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長編

葛籠 (つづら)

えい 2020年6月27日
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ある廃屋に、肝試しに出掛けた3人の男女が居ました。その廃屋には、家財道具が一式あり、生活感が残っていて、今にも奥の暗闇から、家人が現れそうな雰囲気が漂っていたそうです。 築年数は分からないものの、ブラウン管のテレビや衣類等を見てもかなり昔に建てられたものだという事が何と無く分かったらしい。 噂では、その廃屋の何処かに大小の葛籠があり、その葛籠の中を見た者は呪われると云われていたらしく、3人は、その葛籠を見付ける為に、深夜、その廃屋に肝試しに行ったということだった。 A♂、B♂、C♀ この肝試しの話を持ち掛けて来たのは、Aだった。Aの友人がそんな事を話していたのを小耳にし、廃屋への行き方を聞きBとCを誘っていた。 BとCは幼馴染みで、良く二人で心霊スポットを訪れていた程仲が良かった。 BはAと友達だったので必然にCとも仲良くなり、Aから紹介された心霊スポット等にも出掛けていた。 A 「ちょっと、面白い情報仕入れたんやけど、聞きたい?」 B 「面白い話?何?」 C 「聞きたい、聞きたい。」 A 「実はさっ○○町の外れの山の中に、廃屋があって、その廃屋の中には、葛籠があるらしいんだ。」 C 「葛籠って何?」 B 「なんか、時代劇とかで出てくる長細い箱だろ?」 A 「うんまぁそんな感じだ。」 C 「へ~。」 B 「そんで?その葛籠が何なの?」 A 「話じゃその葛籠は、大小あるらしい。で、葛籠の中を見たら呪われるらしい。」 B 「アホくさっ、そんなん今の時代に残ってる訳無いじゃん。」 C 「その…つづ…ら?見付けた人居るの?」 A 「んー、そこは知んね。」 B 「何だよ。肝心な所じゃん。」 C 「呪いってどんなの?」 A 「それも分からん。そいつの話じゃ葛籠が大小あるってだけだったし、中を見たら呪われるっていうのも、人から聞いたらしいから。」 B 「結局、あるかどうかも分かんないってことかよ?」 A 「ハハハ…、だな。だからよ、行ってみねぇ?」 C 「どうせ暇なんだし、行ってみようよ。」 B 「まぁ、暇つぶしくらいにはなるか。」 そんなやり取りがあった後、Cは、いつも心霊スポットに持って行ってるリュックサックを手にして、Bの家に行き、AとBと合流すると、Aの運転する車で、廃屋へと出掛けた。 一時間程車を走らせ、○○町の外れに来た。 車が通れる道は、県道のみで、山の方には無かった為、県道沿いにある停車スペースに車を止めると、Aの案内で山の道なき道へ3人は1列になり入って行った。 時刻はとうに0時を回っていた為、車通りも無く、辺りは、3人が草を分けながら進む音しか聞こえなかった。 B 「獣道も無いんやね?」 C 「Gパン履いてきて良かったぁ。」 A 「あんま人来てない感じか?道もねぇし…。」 C 「A君、本当にこっちでいいの?」 B 「こんな所で遭難とか笑われっぞ?」 A 「大丈夫だって、もう少しだと思う。」 3人は、さらに山を登って行った。道なき道を進み15分くらいした時、少し開けた場所に出た。 そこは、道の様でもあった。 C 「狭いけど道みたいね。」 B 「昔は道があったって事か?」 そういって、道らしき場所を懐中電灯で照らしていた。 A 「多分、そうだろ、家あったんだから、道ないとダメだろ?」 そう言って、道であった道らしき場所を更に登って行くと、その廃屋に辿り着いた。 C 「うわぁ…おっきな家~。」 懐中電灯で照らされた廃屋。長い年月を掛けて少しずつ朽ちて行ってる感じだった。 B 「二階建てかよ。二階は床抜けそうだな?」 A 「まさかこんなデカイ家とは想像して無かったゎ。」 C 「でも、これだけ大きな家なら、あるかも知れないね。」 B 「ん?探しがい有りそうだな。」 A 「じゃっ中入って探してみるか!」 3人は、朽ちた玄関横から、中へ入り、一瞬、固まった。懐中電灯で照らされた室内には、今さっきまで、生活していたかの様に家具等が置かれていたからだ。 テーブルの上には、茶碗や箸が置かれ、テーブルの横には、小さめのポット、急須に茶筒。 ブラウン管のテレビが小さな台の上にあり、色褪せたカーテンが下がっていた。 A 「茶碗や箸は、誰かのいたずらやろ、きっと。」 B 「ブラウン管のテレビっていつの時代よ?」 C 「全部家具とか色々あるんだね。住んでた人って、引っ越したとかなのかな?」 A 「引っ越したなら、家具とか持って行くやろ、普通。」 B 「殆んど残ってるって…何なんやろ?」 そんな事を色々考えて、少し怖くなった3人は、目的の葛籠を探す事にした。 1階を隈無く探したが、葛籠も葛籠の様な箱も見付からなかった。 A 「じゃあ2階か?」 B 「床抜けねぇかな?」 C 「私、先行こうか?」 B 「いや、先に俺らが行って大丈夫そうか確かめて来るゎ。」 そういって、AとBがゆっくり階段を登って行き、暫くすると2階を歩き回る音が聞こえた。 B 「Cいいぞ。大丈夫そうだ。」 C 「そう?じゃあ行くね。」 Cが2階に上がると、Aは奥の部屋をガサゴソと漁っている様だった。 Bは、階段脇の部屋にいた。 だから、Cは、階段から正面にある部屋を覗いた。そこは、夫婦の寝室の様で、布団が二組並べて敷かれていた。 それを見て、少し気味悪くなったCは、布団を踏まないように部屋の中に入り、押し入れを開けて中を懐中電灯で照らした。 衣装ケースに入れられた衣類等が積まれていて、奥が良く見えなかったが、聞いていた葛籠の様な大きな物が入っている様には思えず、押し入れを閉めた。 辺りを見渡しても葛籠は無く、AやBの所へ行こうと踵を返した時、天袋に目が止まった。 C (あそこにならあるかなぁ?) 押し入れを少し開けて、中段に足を掛けて立上がり、天袋の小さな戸を開けた。 C 「あっ!」 思わず声が出た。 その声に気付いたBがCが居る部屋を覗いた。 B 「何かあったか?」 C 「多分、コレの事じゃない?」 そんな事を言っていたら、Aもやって来た。 A 「マジかよ?あったん?」 C 「多分、そうだと思うよ?でも…私一人じゃ下ろせないから、下で受け取ってね。」 そういうと、足で押し入れを器用に開けて、少しずつ天袋から、箱をずらして行く。 下でAとBが手を伸ばし箱を支え受け取ろうとしていた。 徐々に見えてくる箱を見てAとBは、それが葛籠だと確信していた。 少しずつ出て来た所で箱を斜め下に擦らそうとした時、蓋が少しだけ持ち上がった。 Cの目の前で、少しだけ持ち上がった蓋の隙間。 Cは、その瞬間、葛籠の中に目を向けた。 そして、ソレを少しだけ見てしまった。 葛籠を下に下ろしたAとBが、中を見ようと懐中電灯を向けると、葛籠の蓋の中央に訳の分からない記号みたいな御札が貼られているのを見て、少し躊躇した。 そして、Aが懐中電灯を床に落とした時、葛籠の蓋と箱の部分にも御札が貼られているのをBが見て、後ずさる。 B 「これ…不味いんじゃねぇの?」 A 「こんなん嘘に決まってるやろ?いたずらや誰かの!」 B 「誰かって誰や?」 A 「それは…知らんけど、前に見付けた奴が後の奴ビビらそうとして貼っただけやろ?」 B 「でも、これ…文字掠れてるし、紙の色も褪せてるから、大分、昔に…。」 A 「なら、お前、見なくていいよ。俺は、嘘や思うから見るゎ。」 そういって葛籠の蓋に手を掛けて、Bの方を見た。 B 「ん?どうした?」 A 「いや…なんか紙切れが…」 そう言って、葛籠を半回転させた。 そこには、千切れた御札が数枚あった。 B 「さっき下ろす時に破れたんじゃ…。」 そこまで言って、反射的にCが居た押し入れ前に懐中電灯を向けた。 Aも気付いたらしく懐中電灯を拾い押し入れに向けた。 ぼんやりとした丸い二つの輪に照らされて、ニタニタと笑うCの姿があった。 低い悲鳴がAとBから漏れた。 どう見ても正気の沙汰と思えないCがそこにいた。 そして、何を言ってるのか?分からない言葉?歌?を口ずさんでいた。 我に返ったBがCに駆け寄り、Cの名前を呼び体を揺するが、Cは、焦点の合わない目で空中を見つめながら何かを口ずさんでいた。 B 「おいっA!ヤバイぞこれっ!」 A 「Cちゃん?どうしたん?Cちゃん?!」 何を言おうが体を揺すったり叩いたりしてもCが正気を戻すこと無く、転がるようにCを抱えてBとAは、廃屋から飛び出て、走って山を降りた。 車まで走り、後部座席にCを押し込み、Bもその横に座り、Aは、車を走らせた。 Cは、相変わらずニタニタと不気味な笑みを浮かべ何かを口ずさんでいた。 A 「どうすりゃいいんだ?これから…。」 B 「病院行ってもダメだろうな…。」 A 「病院じゃダメなのか?」 B 「そりゃあそうだろう、誰が信じるんだよ?」 A 「じゃあどうすんだよ?!」 B 「今、何時?」 A 「もうすぐ午前2時。何だよ?」 B 「いや…思い当たる人が居るんだけど、寝起きが悪い人だから…多分、物凄く怒られると思うけど…連絡してみるか?」 A 「病院はダメなんだろ?」 B 「ああ…。」 A 「なぁ…Cちゃん、葛籠の中見たんかな?」 B 「多分…な…。」 A 「んじゃっこれって霊障とかいうやつなんか?」 B 「だと思う…こんなん初めてやから、心スポ行っても、肩重いとかそういうのはあったけど、ここまで可笑しくなったのは、初めてだから。」 A 「なぁ…多少は怒られても仕方無いって思うし、Bが思い当たる人居るなら、連絡してみた方が良くないか?このままの状態のCちゃん、家に帰す訳にもいかねぇだろ?」 B 「だよな。近くのコンビニ入ってよ。電話してみる。」 A 「わかった。」 Cは、相変わらずニタニタと不気味な笑みを浮かべたままだった。 Aがコンビニの裏の駐車場に車を止めた。 出来るだけ、Cちゃんの姿を見られたくは無いと言って、裏に止めた。 午前3時頃。 スマホが鳴った。緊急を要する事態だと認識する。画面に出た名前で、最悪に近い状態を察しながら電話に出る。 不機嫌な声。 会話している中で意識は別の方に飛ぶ。 白いモヤの中に浮かんでくる。 白装束と面布…。呪詛か…。 再び、耳元で怒号が響く。 意識が戻って来る。 紫翠 「お前、飛ばすな(意識を)。分かってるんだろ?女にしか飛ばねぇ呪詛だ。」 私 「分かってる。大体は把握してる。けど…呪詛の方法が分からない。」 紫翠 「それは、後で話す。今から出れるか?」 私 「そのつもりで掛けて来たんでしょ?」 紫翠 「相手が女だから、仕方ねぇだろうが!」 私 「分かったから怒鳴らないでよ。」 紫翠 「15分で着くぞ。」 私 「分かった。」 気が少し重かったが、紫翠が迎えに来るまでに支度を済まし、家を出る。 2~3分した時、紫翠の車が家の前に止まった。 助手席に座ると、少し飛ばすぞと紫翠が言い、車通りの無い道を走り、高速に乗る。 大型のトラックが通るだけの高速道路を紫翠が運転する車が、トラックを避け抜き走る。 それに、少しだけ体が強張る。 紫翠 「悪いが…少し我慢してくれ。」 そう言って前を走るトラックを抜き去る。 少し車が揺れた。膝が自然に震え出す。 大丈夫。大丈夫だと自分に言い聞かす。 40分ぐらいして高速を降り、県道に出た。随分、遠いな…と思っていた。 窓の外は闇。吸い込まれそうな程暗い道をどのくらい走っただろう? コンビニの明かりがホッとさせてくれた。 裏に車を回すと、一台の車が止まっていて、紫翠の車が止まると同時に、後部座席から男性が一人降りてきた。 紫翠は、更に不機嫌な口調で、降りてきた男性を一喝した。次に何をするか分かっていた私は、紫翠の手を掴み、首を横に振る。 無言で私の手を払うと、後部座席を指差した。 男性が降りて来た方から、車に乗る。 女性がニタニタと笑っていた。 何かを口ずさみながら…。 私は、運転席にいる男性に聞いた。 私 「この人は何を見たの?」 A 「葛籠の中を見たんだと思います。」 私 「葛籠?何処の?」 A 「ここの先の山ん中にある廃屋の…」 私 「廃屋?って…また肝試しとか心霊スポットとかって事?」 A 「まぁそんな感じです。Cちゃんは、治りますか?」 私 「……………。」 黙って車を降りると、紫翠に目配せをして、少し放れる。 紫翠 「お前、また、馬鹿な事考えてねぇよな?」 私 「さて、どうかな?」 紫翠 「どうだ?戻りそうか?」 私 「多分…無理。離しても戻るし、呪詛を特には、彼等が言った場所に行かなきゃいけないでしょうね。人数がいる。私と紫翠だけじゃ、無理だと思う。」 紫翠 「あ~面倒くせ~っ!」 私 「でも、二人だけでも出来る方法が1つある。」 紫翠 「却下だ!」 私 「まだ何も言ってない。」 紫翠 「お前が考えてる事ぐらい分かるゎボケッ!」 私 「冗談は捨て置き、彼女が見た物は恐らく、匣と同じ部類の物。ただ…人数が分からない。」 紫翠 「俺が視てくる。」 そう言って、Aの車の後部座席に乗り込む。 その瞬間、激しい頭痛に襲われその場に座り込んでしまう。 頭痛に頭を抱えていると、吐き気までしてきた。 その場に踞り、必死に耐えていると、紫翠が近付いて来て 紫翠 「お前、数知ってるだろ?何をした?」 ? 「何も、してない。人数は分からない。」 紫翠 「誰だ?てめぇ…」 ? 「何言って……?」 紫翠 「今すぐ出て行かねぇと散らすぞ?」 ? 「ヒッ…」 紫翠 「オイッ馬鹿っ!低級に入られてんな!」 私 「ごめ…」 紫翠 「大丈夫か?」 私 「大丈夫…頭痛も吐き気も治まって来たから…。」 紫翠 「頭痛?吐き気?」 私 「紫翠が車乗った瞬間…ね。」 紫翠 「ああ。俺が男だから拒絶したんだろ?」 私 「何人だった?」 紫翠 「4人だ。」 私 「あの人達のいう葛籠を見に行かないとダメだね。」 紫翠 「出直すか?」 私 「このまま、ここに呼んだ方がいいんじゃない?直に夜も明けるし。」 紫翠 「女は呼ばねぇ方がいいよな?」 私 「うん。私だけで…。」 紫翠 「じゃっ何人か呼ぶゎ。」 そう言って、何処かに電話をかけ出した紫翠を見ながら、B君にCさんのご両親に連絡して欲しいと頼み、Cさんを紫翠の車の後部座席に移した。 Cさんに話し掛けてみるが、返答は無く相変わらずニタニタと嫌な笑みを浮かべ、何かをいい続けていた。 ふと気付いた。 Cさんが何かを握っている事に。 握り締められた手を抉じ開けようとしても、接着されたように固く、中々開かせる事が出来ず、紫翠を呼んだ。 紫翠 「どうした?」 私 「彼女何か握ってるの。ソレ取りたいんだけど、力が凄くて…手を開かせられなくて。」 紫翠は、私が指差す先を見て 紫翠 「札だな?多分…」 そう言うやいなや、あっさりと彼女から御札の切れ端を奪い取ってしまった。 そしてその切れ端を広げて行き手が止まる。 私 「見せて。」 そう言って紫翠の手から御札の切れ端を取ろうとすると 紫翠 「触るな!」と怒鳴られた。 私 「何で?」 そう言った後、広げて私に見せた。 私 「これって………!?」 紫翠 「あれの続きだろ?4だし…」 私 「でも、まだ5と8が無い…葛籠って確か!」 私は、車から降りるとA君に確かめた。 私 「貴方の言う葛籠って…大小あったのよね?見付けたのは、どっち?」 A 「多分…小さい方だと思います。」 紫翠が黙って車から降りてきて、私の肩をポンッと叩いた。 多分…振り向いた私の顔は、血の気が失せていたと思う。 数時間経った頃、紫翠が呼んだ人間とCさんのご両親が到着した。 Cさんとご両親には、近くのお寺に行き、事情を話、Cさんを御堂に入れ、廻りに御札を貼り、閉じ込めて、ご両親には、お寺に留まる様に告げ、住職に私達から連絡があったら、経をあげて貰いたいと御願いをして、A君、B君、私、紫翠、応援で駆け付けた男性5人とで、その廃屋へ移動する事になった。 空が少しずつ明るくなって来た頃、私達は、その廃屋の前に佇んでいた。 大きなお屋敷と呼んでいいぐらいの立派な家。 呪詛を掛けなければならない程、誰かを恨んでいたのか? 紫翠がこっちを見て何かを呟いた。 私は、A君、B君と共に廃屋へ入り、迷う事無く2階に行き、B君に説明されながら、葛籠があった部屋まで行くと、先に部屋に入ったB君が叫び声をあげた。 慌てて部屋に入ると、A君も驚きの声を上げた。 確かにここに下ろしたという二人。 でも、そこには何もなく、天袋も覗いたが、葛籠は見当たらなかった。 私は、別の部屋に行き、葛籠という名の匣を探した。押し入れや天袋等を探したが見付からず、諦めかけた時、物置きの様なスペースにソレを見付けた。 禍々しく渦巻くソレは、彼等に言わせれば、大きな葛籠。そして、間違うはずも無い…8の匣。 紫翠を呼ぶ様に、A君とB君に告げ、少しだけ葛籠に近付くと、スッと何かが脇に立つ気配があった。見なくても、視なくても分かる。 顔に面布をつけた白装束の女性。 自分の意思とは別に更に葛籠に近付こうとする。必死に抗うが、何かに押される様に体が前へ進んでしまう。 そして…葛籠の蓋を開けようとした時、紫翠が葛籠の蓋に思い切り足を乗せた。 バンッと大きな音がして、面布の女性が消えた。 紫翠 「オイッ大丈夫か?」 私 「大丈夫。」 紫翠 「もう1つあるはずだ。探すぞ。」 私 「そうだね。思い付く所は探したんだけど…見付からなくて…これが大きい方の葛籠。」 紫翠 「ああ…間違いなく8だろうな。」 私 「何故、二つもあるんだろう?普通、一軒に一つでしょ?」 紫翠 「さぁな。誰かに持ち込まれたのかも知れねぇな…。」 私の中に流れ込んでくる。 私 「あっ…」 子供に恵まれない長男の嫁。子沢山な次男の嫁。 子供を切に願う母が行き着いた場所が呪詛。 姑にも辛く当たられ、次男の嫁からも嫌みを言われ、挙げ句には、夫が浮気をし出した。 紫翠 「…イッ!オイッ!しっかりしろっ!大丈夫か?」 私 「ん?大丈夫…」 紫翠 「お前…何、泣いてんだ?」 私 「へ?泣いてないよ?」 紫翠の指先が頬を拭う。濡れた感触で、自分が泣いていたと知る。 紫翠 「泣いてんじゃねぇか。」 私 「私じゃない。」 そして…何と無く葛籠が何処にあるかが分かった。紫翠の前を通り過ぎ、奥の部屋に行こうとする私の手を紫翠が掴む。 紫翠 「憑かれてねぇよな?」 私 「全然、平気。」 紫翠 「どの部屋だ?」 私 「奥の和室。多分…仏間。」 紫翠 「分かった。俺が先行くぞ。」 私 「ん…。でも、部屋へは、私が先に入った方がいいかも。」 紫翠 「分かった。」 二人で奥の部屋に向かい、先に私が入る。 私 「紫翠、仏壇の下。戸棚の中。」 そう言うと紫翠は、仏壇の下の戸棚を開けた。 紫翠 「あった。」 それから、二つの葛籠を別々の木箱に入れ、封印して、住職に連絡を入れ、Cさんに経をあげて貰った。 ただ…直ぐ祓えるものじゃないから、時間は掛かる。そして、残酷だが…Cさんは、一生子供が産めなくなった。 葛籠と呼ばれた物は、今は、何重にも封印が施され、ある場所にある。 あの出来事から数ヶ月経った頃、Cさん家族は、何処かに引っ越したらしい。 Cさんは、少しずつ回復に向かっているが、夜中になると、ニタニタと不気味な笑みを浮かべ、闇の中にいるらしい。

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