノが散乱してました。先生も持ってるかもしれません。 まさか。 先生は、早紀に、それを、僕の痴態を、上履きをくわえた僕の姿を、見せ、た? 僕がいじめられてたのを、僕が異常な性癖を持ってたのを、早紀に、言った? 知られた? 12月26日(土) 晴れ 早紀と話し合いたいのに相手にしてくれません。「お兄ちゃん、最低だよ。」と言われました。 もう間違いなく早紀は僕の恥ずかしい行為を知ってます。今更言い訳も出来ません。 早紀に教えた先生が憎い。写真を撮った奥田も憎い。でも早紀を嫌いにはなれない。まだ愛してます。 僕はオルゴールを叩き割りました。ガシャン、と高い音がして床に破片が飛び散りました。 僕の中で何か弾けました。 12月27日(日) 曇り 床には昨日のオルゴールの破片がまだ散らばってます。片づける気にもなりません。 僕の心の綺麗な部分もオルゴールと一緒に砕けてしましました。二度と戻りません。 でも不思議なことに、残骸を眺めてると先生や奥田への憎悪が消えていきます。 代わりに早紀への愛が急騰します。僕の汚い部分を知られた今、恥ずかしがる必要は有りません。 早紀は知ってるんだから。僕がいじめられてた事を。僕の異常な性癖を。もう全て知られてもいい。 愛情も欲望も隠しません。 第八週 「散花」 12月28日(月) 晴れ 年末から年始にかけて両親が帰省します。早紀は受験勉強のため行きません。 僕がそんなイベントに参加するわけがありません。だから明日からは早紀と二人きりです。 早紀とは必要以上の会話しかしてませんが、心は通じ合ってると信じてます。 心だけじゃ足りない。体も通じ合わないと。愛さえ有れば何をしても構わないはず。 僕には愛がある。 12月29日(火) 曇り 両親が帰省しました。帰ってくるのは今週の土曜日です。もっと遅く帰ってきてもいいのに。 これで邪魔者は居なくなりました。早紀には素直に僕の気持ちをぶつけることができます。 早紀の作った晩ご飯、とてもおいしいです。早紀の沸かしたお風呂、とても良い加減です。 早紀の使った歯ブラシ、とてもおいしいです。早紀の性器、きっと良い加減です。もう我慢できない。 早紀と、1つになりたい。 12月30日(水) 謎 早紀・・・・・・・・・・・・・・・・。 12月31日(木) 早紀 早紀早紀僕早紀早紀早紀はお前早紀早紀が早紀早紀早好き紀早紀で好き早紀早紀早で紀早紀 早紀早紀早紀早紀たまら早紀早紀早紀な早紀い早紀早紀早紀早紀早紀早紀早紀早紀早紀早紀 1999年  1月1日(金) 晴れ 早紀を犯しました。年明けのカウントダウンと同時に襲いました。 テレビのボリュームを大きくして近所に悲鳴が聞こえないようにしました。 年に一度、この時間だけはほとんどの家庭がテレビをつけています。声はテレビの音に消されました。 している最中、何故か僕は妙な既視感を感じました。僕は童貞だったのに。何処かで同じ様な事が? ・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・奥田のレイプ画像。僕は奥田と同じ事をしてたんだ。 でも僕は奥田とは違う。僕には愛が有ります。愛ゆえに犯した。早紀が僕だけを見て欲しいから。 好きだから。愛してるから。僕には早紀しいないから。時間がたてば早紀だってわかってくれる。 今、早紀は部屋で寝込んでます。事が済んだ後、早紀はフラフラと部屋に戻ってしまいました。 目をつぶると泣き叫ぶ早紀の顔が浮かんできます。喜んでくれると思ったのに。 一つ残念なのが、早紀が処女じゃなかった事です。ちくしょう。相手は誰だ。早紀は僕のだ。 早紀は僕だけのモノ。 1月2日(土) 曇り 早紀が壊れてしまいました。どんなに話しかけても反応が有りません。ただ宙を見つめるだけです。 帰ってきた親はびっくりしてました。何があったのか聞いてきます。本当の事なんか言えません。 「昨日早紀は一人で初詣に行った。帰って来た時にはもう様子がおかしかった。」と言っておきました。 親は警察に連絡して調べてもらってましたが、年始は犯罪が多い為あまり相手にしてくれません。 肝心の早紀が喋れる状態じゃないので捜査は行き詰まりそうです。 早紀が壊れて悲しいはずなのに、僕は何故か安心してます。警察に捕まりたくないからじゃない。 早紀は他の人との交流を断って、僕だけを見てくれてるんだ。だから僕は安心して早紀を愛せる。 早紀にはもう、僕しかいない。 1月3日(日) 晴れ 早紀は病院に入院することになりました。 家にいないのは寂しいけど、会いたい時はいつでも会えます。 早紀はもう何処にも行かない。何処にも行かせない。 早紀、もう離さないよ。 第九週 「浮遊」 1月4日(月) 曇り なんだか心がフワフワします。落ち着かなくて言いようのない不安感に襲われます。 外をぶらついてみても、何故か誰かに見られてる様な気がしてなりません。 僕は何も悪いことをしてないはずなのに。この罪悪感は何なんでしょう。 何かしなくちゃいけない気もするけど、何をしていいのか分からない。 この感覚、とても不愉快です。 1月5日(火) 曇り 今日も気持ちが落ち着きません。早紀に会えば気が紛れるかと思ったので病院に行ってみました。 早紀は未だに壊れたままです。それでも早紀と一緒にいるだけで落ち着きます。 早紀の服を脱がせて自慰をしました。爽快感に包まれてとても良い気分です。 なのに帰り際、とてつもない虚しさを感じました。自分がどうしようもない駄目人間に思えてしまいます。 何故なんでしょう。 1月6日(水) 曇り やる気のない日々が続きます。気分転換にフラフラと外を出歩いてみました。 正月映画でも見ようかと映画館に行くと、荒木さんとその友人の渡部さんを見かけました。 目が合ったんですが彼女達は無関心といった感じで何処かに行ってしまいました。 僕も無視していこうかと思ったけど、何故か彼女達から目を離せませんでした。 変な違和感を感じます。 1月7日(木) 晴れ 昨日の違和感が何だったのか分かりました。簡単な心境の変化です。 荒木さん達を見かけた後、僕は一昨日まで感じてた不安感が薄れていたのに気づいたんです。 今、僕は前に比べてかなり落ち着いてます。むしろ安堵感さえ感じてます。 その理由はなんとなく分かりました。明日からまた学校が始まります。 行ってみようかと思ってます。 1月8日(金) 雪 久々に学校に行きました。緊張気味に教室に入ったんですが変わった事は何も有りませんでした。 みんな僕を見ても特別な反応は無く、「なんだ来たのか」みたいな感じばかりでした。 杉崎先生と目が合った時もちょっと嫌な顔をされただけで特に何も言われなかったです。 帰る時、僕の下駄箱に「虫うぜぇ。学校来んな。」と書いた紙が入ってました。 誰が書いたんでしょう。 1月9日(土) 曇り イジメが再発しそうです。でも僕は以前の僕と違う。今度は耐えられるはずです。 奥田はもう居ない。それに僕には切り札が有る。どうしても我慢出来なくなったらアレを使えばいい。 数日前まで感じてた不安感は今ではもうほとんど感じません。学校に行ったおかけです。 僕にしか出来ない事が存在する、ということがこんなに清々しいものだとは思いませんでした。 素晴らしいです。 1月10日(日) 曇り 早紀に会いに行きました。白い顔をして眠ったままの早紀は、一体どんな夢を見ているんでしょうか。 早紀は夢の世界へ行ってしまいましたが僕は現実を生きなければなりません。 イジメられる。いや、むしろいじめて欲しい。僕に屈辱を与えて欲しい。耐えられないくらいに。 僕が惨めな思いをすればするほど、あとの楽しみが大きくなっていきます。 早く学校に行きたいです。 第十週 「煮沸」 1月11日(月) 晴れ 学校に行くと、机の配置がおかしくなってました。皆の机は僕の机を避けるように離れてます。 授業中、ヒソヒソと話し声が聞こえます。「なんか虫の奴臭くない?」「臭いよね。机離して良かったね。」 渡部さんと荒木さんでした。渡部さんは周りの人たちにも「やっぱ臭うよね。」とか言ってます。 僕は直感しました。この前、下駄箱に紙を入れたのは渡部さんだ。渡部さんが僕をいじめる。 女の子にいじめられるなんて。 1月12日(火) 曇り 女の子のイジメは陰湿です。体育の時間、教室に戻ってきたら僕の鞄が消えてました。 捜してると渡部さんが「何か捜しモノ?」と白々しく聞いてきます。「鞄、捜してる。」と答えました。 渡部さんが言いました。「それならさっきトイレで見たわよ。女子の方でね。」と。 僕は女子トイレに駆け込みました。後ろで「変態!」「痴漢!」とか聞こえるけど気にしてられません。 ご丁寧に個室一つ一つそれぞれに鞄の中身が落ちてました。もちろん全て便器の中です。 水道で鞄を洗いましたが臭いだけは取れませんでした。お気に入りの筆箱も、ノートも、まだ臭います。 僕の机はますます孤立しました。 1月13日(水) 曇り ホームルームの時間、渡部さんが「クラス委員から話があるそうです。」と言いました。 それに反応して荒木さんが「昨日女子トイレに入った男子がいるそうです。」と言います。 皆が僕を睨み付けました。「虫!アンタでしょ!」と渡部さんが叫んでます。 酷い。誰のせいで女子トイレに入るハメになったと思ってるんだ。自分で追いつめたくせに。 僕は黙ってうつむいてました。なんか目が暖かいと思ったら、涙が溢れてました。 周りの罵声が遠く感じます。 1月14日(木) 曇り 僕の弁当に黄色い液体がかかってました。変な臭いがします。よく見たら小便でした。 渡部さんの仕業だと思います。ということは、渡部さんの小便? 僕はご飯をむさぼりました。おいしい。股間に血が集まっていくのが分かります。 全てたいらげると、横から渡部さんが囁いてきました。「どう?野良犬のオシッコふりかけは。」 トイレで全部吐きました。 1月15日(金) 雪 僕はお腹で虫を飼っています。こいつは僕の負の感情を喰って育っていく。 虫が育つたびに、僕は快感を得ます。そろそろ育ちきるんじゃないでしょうか。 そうなったら僕自身も喰われるかもしれません。でも僕はそれを望んでる。 喰われると言ってもそんな派手なことにはならないはずです。ただ「やれ。」と命令されるだけ。 その日は近い。 1月16日(土) 曇り 僕の上履きに何か入ってました。知らずに履いた為、中のモノはぐちゃりと音をたてて潰れました。 渡部さんと荒木さんがやってきて何かを探してます。「私達のハムちゃん知らない?」と聞いてきました。 僕が「ハムちゃんて何?」と聞き返すと、渡部さんがニヤリと笑って荒木さんをつつきました。 荒木さんが「生まれたてのハムスター。最近飼い始めたの。」と説明してくれました。 足の裏から嫌な感触が全身を覆います。ゆっくり上履きを脱ぐと、そこには、血と、肉の塊が。 それから先は良く覚えてません。あの二人に何か言われた気もするけど、頭の中は真っ白でした。 お腹が疼きます。 1月17日(日) 晴れ 僕の中の虫が「やれ。」と命令してきました。ヤツはもう完全に僕を喰ってしまったようです。 僕は準備を整え、明日に備えました。明日から世界が変わります。待ちに待ったお仕置きタイムです。 今までのイジメを思い出すと、震えるほど楽しくなってきます。準備は万端です。 士気を高めに早紀に会いに行きました。まだ寝たきり状態ですが心の中では応援してくれてるでしょう。 いよいよです。 第十一週 「逆転」 1月18日(月) 曇り 僕の下駄箱に「ハムちゃんの墓」と書いた紙が貼ってありました。かわいらしくレタリングされてます。 上履きの中には腐りかけたハムちゃんの残骸が入ってましたが、手でつかんでゴミ箱に捨てました。 教室に入ると都合良く荒木さんは独りで座ってました。僕は彼女の前に立ち、アレをちらつかせました。 荒木さんは目を丸くして僕を見上げました。かすれた声で「なんでそれを・・・・。」と呟いてます。 僕が耳元で「奥田のようになりたい?」と囁いてやると、青ざめた顔でプルプル震えてました。 どうしてやろうか。 1月19日(火) 晴れ 体育の時間、教室に戻ってきた荒木さんが何か捜してました。 焦ってる様子なので「何か捜しモノ?」と聞くと、荒木さんは「鞄が無いの・・・・。」と答えました。 僕は親切に捜しモノの場所を教えてあげました。「それならさっきトイレで見たよ。男子の方で。」 荒木さんは顔を真っ赤にしながら男子トイレに駆け込んでました。後ろで男子があっけにとられてます。 水道で鞄を洗ってましたが臭いだけは取れなかったようです。筆箱も、ノートも、僕の席まで臭ってます。 爽快です。 1月20日(水) 曇り 昼休み、荒木さんがお弁当を食べようとすると、そこには白いドロドロした液体がかかってました。 荒木さんはびっくりして僕を見ました。僕はアレをちらつかせて「ちゃんと食べなよ。」と言いました。 食べてる。無理矢理口に押し込んで。その液体が何なのか知らないわけがないのに。凄い。 全部食べ終わったと思ったら、その場で戻してました。机が嘔吐物にまみれてます。 クスンクスン泣きながら雑巾で机を拭いてる荒木さんの姿は、とても健気に見えました。 眩しいです。 1月21日(木) 晴れ 渡部さんが荒木さんの事を心配してました。僕は横で会話を盗み聞きしてました。 「最近なんか変だよ。また誰かに何かされた?」「別に。平気だよ。」「でも・・・・・・虫!何聞いてるの!」 気づかれた。「まさかあんたが・・・・・・。」「違うよ!岩本君は関係ない!」と荒木さん。 岩本君。久々にその名を聞いた気がずる。いや、そう呼ばれたのは初めてかもしれない。素晴らしい。 まだ何か言いたげな渡部さんを、荒木さんは力無い笑顔で「私は大丈夫だから。」となだめてました。 友情って素敵です。 1月22日(金) 曇り 放課後の教室。荒木さんが倒れてます。僕の足の下に。他には誰もいません。 「もう許して・・・・。」とかすれた声で呟いてます。制服には僕の足跡が何カ所かついてます。 許すもんか。お前は渡部さんとつるんで僕に何をしてきたんだ。僕をいじめたじゃないか。 「よくも、よくもいじめたな!お、お、お仕置きしてやる!」自分でも信じられないほど僕は叫んでました。 これまでのいじめを思い出してしまい、僕は泣いてました。荒木さんも泣いてました。涙が止まりません。 以前僕は荒木さんに蹴られた。今は僕が荒木さんを蹴ってる。でも何故か満足感は得られない。 何故。まだ足りないんでしょうか。僕と同じ目にあわせないといけないんだ。同じ目に、あわせてやる。 僕はすすり泣く荒木さんを後目に教室を出ました。家に帰り、明日の為の用意をしました。 見てろ。 1月23日(土) 晴れ 朝、荒木さんが登校すると、学校中に写真が貼られてました。正式にはデジカメの画像を印刷したもの。 奥田に犯される荒木さんの画像です。 僕がそれを手に入れたのは偶然でした。 杉崎先生には本当に感謝してます。コレを手に入れたおかげで荒木さんを追い込む事が出来たから。 ああ、荒木さんが泣いてる。耳を真っ赤にして写真を一つ一つはがして回ってます。いじらしい。 学校に来なければいい、なんてのは素人の考えです。行かなきゃもっといじめられる。僕もそうでした。 これで荒木さんは僕と同じ立場になれたわけです。虫だった僕にも仲間が出来た。 もう独りじゃない。 1月24日(日) 雨 僕の中にいる虫の存在を感じなくなりました。消えてしまったのでしょうか。それとも僕と同化したのか。 なんとなく早紀に会いに行きました。荒木さんのことを報告しても、返事は返ってきませんでした。 早紀と結ばれたとき、僕は何かとてもいけない事をしてるように感じたのを覚えてます。 その時は僕の中の虫がその気持ちを食べてしまいました。だから罪悪感は感じてません。 今回、荒木さんにしたことも本当はとても非道いことかもしれない。でもそんな意識はありません。 やっぱり僕自身が虫になってしまったんだ。 第一二週 「断罪」 1月25日(月) 雨 荒木さんが学校に来てない。おかしい。どんなにいじめられても学校には来るはずなのに。 僕は急に不安になってきました。何かとんでもないことになりそうな予感がします。 気がつくと、渡部さんが僕の机の前に立ってました。見下した様な目で僕を見てます。 「荒ちゃんから聞いたよ。」・・・・・・・何を聞いたんだ。「アンタがやったんだってね。」・・・・・・・だから何を。 「親に知られたんだって。」・・・・・・・知らない!僕は何も知らない!僕は何もやってない! 渡部さんはそれきり何処かへ行ってしまいました。残された僕は独り怯えてました。 大丈夫。僕には最期の手が残ってる。イザとなったらあの事を喋ってしまえばいいんだ。 荒木さんのもう一つの秘密。あの事に比べたら僕のしたことなんて大したことじゃない。 絶対に大丈夫。 1月26日(火) 晴れ 今日も荒木さんは来ない。どんどん不安が大きくなっていきます。 また渡部さんが僕の所へやってきました。今度は何を言いに来たんでしょうか。 「荒ちゃんには反対されたんだけど、私はやるつもり。」・・・・・・・・何を。何をするつもりなんだ。 「虫、アンタもう終わりよ。」・・・・・・どうゆう意味だ。なんで僕が終わりになっちゃうんだ。 それだけ言い残して行ってしまいました。何が起こるのか、なんとなく予想がついてしまいました。 大丈夫大丈夫大丈夫。でも不安が消えない。大丈夫だって分かってるのに。押しつぶされそうだ。 早紀、助けて。 1月27日(水) 曇り 予想が当たった。今家の前に来た車は間違いなく警察だ。呼び鈴が聞こえる。 僕は法に触れるようなことは何もしてない。あの事だって全部喋ってしまえば僕の罪にはならない。 親が玄関で応対してる声が聞こえてくる。ああ、今確かに「警察の者ですが。」と聞こえた。 大丈夫。たぶん大丈夫。僕はいじめられてたんだ。仕返しをして何が悪い。写真くらいで騒ぐなんて。 待てよ。その事じゃないかもしれない。・・・・・そうだ。やっぱりあの事だ!それなら警察が動くのも当然だ! 渡部さんはあの写真を警察に持ち込んだんだ!それで警察はあの事を確信して僕の所に! なんだ。なら安心じゃないか。渡部さんの思惑通りにはならない。僕は僕は絶対に大丈夫なんだ! 親が階段を上がってくる。僕の名を呼んで。そんなにあせらなくても僕は逃げないよ。 行ってやる。そして全てを喋ってやる。そうすれば間違いなくあの娘は破滅だ。けけけけけけけけけけけ。 知らないよ!人が破滅しようが僕の知った事じゃない!僕が大丈夫ならいいんだよ! 僕は大丈夫!へへへ。大丈夫!良い響きだ。えへへへへへへへへへへへへ。大丈夫大丈夫大丈夫! 僕僕僕僕は僕は僕は僕は僕は大丈夫大丈夫僕は僕は大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫  僕は           大                       丈                                    夫 1月28日(木) 曇り 僕にとって荒木さんは使者でした。恨みもありますが、それ以上に彼女のしてくれた事には感謝してます。 荒木さんは僕の願いを叶えてくれた。だからあの事も今まで黙ってたんです。言う必要が無いから。 でも今は違う。彼女は僕をいじめた。それに黙ってたら僕の身が危うくなる。 昨日僕は警察に連れて行かれました。そして僕の証言を元に、今日、荒木さんが逮捕されました。 殺人罪です。被害者は奥田。あの日、荒木さんは僕の目の前で奥田を殺してくれた。 僕が愛用してた黒いマフラー。荒木さんは同じモノとを手に入れ、僕に変装して奥田を殺したんです。 僕は元々小柄なため、マフラーで顔を覆って学ランを着込んだ荒木さんは本当に僕そっくりの容貌でした。 彼女は奥田殺しの罪を僕に着せようとしていた。でも誰も見てなかった。僕以外。 あの時、僕は何故荒木さんが奥田を殺したのか分かりませんでした。今となったら動機は明白ですが。 デジカメの画像の日付は11月16日。あの日の放課後、荒木さんは奥田に犯された。 警察の話では、荒木さんが犯人だとは有る程度目星がついてたけど、僕にも目を付けてたそうです。 なぜ逮捕までこんな時間がかかったのかは明日書きます。ちょっと複雑な事になってます。 ただ、はっきりしてる事が1つだけ。やっぱり渡部さんは警察にあの写真を持ち込んでいた。 僕が荒木さんを脅迫してた事を立証したかったらしいんですが、逆に荒木さんを破滅に導いてしまった。 嘆かわしいです。 1月29日(金) 晴れ 奥田が殺された後、警察の動きの話をまとめるとこうなります。 ①奥田の友人達の証言で荒木さんが犯されていたことが発覚。表向きは捜査打ち切りに。 ②強姦について詳しく調査しようとすると皆口を閉ざす。 ③荒木さんの状況証拠が固まるも動機とみられる強姦事実がはっきりしない。 ④さらに調査に時間をつぎ込む。そうしてるうちに僕が犯人だとタレ込みが。これが約1ヶ月前だそうです。 ⑤僕の調査を開始。しばらく調べても僕に犯行を行った様子は見られない。 ⑥渡部さんが僕を訴えるために荒木さんの強姦写真を持ち込む。便乗して僕に奥田事件の事情聴取。 ⑦僕が全て証言。荒木さんが奥田を突き落とす瞬間を見ていたことが決め手となって荒木さん逮捕。 警察が捜査打ち切りのフリをしたのは強姦された荒木さんへの配慮だそうで。 奥田の友人が口を閉ざしたのは、荒木さんへの強姦は奥田の単独犯行ではなかったからだと思います。 警察に僕が犯人だなんてタレ込んだバカは一体誰なんでしょうか。全く腹が立ちます。 ちなみに僕は例の写真バラ巻きに関して厳重注意を受けました。それ以上のことは何もありません。 僕は本当に大丈夫でした。 1月30日(土) 晴れ ここ二日間、事情聴取とかで学校に行ってませんでしたが今日は行き来ました。 荒木さんの逮捕で学校中騒然としてました。何処も事件の話題で持ちきりです。 こんな話が耳に入りました。「誰かが荒木さんを売った。」 それが誰のことなのか皆分かってます。その人は「警察に訴える。」と仲間内で公言してたそうです。 主語も言わずに。皆をびっくりさせたかったんでしょうか。「虫を訴える。」とは言ってなかった。 その誰かさんにしてみれば「売った」なんてのはとんでもない誤解です。逆に助けようとしたんだから。 残念ながら、その人は誤解を解く事が出来ません。誤解を解く機会すら与えられてません。 ・・・・・・・・渡部さんは、いじめられてました。彼女が何か言っても、誰も聞かない。 友人を売ったクズ。裏切り者。ゴミ女。様々な陰口が囁かれてます。渡部さんに聞こえるように。 渡部さんは必死に言い訳してました。僕の所にも来ましたが、僕は無視しました。みんなも無視してました。 僕はボソっと呟きました。「警察に持ち込まなきゃ逮捕されずに済んだのに。」 彼女は何も言わなくなりました。席に座り、黙ってうつむいたままでした。机に涙が落ちるのが見えました。 ずっと、泣いてました。 1月31日(日) 曇り 僕をいじめた人たち。奥田。荒木さん。渡部さん。 奥田は死にました。荒木さんは警察に捕まりました。そして、渡部さんはいじめられっ子になりました。 僕は咎められる様な事はしてません。みんな自業自得です。 いじめ、カッコワルイ。 第一三週 「白紙」 2月1日(月) 曇り 今日が最後の事情聴取でした。そこで僕はとても嫌な事実を知りました。 未だに信じられない。信じたくない。でも事実だ。 僕は今まで何て事をしてきたんだろう。何を信じてたんだろう。 何故、こんな事に。 2月2日(火) 晴れ 早紀はまだ眠ったままです。ベットの横に立ったまま、僕は同じセリフを繰り返してました。 「早紀。あれは僕じゃない・・・・・・。」 誰も見てなかったはずなのに。見てたのは僕だけだったはずなのに。 早紀は見ていた。そして、それが荒木さんだとは気づかなかった。 僕だと勘違いした。 2月3日(水) 曇り 早紀は優しかった。僕の事を人殺しだと思ってもすぐには警察には通報しなかった。 知らないフリして普通に振る舞ってた。きっと早紀はこう考えてたんでしょう。「私だけの秘密にしておこう。」 でもその考えは崩れてしまった。警察に通報したのは12月27日。以後僕はずっと警察に見られていた。 早紀を犯したとき、テレビのボリュームを大きくしてなかったら僕は捕まってたかもしれません。 早紀が本当に初詣に行ってなかったら、やっぱり僕は捕まってたと思います。 早紀は何故通報したのか。答えは簡単です。「私だけの秘密」じゃないことを知らされたから。 杉崎先生が余計な事を。 2月4日(木) 晴れ 杉崎先生。あの人は僕を疑ってた。僕が奥田を殺したと思ってた。何も見てないくせに。 疑われるは構わない。だから先生に「お前が殺ったんだろ?」と聞かれた時僕は何も答えなかった。 荒木さんが殺したんだから僕が疑われても何の問題はない。わざわざ荒木さんが殺したと言う必要もない。 でも問題は起きた。先生はその間違った推測を信じ、それを早紀に告げた。12月24日の事でした。 先生は自分の推理に酔ってたのかもしれない。デジカメの存在を知ってるのは先生だけだったから。 証拠を見つけた探偵気取りだったんだ。だから、その推理を披露したかったんでしょう。僕が犯人であると。 イジメの事実を隠蔽しようとしてたんだから警察に言うわけありません。代わりに見つけたのが、早紀。 妹なんだから告げ口するわけ無いとでも思ったんでしょうか。逆の結果を招く事になるとも知らずに。 そして早紀は知ってしまった。「自分だけの秘密」を他に知ってる人がいたことを。 早紀が冷たい態度をとるようになった時、僕は見当違いな推理をしてました。もっと深く考えるべきだった。 もう、遅い。 2月5日(金) 曇り 身内が犯人と知ったら、僕ならどうするだろうか。その事を自分しか知らないのなら、たぶん黙ってる。 知ってる人が他にもいたら?それでも黙ってると思います。自首を勧める事もしないと思います。 それが早紀ならなおさらです。皆にバレても否定し続ける。愛してるから。何処へも行って欲しくないから。 でも早紀は通報した。それは事件の解決を長引かせるだけの行為だったけど、そんな事は重要じゃない。 問題は「何故通報したか」です。しかも僕に内緒で。その理由を考えてると頭が痛くなってきます。 早紀は僕と一緒にいたくなかったのか?何処かへ行って欲しかったのか?消えて欲しかった? 僕は早紀を愛してる。今でも変わらない。でも早紀は?早紀は本当に僕を愛してた?それどころか。 愛して、なかった? 2月6日(土) 晴れ 眠り続ける早紀。早紀の中では僕は人殺しのままです。僕は必死に語りかけました。 あれは僕じゃない。荒木さんだったんだ。早紀は荒木さんの罠に引っかかっただけなんだよ。 だから早紀。目を覚ましてよ。起きて僕の話を聞いてよ。そしたら誤解も解けるから。 それに僕たちは愛し合ってるんじゃないか。一緒に楽しい時間を過ごしたじゃないか。 まさか早紀は「犯された」なんて思ってないよね?僕は早紀を愛してる。早紀も僕の事を愛してるだろ? 早く起きてよ。起きて「お兄ちゃんを愛してる。」と言ってくれよ。ねぇ早紀。起きてよ。目を覚ましてよ・・・・。 僕はいつの間にか涙を流してました。早紀の肩を揺さぶり、泣きながら話しかけてました。 どれくらいそうしてたのか。ふと早紀を見ると、口が少し動いてます。何か喋ってる!? その声はとても小さく、うっかりすると聞き逃した。僕は慎重に耳を近づけ、聴覚に集中しました。 「・・・・・・・・・・・・・・トオルさん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・助けて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 誰だ。 2月7日(日) 曇り トオル。こいつのせいで早紀の心が僕に向いてくれない。 おそらくこのクソ野郎こそが早紀の処女を奪った男に違いない。許せない。 早紀が目覚める前に消さなきゃ。最初からいなかった事にしないと。早紀には僕しかいないんだから。 第一早紀が入院してから一度でもお見舞いに来たか?来てないだろ?そんな奴に早紀を抱く権利は無い。 死ね死ね死ね。死んでしまえ。早紀を奪った男。今でも僕と同じ空気を吸ってると思うだけで許せない。 僕が殺してやる。見つけだして、僕の手で、殺さなきゃ。早紀は僕のだ。他の奴なんかにとられてたまるか。 消してやる。 第一四週 「泥濘」 2月8日(月) 晴れ 早紀の部屋をあさってみました。トオルに関する記録がないか調べました。 写真は女の子同士ばかりです。手帳を見つけましたが有力な情報は得られませんでした。 「今日はデート」とかハートマーク付きでメモされてるのを見ると無性に腹が立ってきます。 他に何かないのか?そう思った瞬間、ソレが目に入ってきました。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・パソコン。 あまりに堂々とし過ぎて気づかなかった。最近じゃ女の子がパソコンやってたって全然おかしくない。 渡部さんや荒木さん、あの奥田でさえパソコン講習を受けて面白がってたっけ。 僕は早紀のパソコンを起動させました。どこから手に入れたのかかわいらしい壁紙になってます。 そして、見つけました。デスクトップにショートカットが作成されてました。ファイル名「私の日記」。 これさえ読めば。 2月9日(火) 晴れ 「私の日記」には僕の知らない早紀がいました。色んな事が有りすぎてとても1日じゃ書き切れません。 早紀はホームページを持ってました。そこに「私の日記」がアップされてました。 「希望の世界」と名付けられたそのページは女の子らしくかわいくレタリングされてます。 ハンドルネームは「sakky」。掲示板はそこそこのにぎわいを見せてました。 最近は書き込みが少なくなってるようです。「sakky最近どうしたの?」等の書き込みがちらほら見られます。 過去ログを見てみると、奴がいました。「トオル」。早紀とこいつはネット上で知り合った。 日記は「受験勉強は大変」みたいな内容だったけど、「トオル」が登場してからは殆どその話ばかりでした。 出会い、オフ会、告白、そして、そして、せせせ性行為に至るまでが克明に記されてます。 さすがに行為の内容はまでは記されてなかったので少し安心しました。早紀はそんな淫乱な娘じゃない。 さらに、トオルにフラれた事まで書いてます。確かに約3ヶ月前から「トオル」は掲示板に姿を現してない。 逃げやがったな。 2月10日(水) 曇り 早紀を汚しておいて逃げるなんて許せない。絶対につきとめてやる。 まずはトオルと早紀が出会った所を突き止めなくてはいけません。 「私の日記」によると、二人はあるチャットタウンで知り合ったそうです。「希望の世界」にもリンクされてました。 そこは俗に言う「出会い系」のページで、地域別に部屋がわかれてました。 片っ端から部屋を訪ねてみましたが、チャットなので掲示板のような過去ログは残ってませんでした。 トオルは何処にもいません。奴はネットから去ってしまったんでしょうか?そうだとしても僕は逃がさない。 早紀の残したあらゆる記録を全て調べて、絶対突き止めなければ。早紀を完全に僕のモノにするために。 必ず見つけだしてやる。 2月11日(木) 雪 僕は「私の日記」を舐めるように読み返しました。何処かにトオルに関するのヒントはないか。 そして、ある程度トオルの像が見えてきました。 トオルは僕の家の近くに住んでいる。それが具体的にどのくらい近いのかはわかりません。 ただ、早紀と地元民トークで盛り上がってたのは確かです。そこから話が進んでオフ会に至った。 そこで早紀は自分の知ってる高校にトオルが通ってることを知り、色々受験の相談をしてた。 残念ながらその高校名は書いてありませんでした。ちゃんと書いてくれないと困ります。 結局わかったのはこれだけですが、「近くにいる」とわかったのは大きな収穫になります。なぜなら。 正体さえわかればすぐに消せる。 2月12日(金) 曇り 僕はバカだ。こんな簡単な事に気がつかなかったなんて。 地元トークで盛り上がった。受験の相談をした。オフ会の約束をした。日記にはそう書いてありました。 ここで疑問が沸いてこなかったなんて冷静じゃなかったんだ。少し考えればすぐわかる事なのに。 「何処で?」何処でそんな話をしてた?チャットで?みんなが見てる前で?もっと手軽なのがあったろ? メール交換。早紀のメールをチェックしてなかった。日記ばかり読んでて見えてなかった。 早速チェックしてみました。早紀らしくポストペットなんか使ってます。 やっぱり。早紀は奴とメール交換してた。メールはちゃんとログが残ってるので実に読み応えがありました。 待ってろよトオル。 2月13日(土) 曇り 僕もバカだったけどトオルはもっとバカだ。自分の住所をメールで伝えるなんて阿呆だ。 早紀の「何処に住んでるの?」とのメールに「ライオンズマンション」と返事を書いてた。 ここら辺でライオンズマンションは1つしかない。僕の学校の近くにあるアレだ。 さらに間抜けなことに、トオルは家の部屋番号まで書いてやがります。 早紀が「そこ私も知ってるよ。」と書いたら「417号室だから今度外から見上げてごらん。」とかぬかしてました。 そうか。そこに住んでるのか。見上げるだけなんかじゃつまんない。今度遊びに行ってやるよ。 絶対行くよ。 2月14日(日) 晴れ 今日はバレンタインデー。本当なら早紀からチョコレートが貰えたはずなのにトオルのせいで貰えません。 トオルが存在する限り早紀は完全に僕のモノにはならない。そんなこと許されるわけがない。 トオルには消えてもらいます。最初からそんな奴存在しなかったことにしておけばいいんです。 居場所も突き止めた。後は奴が死ぬだけで全てが丸くおさまりまあす。来年からは早紀からチョコが貰える。 今度は奥田の時と違って荒木さんのように代わりに処刑してくれる人はいません。僕がやるしかない。 やってやる。 第一五週 「絶望」 2月15日(月) 晴れ 奴のマンションを見てきました。あれなら何時でも突入できそうです。とりあえず今日はそれだけで帰りました。 さて、どうやって殺ってやろうか。できるだけ苦しませてあげたい。ナイフで突き刺してやろうか? なんか考えてるだけで楽しくなってくる。どうせトオルなんて死んだって構わない様な奴なんだろうな。 眼鏡かけてデブでアニオタで臭くてパソコンマニアで・・・・・・・・・・そんな奴に早紀は犯されたのか。 絶対殺す。 2月16日(火) 曇り ナイフを買ってきました。特に面白い殺し方が思いつかなかったので結局ナイフに落ち着きました。 でも以前映画か何かでナイフで刺す時ねじってやると相当痛いとか言ってたのでこれでいいかもしれません。 誰かに見られない限り問題は無いはずです。トオルと僕は直接面識があるわけじゃありません。 容疑者の中に僕の名が連なることはないでしょう。友人関係を洗ったって僕はでてこない。 だから安心して殺れる。 2月17日(水) 晴れ なんだかドキドキします。人を殺すのにこんなに緊張するとは思いませんでした。 もし誰かに見られたらどうしよう。やっぱり逃げるしかないか。逃げ切れなかったら? 僕も荒木さんのようになってしまうんでしょうか。それは嫌だ。早紀に会えなくなっちゃうじゃないか。 何の為に殺したのかわからなくなる。あんなクズの命のために僕の人生を棒に振りたくない。 だから、慎重に事を進めないと。本当は今すぐにでも殺しに行きたい。でもそれだと失敗するかもしれない。 ここはこらえて、緊張をほぐしてから。2,3日間をおいて落ち着いたら殺ろう。 焦りは禁物。 2月18日(木) 雨 トオルの確認は当日でいい。どうせパソオタだからすぐにわかる。今は落ち着く事に専念しないと。 それに、見たらその場で殺してしまうかもしれません。あくまで冷静に。感情的になっていはいけません。 当日はまず部屋の確認。そして近くでそれらしき人物が帰ってくるのを待つ。 トオルらしき人物が来たら尾行。奴の家は4階だから階段を上る。その時がチャンスです。 一人になった瞬間、後ろからナイフで刺す。ナイフは刺しっぱなしでそのまま逃亡。これでいこう。 奴が夜に帰ってくるのが理想的だけど、人気がないようなら何時でも殺ってしまおう。 人通りが多いようなら次の日に持ち越せばいい。いくらでも待ってやる。 いよいよです。 2月19日(金) 雨 明日殺そう。もう充分落ち着いた。計画も立てたし、あとは予定通り行動するだけです。 全部終われば早紀は完全に僕のモノになる。もうこれ以上誰にも邪魔はさせません。 そうだ。早紀の目が覚めたら何処かに行こう。早紀さえいれば親も必要ない。早紀となら何処へでも行ける。 逃げてしまおうか。誰もいないところへ。アテはないけど早紀が居るならどんな状況にも耐えられる。 二人だけの世界に旅立とう。夢が広がっていく。僕らの未来は希望でいっぱいなはずです。 明日トオルをキッチリ殺して、早紀の目を覚まして、何処か遠いところへ。 明日は運命の日になる。僕と早紀が新しいスタートから始められるように、儀式を済ませないといけません。 トオル。死ね。 2月20日(土) hml 酷いよ。酷すぎる。そんな事があり得るなんて・・・・!そんなのあっちゃいけない事なのに。 僕は何を?何をしようとした?何を望んでた?トオルを消すこと?そうだよ。それは叶ったじゃないか。 あああああああ。願いは、望みは、目的は達成した。これで、これで良かったはずなのに。良かったのに。 何故?なぜ?ナゼ?何故こんな思いをしなくちゃいけないんだ?僕は、何だったんだ? 今朝早く、僕はナイフを持ってライオンズマンション行った。トオルを待ち伏せするつもりだった。 まず、トオルの部屋番号と正確な場所を確認した。郵便受けで417号室のを確認してみた。 そこで僕は・・・・!ちくしょう。なんでこんな所で奴の名前が出て来るんだよ!そんなことあってたまるかよ! そこで僕は知ってしまった。信じられない。信じたくない。こんなの信じることなんて出来るわけない。 急いで家に戻りました。信じられないけど、確認しなくちゃいけない。事実を知らなきゃいけない。 家に着いたらすぐに学校の住所録を見ました。奴の住所は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 あああああああああああああああああ!!!書いてある!!「ライオンズマンション417号室」って!! 畜生!畜生!畜生!なんでだよ。なんでトオルがお前なんだよ。なんでなんだよ!!答えろよぉ!! 奥田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 2月21日(日) 曇り 消えてゆく。僕の信じてた何もかもが。 奥田徹。あいつは僕と早紀を弄んでた。僕たちは踊らされていたんだ。 12月1日。奴は何て言ってた?「今度お前の妹に例の写真見せてやるな。」だって? なんで知ってたんだ。僕に妹がいることを。僕は学校で家族の話をした事なんて1度もない。 知ってて当たり前だった。奴はこの時既に早紀と付き合ってる。僕だけが何も知らなかった。 早紀。奥田の何が良かったんだ。あいつは荒木さんを犯したり、僕をいじめたりする最低野郎なのに。 そんなゴミ野郎に早紀は・・・・・・・・・・・・・・僕は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 そうか。そういうことだったのか。全部逆だったんだ。ずっと疑問に思ってたけど今なら理解できる。 「奥田は何故僕をいじめるようになった?」 答えは簡単だ。僕は、早紀の兄だからいじめられたんだ。早紀の兄だから、目を付けられた。 奴はクズなんだから、誰かをいじめる理由なんてそんな事で良かったんだ。 畜生。 第一六週  「引導」 2月22日(月) 晴れ 早紀の病室に行きました。僕がこんなに絶望してるのに何も知らない早紀。 早紀の中では奥田はイイ奴のままなんだろうな。かわいそうな早紀。騙されてるのに気づかないなんて。 そっと早紀の手を握ると何故かボロボロ涙がこぼれてきました。どうして僕は泣いてるんだろう? 早紀を奥田に奪われたから?奥田に負けたから?悔しいから?早紀が、僕を愛してくれてないから? そんなことない!早紀は絶対僕のことが好きなはずだ。奥田よりもずっと僕の方がいいと思ってるはずだ。 そう思ってる所に、病室に医者が入ってきました。 僕に、というより早紀の身内に話があるとのことでした。話を聞いた僕は何とも言えない気持ちになりました。 ・・・・・・・早紀が、もうじき目覚める。 話によると、徐々に回復の兆しが見えてきてもう1週間もすれば目を覚ますだろう、とのことでした。 僕はどうすればいいんだろう。 2月23日(火) 曇り インターネットで睡眠薬を販売しているページを見つけました。早速申し込んでおきました。 睡眠薬を大量に飲めば苦しまずに死ねます。死ぬことは怖くありません。この世に未練はないし、それに・・・・ 早紀は起きたら僕のことを好きだと言ってくれるかな?言ってくれるよね。絶対に。 確かめたくはない。もしかしたら言ってくれないかもしれない。奥田の毒がまだ残ってるかもしれない。 今のままなら確かめる必要もない。眠ったままなら、確実に僕のことを好きでいてくれる。そう信じていられる。 早紀。一緒に何処かへ行こうって約束したよね。他の誰もいない何処かへ。二人だけの世界へ。 怖がることなんかないよ。早紀は何もしなくていいんだから。旅の準備は全部僕がするから。だからね、早紀。 一緒に、逝こう。 2月24日(水) 雨 奥田に関って以来、僕はとても嫌な思いをしてきました。でもそれも終わりです。 これ以上不愉快な気分になることはありません。みんなとは違う世界に行くから。 もう誰にも関わらないで済みます。結局、僕に残されたのは早紀だけでした。 それでも構わない。他には何もいらない。早紀がいれば充分。 1月3日だったかな?あの日に僕は誓った。「早紀はもう離さない」と。 最期まで、離さない。 2月25日(木) 天気なんか知らない 今日睡眠薬が家に届きました僕は家に居たので直接受け取りましただから親にはバレてません今更親にバレ てもどうでもいいんだけどなんとなく隠してしまいました睡眠薬は今手元にありますこれを早紀と一緒に飲めば 二人は旅立てるなんて素晴らしいんでしょう僕一人なら地獄に落ちてしまうかもしれないでも早紀は絶対に天 国に行けるはずだから一緒に行く僕も天国へ行けるはずです僕は今とても幸せを感じてますどれだけ絶望し ても諦められない夢それは世界で早紀と二人だけになることそれがかなうんだから僕の面白くもない人生も最 期の最期で少しはマシになったのかなそれとも今までが酷すぎたのかな僕にはどっちかわからないそんなこと どうでもいいや後少しで夢がかなうんだからこんなつまんない世界とはもうお別れだから早紀と二人きりになれ るんだからここは本当につまんない世界だったなあ奥田にはいじめられるし荒木さんにもいじめられるし渡部さ んにもいじめられるし復讐してやったと思ったら早紀の元恋人が奥田だったし知らないままならこんなに絶望し ないで済んだのかな許せないって言ってみたって奥田はとっくに死んでるんだからどうすることもできないしでも やっぱり許せない畜生僕より先に手を出してたなんて考えたくもない早紀の体は汚されちゃってたんだ清めな いと汚れを落としてあげないと奴の毒を抜いてあげないと天国に行けば早紀は汚れた肉体を捨てられる綺麗 な魂だけになれる僕が連れてってあげるよ僕も一緒に行くから僕が導いてあげるよ素敵な世界へ 2月26日(金) 眩しいくらいに晴れ 今から逝ってきます。だから僕の日記もこれで終わりです。 さようなら。 2月27日(土) 雨 僕は死にました。早紀も死にました。あれ?じゃあこの日記を書いてる僕は誰? 日記を読み返してみなきゃ。ええと・・・・薬を手に入れて・・・・・・これから飲もうって・・・・・・・・・それから・・・ ・・・・二人で逝こうって無理矢理大量の薬を押し込んで・・・・・・・・僕もとてもたくさん薬を飲んで・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・怖くなって吐き出したんだ。 そうだそうだ。そうだった。怖くなって薬を全部吐き出しちゃったんだ。 でも早紀はそのまま死んじゃったんだ。ごめんね早紀。ごめんねごめんねごめんねごめんねごめんね。 早紀、僕を許して。やっぱり死ぬのはイヤなんだよ。一緒に逝けない。逝きたくない。 死にたくない。どんなにつまんなくても、どんなに酷い人生でも、どんなに惨めでも、やっぱり生きていたい。 生きる。生きなきゃ。僕が生きなくてどうする。なんだろうこの感じ。とてもとても強い義務感を感じる。 他に何も考えられない。どんな不自然な事も、狂ったことも、全て受け入れてでも僕は生きなきゃいけない。 生きなければ。 2月28日(日) 今日も雨 壊れた現実はもう元には戻りません。 何かがおかしい。そう思ったって引き返す事なんてできない。 全てを失った僕にはどうすることもできないんだから。だから、生き続ける。 狂い続ける。 第一七週 「輪廻」 3月1日(月) 晴れ 早紀のパソコンを起動させました。かわいい壁紙が目に入ってきます。 スタートメニューの「お気に入り」から目的のページをクリックしました。 自動的にダイアルネットワークが開き、ネットに接続すると数秒後にはそのページが開かれました。 ・・・・「希望の世界」。僕は「掲示板」に行き、あらかじめ考えておいたセリフを打ち込みました。     復活!! 投稿者:sakky 投稿日:03月01日(月)       お久しぶり!sakkyです。やっと受験が終わりました。       終わるまで親からネット禁止令が出てたからここ数ヶ月全然書き込めなかったんだよ~。       でももう大丈夫なんでこれからもよろしくね! ・・・・たったこれだけ。これだけの事で早紀は生き返る。 僕は早紀で早紀は僕。僕が生き続ける限り、早紀も生き続ける。 早紀。一緒に生きよう。 3月2日(火) 曇り 早速掲示板に反応が有りました。「久しぶり~」とか「心配してたんだよ」とか「何処の高校?」とか。 僕は「私の日記」を更新しました。僕は早紀なんだから。sakkyなんだから。不自然な事はありません。 「高校受かって嬉しい」等書いておきました。爽やかな日記です。 sakkyはとても明るく、元気で、希望に溢れてます。これからも、僕の理想通りに生きてくれるでしょう。 全て僕の思い通りに。 3月3日(水) 曇り 「希望の世界」に来る人たちはみんな爽やかです。 掲示板では雛祭りのことが話題になってました。僕もとても爽やかな気分になります。 一点の曇りもない世界。sakkyにふさわしい世界です。ここではsakkyが汚れることはありません。 不都合な現実のことなんか忘れよう。理不尽な事なんか考えたくない。 安らぎを感じるということは、僕がまだ完全に狂ってない証拠かもしれません。 やり直せるかもしれない。 3月4日(木) 晴れ 今日はみんなとチャットをしました。例の出会い系ページの一角にsakky達のたまり場がありました。 「最近あったかくなってきたね」なんて言ってみたりしてしばらく温かいトークで盛り上がってました。。 チャットは時間を忘れます。かなり夜遅くまでしていたのに全然話し足りない気分です。 自分でも信じられないくらいすんなりとみんなの輪に入れたので少しびっくりしてしまいました。 明日もチャットしよう。 3月5日(金) 曇り 今日チャットで「sakkyはICQ入ってないの?」と聞かれました。 入ってないと答えると、ICQについて詳しく書いてあるページを教えてくれました。 みんなとのチャットが終わった後そのページに行って知識をつけてきました。そんなに難しくないようです。 ダウンロードしてセットアップ。簡単に出来ました。明日にでもみんなにICQの番号を教えようかと思います。 便利そうです。 3月6日(土) 晴れ ICQのナンバーを「私の日記」に公開しました。すぐにいつも掲示板に来てるメンバーが登録してくれました。 今のところ5人登録してます。「タケシ」さんなんか1番乗りでした。 「sakkyがICQ入るのずっと待ってたんだよ」とか書いてくれました。嬉しいこと言ってくれます。 他にも「えんどう」さん、「渚」さん、「TOMO」さん。sakkyの受験中に新しく仲間に入った「三木」君も居ます。 僕とチャットしてくれたメンバーがそろいました。ICQのおかげでもっとたくさんお話できるようになります。 素敵。 3月7日(日) 雨 みんなのと会話がとても楽しいです。掲示板にはICQを入れてない人たちも来てくれます。 あれから1週間。全てを失った僕にも新しい居場所が出来ました。 もうインターネット無しじゃ生きていけない。こんな僕を受け入れてくれる場所なんか他にありません。 岩本亮平という人間も、「虫」と呼ばれたイジメられっ子も、ここには存在しない。 僕はsakky。 第一八週 「接近」 3月8日(月) 曇り 今日の話題は「いじめ」についてでした。「三木」君もいじめられっ子らしいです。 僕は思わず熱く語ってしまいました。勿論僕自身がいじめにあったとは言いませんでした。 知り合いがこんなイジメにあってたよ、という感じで間接的に話しておきました。 「タケシ」さんも熱く語ってます。「タケシ」さんの高校にもイジメはあるそうです。 僕がいじめられてた頃の光景なんかもう思い出せません。記憶の彼方に封印してしまったんでしょう。 ここでは僕はいじめられない。今の僕にとっていじめは語るモノで、体験するモノじゃなくなった。 いじめ、バイバイ。 3月9日(火) 雪 今日のチャットも昨日の続きでいじめ問題について語り合いました。 「タケシ」さんに「sakkyはいじめられてない?」と聞かれた時はとまどってしまいました。 少し考えた後、「私はいじめられてないよ。」と答えました。 sakkyはいじめとは無縁の世界に生きてなきゃダメだ。そんな汚い世界なんか知らなくていい。 「三木」君に「イジメはつらいよね。でも頑張って!私達がついてるから!」と言って励ましてあげました。 とても清々しい気分になりました。 3月10日(水) 雨 昨日のsakkyの発言がみんなに気に入られたようです。「三木」君からかなりお礼を言われました。 「タケシ」さんなんか「sakkyがいじめられたら俺守ってあげるよ!」と言ってくれました。 「えんどう」改め「えんどうまめ」さんも「僕だってsakkyの為なら何だってするよ!」と言ってくれます。 「TOMO」さんまで「私も助けてあげるからね!」って言ってくれました。とても嬉しいです。 ここはみんないい人ばかりです。仲間ってこんなに素晴らしいモノだとは思いませんでした。 ずっとこのままでいられるかな。 3月11日(木) 曇り 今日のチャットの話題は昨日からの流れをついで「仲間」についてでした。 「そうだ!」と突然「タケシ」さんが言いました。「みんなの親睦を深めるためにオフ会をしよう!」 マズイ。それはダメ。それだけは避けなきゃ。そんなことしたら僕は、sakkyは・・・・・・・・・・・・。 「えんどうまめ」さんが「いいねぇ!僕もみんなに会いたいよ!」と言ってます。 「渚」さんも「あ、それイイ考え!私もみんなと会いたーい!」とか言ってる。 「TOMO」さんは「やろうやろう!でも私最近忙しいから行けるか不安・・・・・・」なんて言ってます。 どうしよう。どうしたらいいんだろう。反対しなきゃ。でも何て言えばいい?反対する理由は? 僕が答え損ねてると、「三木」君が素晴らしい意見を言ってくれました。 「それは・・・・・やめた方がいいんじゃないでしょうか?」と「三木」君。 「ネットって、お互い顔が見えないから仲良くできるんじゃないでしょうか?」・・・・・・その通りだよ「三木」君! 「うん。sakkyもそう思う。私、自分の容姿とか自信無いの・・・・・。会っちゃうとsakkyのイメージ崩れちゃうよぉ。」 なんとかこの場は凌ぎました。 3月12日(金) 晴れ オフ会ネタがまだ続いてます。sakkyと「三木」君が拒否してるため話がなかなか進みませんでした。 結局今回は延期、という事になりました。「渚」さんが「私容姿には自信あるんだけどなぁ。」と愚痴ってます。 オフ会話が落ち着いたところで、突然「タケシ」さんからICQでメッセージが届きました。 「オフ会できなくて残念だよー。sakkyに会いたかったのにな。」・・・・・・・・・・・そんなこと言われても。 「本当にごめんなさい。でもやっぱりみんなとは会えない。会うのが怖いの。」と返しておきました。 「みんなで会うのは怖い・・・・か。じゃあ二人で会うのは?」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え? 「二人で?」「うん。俺とsakky二人だけで。俺はsakkyがどんな娘でも絶対イメージを変えない。だから、ね?」 マズイマズイマズイ!これじゃ断れないじゃないか!どうする?「それでもイヤ」とでも言っておくか? ああ、でもそこまで言うとsakkyはただの頑固者になっちゃうじゃないか。嫌われる!ここに居づらくなる! 「詳しい話は明日にしよう。じゃ、考えといてね!」爽やかに去る「タケシ」さん。 「おやすみなさい。」と挨拶を交わしてネットを閉じました。さて、僕はどうするべきなんだ? 考えないと。 3月13日(土) 曇り いくら考えても答えが出ない。でも、やっぱり会うべきじゃないのかな? ネットに繋ぐとすぐ「タケシ」さんから「昨日の件、考えといてくれた?」とメッセージが入りました。 「ごめんね。まだ考え中なの。」・・・・・・・・・・・・・・・とりあえず、今は保留。これでいいだろう。 「sakky。俺、今すぐにでも会いたいんだよ。」・・・・・・・・・・「すぐになんて、心の準備ができないよぅ。」 「じゃ、来週の金曜日。もう学校行ってないでしょ?それまでに心の準備しといてよ。頼むよ!」 来週の金曜日。確かに普通なら早紀は春休み中に当たる。僕自身もあれ以来学校なんて行ってない。 「なんか強引だよぉ。」・・・・・・・・・・・「強引でも構わない。sakky、俺を信じてくれよ!」 こいつ、本気だ。 3月14日(日) 晴れ 無視するのが一番良いのは分かってる。でもそれだと「希望の世界」に居続ける事が出来ない。 ICQでは無視しといてチャットで愛想良く、なんて器用な真似なんかできるわけない。 いっそのことチャットでも無視してしまおうか?・・・・・・そんなの楽しくない。みんなとの会話が楽しいんだから。 せっかく手に入れた楽しさを放棄するのは嫌だ。何か良い方法はないのかな。 今日もまた催促のメーッセージが来ました。sakkyは相変わらず「まだ考え中」と答えてます。 来週の金曜日までには答えを出さなきゃいけない。誰かに相談したい。でも相談できる相手なんかいない。 誰か。 第一九週 「衝撃」 3月15日(月) 雨 チャット中に考え事をすることが多くなりました。「タケシ」さんへの返事はまだ考えつかない。 「タケシとまめっち、発言少ないよ~。」と「渚」さん。 「いやーちょっとねー。」「男同士の秘密の会話をしてたもんで・・・・。」「わー!なんかヤラシー!」 まずいな。この流れだとsakkyの発言の少なさまでつっこまれそうだ。 そんなことを考えてあわてて発言しようとしたら、ICQのメッセージが来ました。「TOMO」さんからでした。 「sakkyも発言少ないよ。なんか考え事?」・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり来た。「うん・・・・・ちょっとね・・・・。」 「何々?悩み事?もしかして恋愛関係?」・・・・・・・・・・鋭い。「すっごーい!何で分かっちゃったの?」 「ふふ。女の勘って奴よ。で、で、どうなの?お姉さんに相談してみなさいよー。」 相談。そうだ。この人に相談してみよう。同じネット仲間なんだし。独りで考えるよりいいはず。 でも何処まで話す?まさかsakkyの正体を言うわけにはいかない。 「んっと。明日になったら詳しい話してあげる。」・・・・また保留。深く考えようとしないのは悪い癖かもしれない。 それでも相談相手が見つかっただけ一歩前進した気分です。明日までに話す内容を決めておかないと。 何て話そうかな。 3月16日(火) 晴れ 今日はチャットを早々に切り上げて、「TOMO」さんに相談に乗ってもらいました。 「他の所で何だけど」と付け加えてネット上で男の人にアプローチを受けてる、という内容のことを話しました。 「それで・・・・・どうすればイイと思う?会うべきなのかな?」・・・・・・・・・・・・・この質問がしたかった。 「それはやっぱり会うべきでしょ!怖いなんて言ってないで相手を信用してみたら?」・・・・・・・信用? 「簡単に信用なんかしちゃって大丈夫かな?」「平気よぉ。ミニオフ会みたいなもんでしょ?会ってみなって。」 「でも・・・・でも・・・・・・」・・・・・sakkyには秘密が有るんだ。これを言えたら楽なのに。言えない。 「何なら会う約束だけして遠くから見てたら?で、その人を直接見てから改めて会うかどうか決めるの。」 それだ!会いたくなければ後で「やっぱり怖くて会いに行けなかった。」とでも言っておけばいい。 「そうだね。そうしようかな。」「うん。がんばりなよ~。」・・・・・・・・決まった。「タケシ」さんへの返事が。 今日はもう「タケシ」さんは寝てしまってるので明日話してみるつもりです。 待ってて。「タケシ」さん。 3月17日(水) 晴れ 「タケシ」さんにメッセージを送りました。「まだ不安なんだけど会う事にしました。あさってだよね?」 すぐに返事が来ました。「良かった!『やっぱりイヤ』とか言われたらどうしようかと思ってたよ。」 それから時間と場所を決めたんですが、「タケシ」さんが指定してきたのは家からそう遠くない場所でした。 電車とか使って1時間もしないで行けます。さすがに地域別チャットタウンで知り合っただけある。 おそらく「タケシ」さん以外もそんな遠くには住んでないはず。みんなある程度近くに住んでると思います。 決めること決めたらなんだか疲れてしまいました。本当に会ってみるのかはまだ分かりません。 見てみて誠実そうな人だったら・・・・・・・・・いっそのことsakkyの正体を明かしてしまおうか。 独りで秘密を抱えてるより、誰か味方がいたほうがいいに決まってる。僕も少しは楽な気分になれる。 「どんな娘でも絶対イメージを変えない。」と言ってくれた。その発言の責任は持ってくれるはず。 sakkyがどんな娘でも。 3月18日(木) 晴れ 「TOMO」さんから「どうなった?例の男の人と。会うことにしたんでしょ?」とメーッセージが来ました。 「うん。」「いつ会うの?」「明日だよ。」「明日!?もうすぐじゃん!で、で、何処で会うの?」 適当に会話した後、「じゃ、頑張ってね!」と励ましの言葉をもらいました。「うん、頑張る!」 そう、明日。「タケシ」さんと会います。会ったらどんな話をすればいいんでしょうか。 言うべき事は決まってる。問題なのはどう切り出すか、です。「タケシ」さんはどんな顔するかな。 「sakky、明日待ってるから!」「心配しないで。でも本当にいいの?会ったらショック受けるかもしれないよ。」 「大丈夫!俺はsakkyのこと良く知ってるから。sakkyがどんな人でも俺は絶対裏切ったりしない!」 「信じていい?」「もちろん!」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・信じよう。ここまで来たら信じる他ない。 うまくいけば味方ができるんだし。ダメなら、素直に謝るしかないかな。いや、「タケシ」さんは裏切らないはず。 信じていいんだよね? 3月19日(金) 雨 今日は「タケシ」さんと会う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・予定でした。 早く待ち合わせの場所に行こうとしたんですが、途中でちょっとした知り合いに会って話し込んでしまいました。 気づいた時にはもう待ち合わせ時間を過ぎてました。急いで会話を終わらせて待ち合わせ場所に行きました。 ・・・・・・・・「タケシ」さんらしき人はいませんでした。誰かを待ってる様に見える人は一人もいません。 絶え間ない人の流れを見つめながら、僕は必死に「タケシ」さんの姿を見つけだそうとしました。 「タケシ」さんは僕の姿を見てもsakkyと気づくわけがないんだ。僕から見つけなきゃいけないのに・・・・・・・・・。 結局それらしき人は見あたらず、沈んだ気持ちのまま帰路につきました。 「タケシ」さんになんて言い訳をしようか・・・・・。今日はもうネットを繋げる気にはなれません。 もう寝ます。 3月20日(土) 雨 気まずいけど話さないわけには行かない。思い切ってネットを繋げてみました。 「タケシ」さんも繋いでます。「昨日はごめんなさい。」とメッセージを送っておきました。 「いいよいいよ。気にしてないから。とりあえずお話はできたしね。」・・・・・・・・・・・・・・・・「・・・・・・・・・・え?」 「なんか突然話切り上げて行っちゃうんだもん。もっと話したかったのにな。」・・・・・・・・・・・「それって・・・。」 「あれ?もしかして気づいてなかった?てっきり全部分かってたのかと思ったけど。」・・・・・・・「・・・・・まさか。」 「なんだ。本当に分かってなかったんだ。じゃ、改めて自己紹介。杉崎武志です。よろしく!」 昨日僕が話し込んだ人物。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・杉崎先生。それが「タケシ」さんだって? あんなに平然と喋ってたのに。何で?何で?知ってたの?僕がsakkyだって事。何が、どうなってるの? 「あの、ちょっと今頭が混乱しちゃってて・・・。なんかうまく考えられなくて・・・。続きは明日にして下さい・・・。」 一方的なメッセージを送ってネットを切断しました。まだsakkyっぽく喋ってるのが情けなくなってくる。 なんで僕がsakkyだと分かった今でも先生は普通に喋ってくれてるんだ?なんか意図があるのかな? それより僕はこれからどうしたらいい?まだsakkyのままでいるのか?先生は僕にどうしろと? くそっ!考えたってどうしようもないじゃないか。考えるだけ無駄だ。ああ、もうどうでもいい。どうなってもいいよ! なるようになれ! 3月21日(日) 雨 今日もまた沈んだ気分のままネットを繋ぎました。やっぱり「タケシ」さんとはきっちり話をしなきゃいけない。 どうせ酷いことになるのには変わりない。覚悟はできてる。恐喝でもするつもりか?それとも他に何か? 「やあ。昨日の話の続きなんだけどさあ。」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・来たか。「何です?。」 「俺、ちゃんと約束は守るよ。」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?「約束って・・・・・・・・・どんな?」 「ほら、会う前に言ったじゃん。」・・・・・・・・・・・・・・・だから、それは何?「どんな約束でしたっけ?」 「『sakkyがどんな娘でも絶対イメージを変えない』って。岩本。この約束は今でも守ってるよ。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それって・・・・・・・・・・つまり・・・・・・・・・・・・・・・え? 「本当はなんとなくsakkyが岩本だとは気づいてたんだ。でも実際会うまで確信が持てなかった。」 「なんで?なんで気づいたんですか?」「『なんで?』って言われても・・・そのまんまなんだけど。」 何が「そのまんま」だっ!ちゃんと説明してくれよっ! 「それよりさ、以前ちょっと世話したりしたじゃないか。その時の俺、覚えててくれてる?」 何だよ。奥田のデジカメの事か?それも全て意図があってやった事なのか? 「あの時からかな。なんとなく、気になってたんだよ。」・・・・・・・・・・・うわああああああああああああああああ!! やめろやめろやめろやめろやめてくれやめてくれ「やめて下さい!僕にはそんな趣味はないんです!」 「なんかしゃべり方おかしいよ。それにそんな言い方されると傷ついちゃうな。」・・・・おかしいのはお前だろ! いくら僕でもそんな趣味はない!ホモ。聞いただけで寒気がする!何で僕なんかに!イヤだ!嫌だ!! 「この際、はっきり言うよ。岩本。俺はな、お前のことを」・・・・・・・・・・・・聞きたくない聞きたくないキキタクナイ 「愛してる」 僕は電源を切りました。 第二十週 「凶行」 3月22日(月) 曇り ネットを繋げるのが怖い。繋げたらICQでメッセージ来る。奴から。 これ以上僕を悩ませないでくれ。ただでさえ僕は正常であることを保つのに必死なのに。 sakkyは僕の生き甲斐だ。なのにネットを繋げることが出来ないなんて・・・・・・・・・・・・・・・・。 奴が居る限り僕はsakkyになれない。ならば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・消すか? 先生、頼むから死んでくれ。 3月23日(火) 晴れ 今日はネットを繋げました。ICQはオンになる前に素早く切っておきました。 アンダーグラウンドと称される様々なページをお気に入りに追加しておきました。全て掲示板です。 これには結構時間が掛かりました。本当にたくさんのページがありました。 「希望の世界」に置いてある掲示板からレンタル元のページへ行きました。「TCUP」という掲示板です。 今日はもう遅いのでこれくらいにしておきます。具体的なページのネーミングはこれから考えます。 ・・・・・・僕は何やってんだ? 3月24日(水) 晴れ 新しく掲示板を作りました。題名は「殺人依頼掲示板」です。 まだ僕の発言しかありません。ハンドルネームは「依頼人」。杉崎先生の住所とか個人情報を公開してます。 「誰かこいつ殺してくれ。」と簡単なコメントも添えておきました。 ここからがまた忙しかったです。昨日お気に入りに追加した掲示板の全てにリンクを張りました。 「こんな掲示板見つけた。」と他人のフリして書き込みました。後は待つだけです。 ・・・・・・・・・・・・待つだけ?何を?こんなので人を殺せるわけないだろ? いや、いいんだこれで。僕だってそんな簡単に人を殺したくない。個人情報にはメールアドレスも含まれてる。 メール爆弾とかくらってネットに懲りてくれればいい。飽くまでネット上で死んでくれるだけでいいんだ。 ・・・・・・でも、本当に殺されたら?そもそも僕の勝手な理由で殺人なんか依頼していいのか? 杉崎先生は死に値することをしたか?・・・・・・・・・・・・・・あああ、もういい。やってしまったんだから仕方ない。 僕の中の誰かが「やめて」と叫んでる。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! 今更書き込み削除なんかしたくない!もう戻れないんだよ!誰だよお前!消えろ!ああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! 「声」は聞こえなくなりました。 上篇 終

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