
長編
曾祖父の親心と祖父の想い
けいすけ 2022年6月8日
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このお話は自分の成長のきっかけになる中学3年生の私が体験した…大好きだった祖父との最期に纏わる常識では有り得ない不思議な出来事。
視えない世界は生物学やら医学の常識や法則等の理屈を普通に吹き飛ばす摩訶不思議な世界だと実感した…。
つい、先月…十数年ぶりに叔父と祖母と山菜採りに出掛けた。
小学生の頃は毎年楽しみな行事だった。
早朝の暗い時間に従姉や叔母と他県に出掛けるのが楽しみで唯一大好きな人達に会える時間だった。
あの日も当時と変わらず、遠足前夜の小学生かの如く寝られなかった。
しかし、叔父と合流して車に乗ると後部座席でウトウトしていた。
それでも眠気混じりではあるが、叔父と祖母と思い出話に花を咲かせていると祖父の最期の話になった。
不意に、叔父が衝撃的な一言を口にする。
「実は、今だから言うけれど…栞が御守りを握らせたじいちゃんの手は温もりがあってまだ命がある人間の感触だったよね?俺も確かに会話もしたし栞のお母さんとも会話したし応急処置もした。あの様子を見るとまだ命がある状態だった。その状態から心臓が止まり死後硬直の感触も栞は体験したよね?けれども、あの時の親父は…死斑が出て3時間たった仏さんだったんだよ。救急隊員さんも警察の方もお医者さんも普通ではありえないから驚いていたよ。」
…叔父の話を聞いた瞬間眠気が覚めた。
死斑とは…?調べてみると…。
医学的には死後2時間後に死後硬直が始まり、更に時間が経つと死斑が出る。
「ねえ…叔父ちゃん。今グーグル先生で調べたけれど、死後硬直って心臓が止まってすぐには起きないんだよね?死斑って3時間位じゃないと出ないよね?死斑が出るのも死後硬直が始まるのも息を引取った直後じゃないんだね。」
…スマホ片手に鳥肌が立ち震える私に叔父は冷静に落ち着きながら頷く。
「そうだよ。そりゃあ、救急隊員さんを含めた人の生き死にを見ている人達は驚くよ。…お母さんと俺と栞が最期を看取ったじいちゃんは早朝に既に亡くなった。誰にも看取られることも気付かれることもなくね。多分、栞のお母さんは気が付いたかもね。…中々救急隊員さんが信じてくれなくて大変だった。看護師の栞のお母さんの説明でやっと信じたけどね。」
…普通に振る舞いながらも、祖父との最期を思い出していた。
そして…記憶を振り返ると警察の方にも救急隊員さんにも口を揃えて言われた言葉を思い出した。
「常識では有り得ない出来事は普通に起こる。…目の前でそれが起きたからね。誰かを思う気持ちは不思議な事を起こす力があるんだね。…お祖父ちゃんが手に御守りを握っているのを見てわかった。可愛いお孫さんのお嬢さんの気持ちを知れて嬉しかったと思う。」
「仕事柄…何百人も色々な状況での最期を見てきた。でも…こんな優しい気持ちになれて事件性なんて疑うほうが失礼な最期の方に出逢えたのはお嬢さんのお祖父ちゃん位だ。…御守りを見てわかった。最期に顔を見たいくらい可愛いお孫さんに…御守りを握らせるくらい大事に思ってくれる優しいお孫さんにお別れを言いたかったのだろう。」
…警察の方と救急隊員さんの言葉以外にもう1つ思い出した。
「寿命は神様にも僕達にもどうすることも出来無いけれど、お別れの時間を貰うことは出来た。…御守りを握らせて自分も小さな手を爪が食い込んで血が滲むくらい一生懸命祈る程大事に思ってくれる優しい孫娘を育てたのは我が息子ながら立派!どうやらお兄ちゃんや弟くん達も全員良い子だね。そんな息子が不便だから、神様にお願いしてお別れの時間を頂いたんだ。…生きている状態で逢えなくても栞達は大事な大ジイジの曾孫だからね。ちゃんとジイジが迎えに来たからじいちゃんは上に行けるから安心してね。…笑った顔が可愛いから泣いても笑うんだよ。」
…廊下に蹲り泣いている私の横にしゃがんだ白いズボンの主。
それは…幼い頃に祖父の実家にある仏間に飾られた遺影越しに顔を見た曾祖父でした。
曾祖父は祖父が幼き頃に病死した。
…祖父と瓜二つのニヒルなイケメンさん。
泣いていた私の頭を撫でた優しい手の温もりは祖父と同じだった。
…幼い息子を遺したまま若くして旅立った曾祖父。
孫という存在を見守れても、直接頭を撫でることも抱き締めることも出来無い。
そんな自分とは反対に孫を手に抱き締めたり肩車をしたり撫でたり出来て愛情を沢山かける事が出来た…かつてまだまだ幼かった息子。
そんな祖父の姿と思いを曾祖父はずっと見ていたのかもしれない。
いや…見ていた。
普通に私にも曾祖父の姿は見えていたから。
祖父母が夕方居ないときに米研ぎや洗濯物取込やら風呂掃除やらをしていると、その様子を見ていたから。
「じいちゃんいたんだ。」
…と思うと姿が消えて直後に祖父母が帰宅。
祖父に話すと馬鹿にするでもなく優しく笑い頷くと信じてくれた。
「それはじいちゃんのお父さん。栞は良い子に家のお手伝いをしているから様子を見ていてくれたんだね。これはご褒美だよ。」
私の様子を見ていた曾祖父とそっくりの優しい笑顔を浮かべながら、お小遣いをくれた。
…曾祖父と祖父の思いを理解して泣きながら蕨を探すと後ろから頭を撫でられた。
「おや…?泣いていては美味しい蕨が見えないぞ?」…そんな言葉と共に。
更に目の前が見えなくなる私である…。
曾祖父ちゃん…有難う。
貴男の曾孫に産まれてこれて幸せです。
ワクチン接種の副作用で苦しんでいる最中に親子仲良くお団子のように重なり襖越しに心配そうに見守ってくれて…後ろからお茶目な悪戯を仕掛けようとする曾祖母に慌てる姿を見て爆笑した。
…私がじいちゃん子ばあちゃん子に育った理由はこの人達だなと思う。
じいちゃんばあちゃん…全員大好き!
何時も有難う!
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