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長編

作法の話

ヤマ 2017年12月29日
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宗教には様々な作法、例えば仏教なら葬式や法事の作法だとか、神社なら神事の作法だとかお参りのやり方の作法、勿論海外の様々な宗教にもそれぞれ作法があり、宗教というものはなんでも作法まみれなわけです。 これはそんなとある儀式に於ける、住職である私の父から聞いたある“作法”に纏わるお話です。 あれは私が5歳の時、母に連れられ実家のお寺の山内にある寺の敷地の山で竹の子取りを二人でしていた時でした、私は母が作る竹の子料理が好きで、毎年時季になれば二人で山に繰り出し竹の子取りをしていました。 二人で山の中でも穴場である良い竹の子が沢山採れる場所を目指して母と歩いていたら、母が突然私を止めてこんな事を言うのでした。 「今日はこっちからじゃなくて違う道から行こうね?」 何時もの道ではなく違う道から行こうと言う母、私は「なんで?遠回りになるよ」と首を傾げながら訪ねると「違う道から行けば沢山竹の子ある場所が見付かるかもしれないよ?だから探検探検♪」と、私の事をニコニコと笑いながらわざわざ近道を避けて遠回りな道に連れていきました。 その時は私は特に違和感も感じず、母に連れられ呑気に「探検探検」などと言いながら遠回りな道を歩いていました。 そんな竹の子採りでの出来事から14年後、私が19歳になった時の話で、ある日住職である父と母が私に言いました。 父「お前も20前のいよいよ大人になる歳だから話しておかないとな」 そう父が言うと母が言う 母「昔お母さんと竹の子採りした時、わざと遠回りしたことを覚えてる?」 そう母が言うので、私は「覚えてるよ?」と頷くと父が言った。 父「実はな、こーいうお寺の中ではな、あの有名な “丑三つ時参り”事…藁人形の呪いの儀式なんていうのがたまにあったりするんだ あれは神社でやるってのが思われがちであるが、実は仏様とかが奉られてる寺で行うことも珍しい話じゃなくてな」 衝撃のカミングアウトでした、まさか家の寺でそんな、あの有名な丑三つ時参りが行われていたなんて今まで知りもしませんでした。 母「で、あの竹の子採りの時に、お母さんがわざわざ迂回して遠回りな道に連れていったのもね、目の前の木に藁人形が五寸釘で刺してあったからなの」 そんな話を聞かされ私は更に混乱する、そんな私を見て父が言います。 父「まあ…そう、丑三つ時参りをされたからと言ってな、真面目にお務めをこなしている我が寺が呪われることはない、それにここは仏様の家でもあるんだ、そんな呪いなんて仏様が守ってくれるから安心しなさい その証拠にこの寺では先々代ぐらいの時代から丑三つ時参りがあるが、なにもトラブルに巻き込まれた事はないし、14年も経ったのに、何もないだろ?」 そう言われ、確かに藁人形があったというあの竹の子採りから14年も経ったその時まで、なにも不幸は無いので呪いなんて無いと安心できた。 父「それでな、これはあの時お前と母さんが竹の子採りしていた時に見付かった例の藁人形の実物なんだが、これは次回の遺品供養に回すつもりの物だが お前にも実際に見てもらいたくてな」 そう父に見せられたのは本物の、漫画や映画でよく見るようなあの“藁人形”でした。 手足や頭や胸に五寸釘が刺さり、呪いたい相手の名前が書かれた札が貼られた正に想像通りな藁人形でした。 しかしこう実物を見てしまうと、なんだか本当に凄まじい邪気を感じずにはいられませんでした。 そんな藁人形ですが、私は気になる事がありました、貼られた札に「○○は死にました」そんな一部が書いてあるのです。 何故か確定系な「ました」と終わる書き方、変な違和感があり、父に訪ねると 父「呪いにも作法があってな、「○○呪われろ」とか「呪ってください」とか、そう呪う時には書くと思われがちなんだが 呪いをする時の作法で、願掛けがより一層強い願望になるように「呪われました」みたいな確定系な書き方をすると、呪いが成就すると言われてるみたいでな これはそんな作法に乗っ取った礼儀正しい呪いの方法…みたいなんだ、まあ…呪いに作法も糞もない気がするがな」 そう説明する父に私はなるほどと、改めて藁人形を見た、「死にました」と言うのはそれほどまでに強い恨みがあり、願掛けが成就するような思いで書かれたもの何だなと。 だが、そん事を思っていたら父と母が言うのでした。 父「ただな…この藁人形には嫌な後日談があってな、実はこの名前に書かれた○○と言うのが…家の檀家でな」 私「え!?」 母「でね、この藁人形を見付けたあの竹の子採りから丁度2カ月後に、名前に書かれた○○さん本当に亡くなられたのよ」 ここへ来て更なる衝撃な事実、本当に呪いが成就したのか…名前にあった呪いの相手は家の檀家で、2カ月後に本当に亡くなられた…。 これは完全に藁人形に書かれた通りに呪いで死んだと思われてもおかしくない話だった。 私「そ、そんなの大丈夫なの…!?まだ呪いが残ってたりは」 父「ああ…安心しろ、一度使用された藁人形とかには、効力は無いと言われてて、これはもうただの“藁人形”でな 亡くなられたって言うこの○○さんも、元々癌で何時亡くなられてもおかしくない人だったわけで、たまたまこう…藁人形に名前書かれてたからと言っても実際に呪いだったかなんて断定は出来ない だから、そう心配するな」 そう父に言われ私は取り敢えず納得しました だが、最後に父は意味深な事を言うのでした 父「ただまあ…普通は「呪われました」と書くのが定文で、家の寺で見付かった藁人形にもだいたいは「呪われました」と書かれてたのに 何故この藁人形には “○○は死にました”なんて書き方がしてあるんだ?今まで見たこともない書き方だ、死にましただなんて」 …呪いにも作法がある、そんな話を聞かされた19歳の時の話でした 父は「藁人形とか丑三つ時参りなんか実在しても、“呪い”なんてのは迷信だ」と言ってはいましたが… 「呪われました」ではなく 「死にました」と書かれた藁人形 それによって…一応持病に癌があり、いつ死んでもおかしくなかった○○さんが、藁人形発見から2カ月後に死亡 はたしてこれが呪いの藁人形のせいだったのかどうかは知りませんが、“死にました”なんて書くからにはさぞ、恨みが強かったのかなと未だに思います 以上 呪いの儀式の作法に纏わる私の実体験でした

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