
長編
別荘地にて…
ぼろぼろ 2017年3月15日
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これは私が社会人一年目の時の話です。
(登場人物は仮名、及び略語とさせて頂きます。)
その年、私を含め4人の新人が入社しました。
私(桃子)、A子、B男、C男の4人です。
私とA子は主に有紀先輩から、B男とC男は
堤下先輩から仕事を教わっていました。
有紀先輩と堤下先輩は同じ大学の出で
同期でもあった為、プライベートでも
仲が良かったので、私達も凄く仕事し易く
恵まれた環境でした。
そんな中、時間が合えば一緒に
ご飯を食べて帰る事が増えました。
女性陣だけの時もあれば、男性陣も混じえ
カラオケでオールしたりする事も…
ある日の事、6人で飲みに行った時
先輩から泊まり掛けでBBQしに
行かないか、と誘われました。
堤下先輩の親が所有する別荘が あるとの事。
私達新人も仕事に慣れ、少し気持ちに余裕が
出てきた頃だったので、二つ返事でOKしました。
夏休みの混雑を避け、皆の予定が空いている
9月の ある土日に決定しました。
そして当日、堤下先輩がキャンピングカーで
集合場所に やってきました。
これまた、堤下先輩の親が所有するもので
私達はガソリン代を負担するのみ。
社会人一年目で仕事を覚えるのに日々、頑張ってきた
ご褒美だと思いました。
車中でも皆、テンション上がりっぱなし。
途中、大型スーパーに立ち寄り食材やら
炭やら買い込んだりして、2時間ほどの行程は
あっという間に、別荘に到着しました。
到着して一休みした後、すぐに準備に
とりかかり、4時頃からBBQ開始。
大袈裟かもしれませんが、久しぶりに
夢のような楽しい時間を過ごしました。
7時過ぎにBBQ用の食材は完食。
そろそろ片付けて、後は室内で飲もう…と。
順番にシャワーに入りながら残りのメンバーで
後片付け。
10時には全員、シャワーも入り終わり
6人が揃ったので、お酒とツマミを用意し、
BBQの続きが始まりました。
すると、有紀先輩が ある提案をしました。
一人一人 順番に怖い話を披露し、
12時になったら、皆で肝試しに行こうと。
堤下先輩も頷いていたので、最初から二人で
企てていたのだと思います。
「え~ぇ怖い~」
という声も上がりましたが、酒の勢いもあり、
好奇心の方が勝ってしまったという感じで
怪談会が始まりました。
最初は言い出しっぺの有紀先輩。
次いで、新人4人。最後が堤下先輩。
この順番で怖い話が披露されていきました。
そして、あと10分ほどで12時という時に
堤下先輩が
「悪い、俺の番じゃないけど最後、イイか?」
と言いました。
異論は無く、最後に堤下先輩の話を聞く事に。
実は、怪談会と肝試しを企画したのには
理由があると話し始めました。
この近くに森があるのだが、森の入口付近に
どの木よりも大きく目立つ木が あると言う。
そして、その大きな木に親子連れの霊が出るという
噂が あるらしいのだ。
偶然、その噂を耳にした堤下先輩は、いつか別荘に来て
その噂が本当かどうか、検証してみたいと思っていた
らしいのだ。
そして、私達新人が その お供に選ばれたのだと…
その時は、先輩、ひどーい!と思いましたが
後の祭りである。
じゃあ、そろそろ行こうか、と有紀先輩。
皆、ビビりながら身支度して出発しました。
懐中電灯は男性陣が持っていました。
建物が立ち並ぶ箇所には街灯も点いていたのですが
森のある方向へ10分も歩くと建物も街灯も無くなり
男性陣の持っている懐中電灯だけが頼りでした。
更に歩く事、10分。懐中電灯が照らす先は森の入口でした。
そこで立ち止まると、有紀先輩が私に
「桃子ちゃん、あそこの木の所、見てくれる?」
と言いました。
有紀先輩が指差す方を見ると、ひときわ大きな木が
立っていました。
先輩:「ねえ、何か見えない?」
私:「いえ、何も…」
先輩:「もっと、よーく見て。」
私:「いえ、何も見えません。」
先輩:「親子連れとかでなくても、何か見えない?」
私:「いや、本当に何も見えないです。」
その後も押し問答が続きました。
有紀先輩は何故か、ヒートアップして、
先輩:「いや、桃子ちゃんなら見えるから!ちゃんと見て!」
私:「え~、何も見えませんよ。本当に。」
先輩:「いーや!桃子ちゃんなら絶体に見えるから!」
私:『見えませんっ!!!』
有紀先輩の しつこさにチョット辟易していた私は、
思わず、大声で強く言ってしまいました。
しまった… と思いました。
ところが、A子が思わず吹き出したのです。
えっ、と一瞬の間の後、急に場が和みました。
有紀先輩も、我に返り、
「ごめん、ごめん。なんだか私、ムキになっちゃって…笑」
堤下先輩やB男、C男も
初めは怖かったけど、私と有紀先輩の やり取りを
見ているうちに、そっちの方に神経が行って、
どうなるんだろう、と思っていたら、私の有紀先輩に
対する一喝のような返しが可笑しくて…
などと口々に話し出しました。
その時は、恐怖心も何処かに吹っ飛んでいました。
堤下先輩:「桃子ちゃんなら絶体に見えるから!」
B男:「見えませんっ!!!」
堤下先輩とB男のモノ真似に皆、大爆笑しました。
『笑うなぁーーー』
キャー
ギャー
うわぁー
皆、一斉に走り出しました。
別荘に帰り着いた時には息も絶え絶え。
ぜぇーぜぇーという息遣いだけが暫く続きました。
少しして落ち着いた頃、堤下先輩が、
「聞いた? 聞こえた?」と皆にフリました。
全員、頷きました。
怖くて怖くて誰もベッドで寝ようとは
しませんでした。
服を着たままリビングで かたまって
一夜を過ごしました。
明るくなると、朝食も摂らずに さっさと
荷物を整理し、別荘を後にしました。
人通りや車通りの多い所まで来ると
少しは恐怖心も薄らいできました。
朝食を摂っていなかったので、
有紀先輩の提案でファミレスに寄る事に
なりました。
正直、食欲は無かったのですが、
このまま解散するのも怖かったので
助かりました。
皆も同じ気持ちだったと思います。
コーヒーを飲んでいるうちに、現金なもので
お腹が空いてきました。
モーニングを口にし、お腹が満たされてくると
不思議な事に もう怖くありませんでした。
皆も そうだったのかは分かりませんが、
気が付いたら昨夜の話になっていました。
そしてA子が有紀先輩に
「なんで、桃子に見えると思ったんですか?」
と訊きました。(皆も、そうそうと頷く。)
私自身も疑問に思っていた事でした。
有紀先輩曰く、怪談会で怖い話を披露した時、
皆は知人の体験談や人伝に聞いた話が
圧倒的に多かったけど、私だけが、自分の体験談を
話していたからだそうです。
“桃子ちゃんなら、きっと見える”
有紀先輩は、そう思ったのだそうです。
私以外:「なるほど、納得だわぁ~」
結局、私には何も見えませんでしたし、
謎の声は全員に聞こえたんですけどね。
あの謎の声は一体、何だったのか…
大木の横に立つという親子連れの霊と
何か、関係があるのか無いのか…
私達には知る由も ありませんが、
やはり、何かしらの噂が立つところでの
悪ふざけは厳禁という事なのでしょう。
後日談ですが、私達がBBQをやった後、
堤下先輩の親戚が利用したのを最後に
別荘は売りに出されたそうです。
理由は分かりません。
有紀先輩が訊いても、堤下先輩は
言葉を濁すだけだったとか…
謎の声は時間の経過とともに恐怖心も
薄れていきますが、
それから間もなくして、別荘が売りに出された
という方がタイミング良すぎて怖いです。
堤下先輩の親戚が何か とてつもなく怖い体験でも
したのでしょうか…
堤下先輩が売りに出した理由を教えてくれないのも…
そちらの方が余程、怖かったですね。
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