
元デリ嬢の唱子から聞いた話。
月に2回ほど、指名で自宅に招く客がいた。
その男は落ち着いた雰囲気のある紳士的な人物で、特に無茶な要求などはしない上にチップもくれる上客だった。
ただ一つ、特殊な性癖があった。
それは「四角」に異常な執着を持つ「四角フェチ」。
家具は勿論、雑貨や照明は四角に統一され、まるでAI生成されたような部屋だった。
プレイを開始する際も、男が用意した四角いブラジャーや四角いショーツを毎回着用した。
とある日、帰る支度をしている唱子に向かって男は言った。
「唱子ちゃんを毎回指名してるの日曜日って気付いてた?日曜日ってさ、漢字に四角がいっぱいでしょ?しかも唱子って字、四角多いじゃない?」
唱子は営業スマイルで話を合わせた。
「次に指名する時、楽しみにしてて」
下着でも新調するのだろうかと思い、帰り際挨拶をして振り返った時、持っていたバッグが玄関脇にある積み上げられた木箱に当たり崩れ落ちてしまった。
男は慌てる様子もなく唱子に怪我がないか確認してから木箱を元に戻した。
「また次もよろしくね」
男は優しい笑顔を見せ、丁寧に唱子を見送った。
……どこが怖い話なの?ただの性癖の話じゃん。
露骨に不満を唱子にぶつけると、唱子は少し黙った後言った。
「あの木箱…。サイズがバラバラだったんだよ。リングケースくらいのものもあったし、大きいのはメンズのシューズボックスくらいあった。」
「崩れ落ちた木箱の中でひとつだけ、蓋が外れて少し中が見えたんだ…。」
「………手首が入ってた。」
「箱の中ギチギチに、握りしめられた手首が入ってたんだよ。一瞬だったし、本物かどうか確証はないけど、私は本物だと思ってる。」
唱子は神妙な顔をして続けた。
「他の木箱に中身があったかは分からない。けど、楽しみにしててなんて言われてまたあの家に行ったら、私も木箱の中身にされると思って…。」
「警察には言えなかった。さっきも言ったけど本物の手首か確証はないし、通報したらデリヘルやってること親にバレるかもしれないから。一人親で大学まで出してくれたお母さんに顔向けできないよ…。」
一人暮らしをするために頑張って貯金をしていたことと、貯めたお金でお母さんを旅行に連れて行くんだと笑っていた唱子を見ていたわたしは何も言えなかった。
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