
# 死亡推定時刻
――朗読用・配信者一人称版
午前二時十七分から二十三分まで。
俺のコメント欄は、その六分間だけ、俺のものではなくなる。
そう言うと、怪談らしく聞こえるかもしれない。
でも最初は本当にただの荒らしだった。
名前は、カトクカ。
意味のわからない名前だ。
読みづらいし、語感も悪い。
コメント欄に流れてきても、一度見ただけでは覚えられない。
それでも俺は、今でもはっきり覚えている。
投稿者名は、カトクカ。
本文は一行だけだった。
《また同じ話してる》
それが最初だった。
俺は瀬田直人という。
配信ではセタナオと名乗っている。
大手ではない。
ただの無名とも少し違う。
毎回見に来る固定のリスナーがいて、切り抜きも少しは回る。スパチャと広告と案件未満の小さな紹介で、生活費の一部くらいはまかなえる。
それくらいの配信者だ。
配信部屋は六畳のワンルームだった。
机の上にモニターが二枚。
安いアームに吊ったマイク。
リングライト。
壁際には開けていない宅配の箱が積んである。
画面の中だけは、少し賑やかに見える。
だが配信を切れば、部屋はただの部屋に戻る。
俺はその落差が嫌いだった。
だから配信中は、多少変なコメントが来ても笑う。
荒らしが来ても拾う。
きついことを言われても、ネタに変える。
怖がると、負けた感じがするからだ。
カトクカが最初に現れた日もそうだった。
コメント欄の流れはいつも通りだった。
深夜の雑談配信。
時事ネタを少し話して、リスナーの相談を適当に拾って、眠れない人間たちが何となく集まっている。
そこに、知らない名前が流れた。
投稿者名は、カトクカ。
《また同じ話してる》
俺は笑った。
「うるせえな。初見でそれ言うなよ」
コメント欄が少し沸いた。
《草》
《初手煽り》
《セタナオ効いてる》
《カトクカって何》
その程度だった。
カトクカは、そのあとも何度か来た。
投稿者名は、カトクカ。
《誰も本気で見てない》
別の日には、こうだった。
《今日はやめとけ》
俺はそのたびに拾った。
「なんだよ。俺のマネージャーかよ」
リスナーも面白がった。
《カトクカ出勤》
《今日もいる》
《常連じゃん》
《名前だけ怖い》
俺もそう思っていた。
変な名前の常連荒らし。
それ以上でも、それ以下でもない。
変わったのは、ある雨の日だった。
その日は配信前に、一本電話を受けていた。
内容は仕事の話だった。
外には出ていない。
誰にも言っていない。
配信でも触れていない。
それなのに、深夜二時過ぎ、コメント欄にそれが流れた。
投稿者名は、カトクカ。
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