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見えないのに見える。
長編

見えないのに見える。

スヌーピ 2015年8月15日
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約12年前にさかのぼります。 当時、主人と子供2人( 2歳と0歳)と私は、主人の実家のある長野県へ引越しました。 義母は子供が苦手なようで、ひと悶着あった後貴方達だけで生活してほしいと言われ、実家から車で10分程度離れた所にある新築アパートに再度引越し。 北向きの玄関で、ドアを開けても周辺は真っ暗。廊下があり、両サイドには寝室とした部屋と、お風呂場とトイレ。 突き当たりにダイニングキッチンがあり、左隣にリビング。 この、玄関からダイニングキッチンに伸びる廊下は、先程も言ったとおり本当に真っ暗で、どの窓を開けても陽が入らなかったんです。 そのせいか、玄関先と寝室は、そばにお風呂場があったからか常に湿っぽく、いつも除湿機をかけてないといけませんでした。 手をぬいたら、すぐにカビだらけ… そんなアパートでも、新築ということであまり気にせず生活が始まりました。 主人は仕事へ行き、上の子は幼稚園へ行き。 下の子と私は、のんびり午前中を過ごしお昼を食べ、片やお昼寝 片や片付け。 鼻歌なんぞ歌いながら洗い物をしていた時でした。 流し台右奥の角辺りに、人の頭頂部が見えたんです。 視界にはその角の右側に廊下が入るんですが、その分の視界が埋められるように人の頭。 何度か視線をそっちに合わせてみても、頭はない。 視線を逸らすとみえる。 実際に直視したわけじゃないのに、自分の脳にはおかっぱ頭の10歳くらいの女の子が浮かび上がるんです。 見たわけじゃないのに。 何だかかわいそうな衝動にかられて、怖がることもせず普通に洗い物を済ませました。 そんな日が何日か続きました。 それまでの間にも、寝てる時に寝室入口に男性が浮いて立ってるのをみたり、除湿機を回しても壁のカビが増えていったりと、不思議なことがいくつかあり。 もしかしたら、私も疲れていたのかもしれません。 ある日の昼下がり。 いつものように洗い物をしていると、またあのおかっぱ頭の女の子が見える。怖がらず続けてると、廊下のほうから、 ドロドロドロドロドロドロ と聞こえてきました。 泥を表す時に出す効果音のような。 そっと廊下に目をやっても、普通。 いつもどおり暗い。 昼寝でもしようかと目を逸らそうとしたその時。 廊下が歪み始めたんです。 いや、自分の目には普通の廊下なのに、脳にはどんどん歪んでドロドロの道が浮かぶんです。 何と言ったらいいか。 目の裏のトコでは泥道に見えてる。 異様な状態と普通の状態が一気に情報として入ってくるんですよ。 それが10秒くらいしたら、その泥道の中から戦争服?とヘルメットを被った男性が、ほふく前進で這い上がってきたんです。 どんどん私のほうに這ってくるんです。 見えてない。 でも見えてる。 変な感覚になり吐きそうになった時。 ティロリロ〜 と電話がなりました。 幼稚園からで、お迎えの時間を過ぎても来られないので気になり電話したとの事でした。 ふとした事で視線を逸らすことができてホッとして、再び廊下をみると、いつもどおり暗いだけ。 さっきの男性もいない。 私は、慌てて昼寝中の下の子を起こして背中におぶって、急いで幼稚園へお迎えに行きました。 それからも、毎日じゃなくてもいろんなことが起き、見え。 主人に相談しようか迷ったままいたんですが、さすがにキツくなりいう事にしたんです。 主人はダンプ乗りで、このテの話は全く信じないような人なんですが、話すと決めたその日から、今日はこんな事があった、夜中にこんなものが見えたと話すようになると、少し気にかけてくれていたのか何なのか、知り合いに陰陽師とやらにみてもらった人が居て、ちょっと行ってみたらどうかと言われたようで、ある晩仕事から帰ってきて話をされました。 その当時、いろんな番組である陰陽師のかたがしょっちゅう出ていたのを思い出します。 この日本には、正式な陰陽師?といわれるかたが6名ほどいるらしく( 間違った情報だったらすみません )、その中の1人が長野県松本市のとある山の方にいらっしゃるそうで、次の休みに連れてくよ、と言われました。 私は、かなり半信半疑ではありましたが、まず家庭を顧みないこの人が言うのだから、と行く準備をしながらその日を待ちました。 ある日の日曜日、事前に連絡をしておいた、そのかたの所へ向かいました。 山の中と聞いていたけど、けっこう普通で山道の脇にある一軒家でした。 ですが、その母屋の裏手のほうに正面からは見えないお堂のような部屋があり、その感じをみた時急に動悸がしたのを今でもハッキリ憶えています。 「まず奥さんだけ入ってください。」と、私だけ中へ通されました。 主人は子供達のおもり。 1人になる時間なんてかなり久しぶりで、ドキドキしながら中へ入りました。 広い畳の部屋で、奥の方にはまきをくべて燃やすような、囲炉裏のような大きな囲い。 像のようなものは無く、随分とさっぱりした、でも威圧感のある部屋でした。 座らされると、開口一番 「ご主人とは離れる事になると思うので、この場にお呼びしませんでした。」と。 「近いうちにそんな状況になると思いますが、慌てず騒がず、静かに身構え、お子さんの為に生きてください。」 あまりの唐突な言葉に、はい。としか言い返せませんでした。 色々と質問したかったことも、その唐突な言葉に対する疑問も、スーッと消えていくのがわかりました。 どんな体験をしたのか、もう一度聞かせて下さいというので、事前の電話で話した通りの内容を説明してると、「目に見えるというより頭の中に見えてるというか、不思議な感じなんです」という私の説明になると、その方は目を細め、私の額辺りをじっと見てきました。 そして、 「わかりました。では、ご主人をここへ呼びましょうか」と言い、外へ行ってしまいました。 私以外誰も居ないはずのその部屋に、なんか居る感じ… 私の頭の上? 中? だんだん首が痛くなり、肩が痛くなる。 凄く怖かったです。 数分すると、主人が1人で来ました。 子供達はその家の奥様が見ててくれてるとのことで、安心して2人で話を伺えました。 主人には特に変わった体験はないこと、さっき話した私の体験を再度話すと、私を部屋の真ん中に座禅を組むように指示をされました。 言われるがまま座禅を組む私。 それを少し離れた場所から見ている主人。 何をされるのか不安でなりませんでした。 「目をつむり下を向くように。決して目を開けてはいけませんよ。頭の中に何か浮かんでも意識して消すように努力してください。」 手の親指と人差し指で輪っかをつくり、掌が上を向くようにして太ももの上におきます。 自然と背筋がのびて気持ちよかったのですが、その瞬間から私の頭上で何かを大声で唱え始めたのです。 テレビでみたのと同じ感じ…なんて思いながらいると、少しずつおかっぱ頭の女の子が頭の中に浮かんできました。 嫌だ!と思い打ち消そうとしても、髪の毛1本まで鮮明に浮かんでくる。 そして、あの、ドロドロドロドロドロドロ… 耳をおさえたくても手を動かせない。 必死になってもどんどん頭の中いっぱいになるんです。 すると、遠くのほうから 「左の肩から入り右の肩から抜けなさい。右の腰から入り左の腰から抜けなさい。」 と聞こえてきました。 怖いよ、怖いよ、怖いよ、 もう終わってほしい! それから数秒すると、 「目を開けてもいいですよ」 と優しげな声が聞こえました。 目を開けると、さっきと変わらない畳の部屋。 でも変わってたのは、汗だくの陰陽師のかたと、ひきつった顔をしてる主人。 何があったのか、私にはわかりません。 ひたすら目をつむってた間は、そのかたの何かを唱えてる大声と遠くから聞こえたあの言葉しか聞こえませんでしたから。 「今日はこれでおしまいです。後日、こちらからご自宅に伺って様子を見たいんですが、宜しいですか。」 と言われたので、住所と連絡先を残しました。 主人が奥様に、子供達の面倒をみてもらったお礼を言って車に戻ってる時に、私は気持ちで包んだ現金を渡そうと思いました。 すると、少し微笑みながら、 「いらないですよ、お気になさらず。」と、何度言っても受取ってくれません。 「これは貴方達のお金ではないでしょう。ご主人のお義母さんのでしょうか。今回はお金はいりません。貴方が働ける環境になり、しっかり稼げるようになったら、貴方のお金であれば有り難く頂戴します。」 とてもびっくりしたのと、とてつもなく恥ずかしくなりました。 でも、あえて「私のお金」という表現をされてたので、帰り道あー、やっぱり別れるのかなーなんて思いながら帰宅しました。 もちろん、そんな話をされたとは主人、義父母には言ってませんが。 あ、そういえば。 車の中で、主人に「大丈夫?顔色悪いし。さっきひきつってたけど、なんかあった?」と聞くと、 「あん時、あの人お経みたいの言ってた時な。途中で、線香あげる時の灰がいっぱい入ったやつ持ってきて、お前の前に置いたんだよ。したらさー、その灰がグルグルーつって蚊取り線香みたいな線がよー…」 もう説明するだけでいっぱいいっぱいのようでした。 「誰がやってんだか知らないけど。不気味だー…お前は泣き出すしよー。あの人はしっかり見ろ!って怒鳴るしよー。お前の手!だんだん動いて、拝むみたいな形になったら、あの人が終わりっつったんだよー」 もはや理解不能で、その日の夜は珍しく1人で夜更かししてボーッとする事にしました。 いくら考えても腑に落ちない。 そういえば、あの人に手は指で輪をつくり太ももにおけと言われて言う通りにしたはず。途中ギュッと力入れてたから、手と足の感覚は覚えてるんです。手を合わせた記憶もない。 でも確かに… 目を開けた時、手を合わせてた。その時は気にもとめてなかったけど。 それに泣いた記憶もない。まったく。 主人が怒鳴られたっていうけど、そんな声聞こえたっけ…? 腑に落ちないんです。今考えても全然わからない。 何日か過ぎて、あの陰陽師のかたが私達の住むアパートに来てくれました。 玄関を開ける前に周りを見渡すと、 一礼して家に入りました。 んー、と辺りを見てまわると、ダイニングキッチンのとこで止まり廊下を向いて。 「このあたりに見えたんですか?」 というので、 「はい、そうです。今はあまり嫌な感じはありませんが、おかっぱ頭の女の子はいまだに見えたりします。」 とこたえました。 ダイニングの真ん中あたりに腰をおろすと、小さなテーブルなどあったら借りたいというので、子供が使ってた壊れたおもちゃのテーブルを用意。 その人は、袋からろうそくを出しました。 火をつけて、またあの日と同じように大声で何かを唱え始めたのです。 初めはゆったりとついてた火でしたが、だんだん揺れ始めると火の先が廊下に向かって伸びだし、けっこう大きめの火になりました。 メラメラと燃えて、ロウも溶けてきたころ、ろうそくに目が釘付けに。 溶けたロウが、下に垂れるのでなく、なぜか上に向かうように形作りながら固まってきたんです。 まるで、釣りをしてしなってる釣り竿みたいに。 すると、今度は釣り糸みたいに下へ垂れ下がってくる。 そして、その先端に直径5cm弱の塊ができました。 唱える声もおさまり、肩の力が抜けたころ、その先の塊を取って見せてくれました。 とても綺麗な白で、目を凝らしてみると、なんか人が座禅を組んでいるように見えました。 「そうです。これはここにいる守り神でしょうかね。くっきりと形に出てますね。私達は、こういうのを"華がさいた"といいます。」 と言われました。 ちょっと感心しながら見てると、逆さまにして見てください、というので言われた通りにしてみると。 さっきまでの綺麗な感じから一変。 そこに見えたのは、ものすごい形相をした鬼のような顔でした。 目の玉もくっきり。 「これがここにいるモノではないかと思います。強い怨念のようなものがあるんだと思いますが、何か心当たりはありますか?」 まったくありません。 長野県にもその場所にも、なんのゆかりもありませんから。 ただ、主人は実家もあるし、何かあるかも…とは思いましたが、本人不在でしたし推測も良くないかと思いながら、その場は何もないと伝えました。 とりあえずダイニングと廊下の端と玄関に盛塩をしてもらい、多分もう見ることはないだろうと言われました。 少しホッとして車までお見送りをしようと思った時。 「そういえば、ご主人とはどうですか?その後何もありませんか。」 と言われたんです。 あぁ、前行った時に言われた話かぁ、と思い何かあるんですか?と訪ねましたが、いや無いならいいんです、とだけ言われ帰っていかれました。 その日はとても疲れたのか、早めに寝てしまった私。 それから3ヶ月ほど。 何も見なくなった私は、以前のような生活に戻れたーと毎日普通に暮らしてました。 主人も、いやー良かったなーなんて言いながら毎日早く帰って来るようになり、安心しきってました。 が、ある日。 ふとした事がきっかけで、主人が浮気をしてたことが判明。 あーあ、と思い主人から事情を聞いていたところ、あまりに衝撃の事実が。 何やら、他に子供がいる、と。 いや、いるらしい、と。 本人もわからない子供ってどういう事かとたずねると、妊娠してると相手の女性に言われ面倒だから別れてしまったというんです。 その後に、何度か連絡がきて子供が産まれた事や、DNA鑑定をして認知してほしいと頼まれた、などと言われた、と。 しかもそれが1人の女性だけでなく、数人いるらしく、話を聞いてる途中に気が遠のいていくようでした。 こんな事って、本当にあるもんなのか?と、今も信じ難い話であったのは事実です。 そのすぐ後で私は実家に帰り、離婚もして生活してます。 それからは、嫌な感じも頭の中に見えてる感じもないです。 ある程度落ち着いた頃、お世話になった陰陽師のかたにお礼がしたく連絡をとりました。 今の自分の状況や主人とのこと、あのアパートで見えたものも今は見えないこと、色々話してると、その方が 「良かったです。ご主人が話されたかわかりませんが、貴方が座禅を組んでおられた時、ご主人は悟ったはずなんです。沢山の水子を背負っていらっしゃいましたから。きっといろんな邪気を呼び寄せてたのでしょう。たまたま貴方に見えたのです。大丈夫ですよ、これからは。」 とても安心しました。 今は、あの時言われたように、子供の為に精一杯です。と言ってもそれは親として当然でしょうが、とにかく誠実でいようと心がけています。 ただ、今も気になるんです。 あの、おかっぱ頭の女の子。 すごくかわいそうな感じがしたんです。 かわいそうな。

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