
中編
妖狐
匿名 2020年5月29日
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私は女性専用サロンで働くエステティシャンなのですが、そこで働いている時に起こった出来事です。
私にはもともと霊感があります。
ですのでご来店されるお客様に憑いてしまった様々なモノが見えたり、感じたり、聞こえたりします。
この世に未練を残した物、この世のものではないモノ、動物。
ある程度慣れていますが、中には霊を信じない方もいらっしゃいますし、そういう類のマッサージ屋さんではない為、お客様に悟られぬようマッサージをしながら軽く祓わせて頂いています。
すると覇気のなかったお客様が少し元気を取り戻してお帰りくださるのです。
ただ、中には私のようなアマチュアには到底敵わぬモノを憑けて来られるお客様がいらっしゃいます。
それが【妖狐】です。
ある時、初めてご来店されるお客様がいらっしゃいました。
玄関からのお出迎えを済ました後輩が私の元へやってきて「お客様がご来店されたのですが…酷く怒られていらっしゃいます」そう伝えてきました。
「何か粗相でもしたの?」と聞くと「思い当たる節がない」とのことでした。
何か不快な思いをさせてしまったのかと思い、お客様の元へ急ぎました。
そうするといらっしゃったのです。
妖狐がどっぷり奥まで入ってしまったお客様が。
まるで重い絨毯を被ったようなオーラをされていらっしゃいました。
波長までぴったりとはまってしまったそのお客様は、もうすでに狐のお面のようなお顔になってしまっていました。
眉は釣り上がり、目が切れ長で口まで歪んでしまって居ました。
そういったお客様は怒る理由がなくとも常に怒りの感情をまとっています。
金切り声で何かお話されている事をよく聞いてみると「来店された時のスタッフの挨拶が気に食わなかった」との事でした。
即座に陳謝し、施術をしっかりさせて頂くようお話させて頂きました。しかしその方は私の言っていることにまるで耳を貸してくださいません。時計を見る頃には1時間程が経って居ました。怒りは収まらぬ様でした。ただ、後半は何を仰られているのか理解出来ない内容となっていました。
私はお稲荷様が夢に出てきた事があるのですが、白く細い毛にフワフワで大きな尻尾。尊く銀色のような白いオーラをまとっていらっしゃいます。
一方で妖狐は黒く言葉では言い表せぬような暗く重いオーラをまとっています。まるで憎しみの感情しか知らないような。一種の狂気に満ちたおどろおどろしい姿です。
ブツブツ何か仰られているそのお客様の施術は私がさせて頂きました。
勿論覚悟して入らせて頂きましたがその方の肌に触らせて頂く時、今まで感じたことの無いような吐き気に見舞われ、私は一瞬気が遠のいてしまったのです。人間の肌なのに、動物のような肌質なのです。
そのあとも1週間ほど体調を崩してしまいました。
体調が悪く、祓って頂くしかないと思った私は知り合いに頼み、お祓いをして頂きました。
私はてっきり妖狐が私に憑いてしまったのだと思いました。
でも違ったのです。
私はただ、妖狐にしっぽで両頬を軽く叩かれただけだったのです。
軽く叩かれただけでここまでになるのかとおぞましく、そしてもうあのお客様にはサロンに来て頂かぬよう手配しなければと思ったのです。
次は何をされるのか分からないし、きっとあの妖狐はあのお客様を私に近づけたくなかったのだろうと。
あれは牽制なのだろうと。
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