
これは、小学生の頃、東京から転校してきた友人から聞いた話だ。
彼が通っていた東京の小学校では、校舎の建て替えが決まり、翌年から仮校舎で学校生活を送ることになっていた。
解体される前の春休み、仲の良い数人で最後に校舎へ忍び込み、思い出を作ろうという話になった。
誰かが「せっかくだから肝試しをしよう」と言い出し、みんな賛成した。
その校舎には地下があり、東京大空襲の写真や遺品が展示された資料室と図工室があった。
地下の廊下の途中には、女の人が描かれた大きな絵がある――そんな話をみんな知っていた。
そこで肝試しでは、その絵の下に一人ずつ違う種類のシールを貼ってくることがゴールになった。
翌日、それぞれのシールを確認し、本当に全員がたどり着けたか確かめようということになった。
シールはアニメのキャラクターだったり、星だったり、動物だったり。
「これなら絶対俺のだって分かる。」
そんな話をしながら笑い合っていた。
中には、
「夜中の2時になると、あの絵の顔が笑うらしいぞ。」
と噂話をする者もいた。
「そんなわけあるか。」
「じゃあお前、2時まで残れよ。」
「それは無理。」
結局、みんな笑っていた。
当日も終始明るい雰囲気だった。
「あの蛍光灯、マジでえぐい。」
「地下、意外と怖くね?」
「足音めっちゃ響くじゃん。」
一人ずつ地下へ向かい、戻ってくるたびに感想を言い合う。
「あの女の絵めっちゃ視線感じた」
「すごい不気味だったね」
「ちゃんと貼った?」
「もちろん。」
「本当に全員たどり着けてんのか?」
「明日確認しようぜ。」
誰もが、ただの思い出作りだと思っていた。
---
翌日。
約束どおり全員でもう一度校舎へ入り、地下へ向かった。
しかし。
昨日見たはずの絵は、どこにもなかった。
「……え?」
「俺、絶対ここに貼ったぞ。」
「いや、おかしいって。」
「ここだったよな……?」
みんな口々に言い始める。
すると、一人が廊下の先を指差した。
「……おい。」
全員が振り向く。
資料室の扉には、小さなガラス窓がはめ込まれていた。
その窓の下に、昨日持ってきたシールが一枚残らず、きれいに貼られていた。
「……誰かが貼り替えたのか?」
誰も返事をしない。
しばらく沈黙が続いたあと、
「先生に聞いてみよう。」
誰かがそう言った。
みんなは職員室へ向かった。
片付けをしていた年配の先生に尋ねる。
「地下にあった女の人の絵、もう片付けたんですか?」
先生は少し考え、不思議そうな顔をした。
「絵?」
「資料室の前にあったやつです。」
後日談:
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