
長編
恐怖の鐘の音(漫画の元ネタ)
匿名 2024年9月27日
chat_bubble 0
4,033 views
私は過去、芸人や漫画家に怪談ネタ(自分や他者の心霊体験談等)を提供したことがあるが、これは今月(2024年9月24日)発売された、怖い話を集めた某心霊体験漫画雑誌で描かれた怪談の、オリジナル・ロングバージョン。
高知県室戸市の西部地域と東部地域との境の峠に三津坂トンネルという、車道と人道が並行するトンネルがある。前者は昭和46年3月完成で全長390m、後者は平成2年2月完成で全長475m。
この二本のトンネル共、心霊体験談がある。これはその上方の、明治前期迄利用されていた三津坂の峠跡を探していた時、その場所を教えてもらった森林伐採作業をしていた方等から聞いた話。
車道のトンネル開通後、市役所に次々とある苦情が寄せられた。
「トンネルの壁面から恐ろしい形相の女が覗いている」と。これは壁面に女の顔が浮かび出て、そこを通る車のドライバーを睨みつけているように見えるから、何とかして欲しい、というもの。
あまりにも苦情が寄せられるので、市役所ではその場所をセメントで塗り固める処理を施した。が、何日か経つと同様の苦情が寄せられた。塗っても尚、女の顔が浮かび出てくるのだ。
そこでまたその上から塗るのだが、やはりまた顔が浮かび出る。
遂に役所では、その上から鉄板で覆った。そうすると流石にもう顔は出なくなり、車道トンネルの方は一件落着となった。
尚、この女の正体は藩政期、上方の三津坂の峠付近で野盗と化した浪人武士らに手籠めにされた挙句、殺された女性だと言われている。100年以上経っても浮かばれないということは、その女性は結婚でもする予定だったのかも知れない。
ここを通る県道は昭和期、トンネルや周辺に路側帯が殆どなかったことから、歩行者や自転車利用者のために人道トンネルや車道と分離した歩道を造ることになったが、そんな折、トンネル東方である交通死亡事故が起こる。
小雨降る、霧が立ち込めた夕刻、親子の遍路が車に撥ねられた。皮肉なことに、人道トンネルと歩道が完成したのは、それから間もない頃だった。それ以来、雨の日の夕方や夜、人道トンネルで親子の遍路の霊が目撃されるようになった。
流石にこれは市役所でもどうしようもない。
尚、私がこのトンネルを訪ねたのは去年9月頃だったが、人道トンネル内を撮った写真の中に二枚、オーブが写ったものがあった。
オーブ写真は大別すると、デジカメ等のフラッシュの特性に起因するものと、霊的なものに分けられるが、このトンネル内の二枚の写真はフラッシュを焚かずに撮ったもので、オーブの形も歪。つまり霊的オーブ。雨天でもないのに撮れたということは、未だに遍路の霊はトンネル内に留まっているのだろう。
そんな人道トンネルで平成前期頃、摩訶不思議且つ、恐ろしい現象が起こる。
ある時期、市内の某学校で奇妙な噂が立った。人道の方の三津坂トンネルを夜、通ると鐘の音がどこからともなく聞こえることがあり、それを8回聞き終える間、且つ、8分以内に通り抜けないと異界に連れ去られる、と。
如何にも学校の怪談風だが、ある日、その学校のA君は部活で帰りが遅くなった。市内の中心部に近い各学校は皆、西部地域にあるが、A君の自宅は東部地域だった。つまり自宅へ帰るには必ず三津坂トンネルを通らなくてはならない。
A君も前述の噂は聞いていたが、都市伝説の類だろうと思って、大して気には止めてなかった。が、いざトンネルの入口まで自転車で来ると、何か胸騒ぎを覚えた。
しかし「いやいや、そんなことはない。」と思い直し、トンネルへと入る。が、何かいつもと違う雰囲気があった。どこがどうと言う訳ではないが、じめっとした空気が身体に纏わりつくような感覚があった。
何メートルか進むと、いきなり「ゴーン!」という鐘の音がトンネル内に鳴り響いた。
「え!?どういうこと?この近くに寺らぁ(寺など)ないのに。」とパニくるA君。
考えている間も「ゴーン、ゴーン」と鳴り響く。A君は更に焦る。鐘の音の鳴る間隔が、予想より短かったのだ。
「いかん、早う出んと(早く出ないと)。」と、ペダルを勢いよく漕ごうとしたが、なぜか急にペダルが重くなり、スピードを上げることができない。
「ゴーン、ゴーン」と無情にも鐘の音は続く。
A君は汗をダラダラ流しながら、必死に立ち漕ぎして前に進もうとする。
「ゴーン、ゴーン」何か鐘の音の鳴る間隔も早まっているように感じられた。
「い、今、何回鳴った!?何分経った!?」と、血の気も引く思いのA君だが、一心不乱にペダルを漕いだ。
そして「グゥオオオオーーーン」と、特に大きく長い鐘の音が響き渡った。
「出口はもうそこや!」と出口に向かうA君。
「ゥオオオオオーーーーン」鐘の音は小さくなっていった。
「いかん!もう終わる、もう終わる。」と鳴り響く中、A君は・・・・。
ハッと気づくと、トンネルから出ていた。後ろを振り返ると、トンネルは静まり返っていた。
次の日、登校してこの話を教室で友人らにすると、「何言いゆうがな(何を言っているのか)。」と相手にされないばかりか、誰もトンネルの鐘の音の噂を知らなかった。
「いやいやいや、みんな前、男子も女子もこの噂のこと、話しよったやろ(話していただろ)。」
と、ムキになるA君だったが、「おまえ、大丈夫か?」と言われる始末。
一体、あの鐘の音は何だったのか。もし鐘が鳴り終える間にトンネルを抜け出ることができなければ、自分はどうなっていたのか。なぜ噂の「事実」まで消えたのか。
今更ながら、恐怖を覚えるA君だった。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(0件)
コメントはまだありません。