
長編
廃屋でみた幽霊より怖いもの
匿名 2015年6月14日
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もう10年以上前の話なんだけど、当時まだ二十前後だった私(W)と、高校以来の親友A男、一つ年下のAの後輩B男、Bの彼女で二つ年下のC子、Bの姉のD子の5人で、地元で有名な心霊スポット巡りをしていた。
土曜の夜に集まって、1・2箇所くらい噂で知った心霊スポットをみんなで回る、といった感じだ。
C子はこういった心霊スポットが大好きで、A男B男もかなりノリノリ。
D子は2回目くらいからの参加だったけど、最初すごく嫌がってついてこなかったということもあり、現地に行っても中までは入らない、といった感じで参加していた。
私は、D子が「車の中に一人でいるのは怖い」というので、下心満々で付き添って中に入らない事が多かった。(D子は結構可愛いかった)
何度目かの時に、となりの市で有名な廃屋にいこうということになり、いつものように5人で集まることになったんだけど、集まる前日にレンタルしていた映画をまとめて見ていて、全く寝ていなかった。
これは私だけかもしれないけど、寝不足や疲れが溜まると意識がふわふわしてきて、幻覚みたいなものが見えるようになってくるんだ。
もちろん、ちょっと寝不足とか、ちょっと疲れてる程度じゃならない。もういつ意識が飛んでもおかしくないくらい、極限の状態だと思って欲しい。
で、22時に集まって隣りの市まで寄り道をしたりして、3時間くらいかけてワイワイと話しながら現地にいったんだ。
私は金曜日の8時に起きてからその時まで、実に40時間以上寝てない上に、バイトや学校も重なり、かなり睡魔に襲われていたんだけど、車で移動中にやたら盛り上がってしまい、仮眠すら取れなかった。
A男「車ではこれ以上進めないから、こっからは歩きになるけどD子どうする?」
D子「え? あー、みんないくならいくよ」
車内で盛り上がった雰囲気が残っていたのか、珍しくD子がついてくることになった。
B男「外暗いけど、道迷わないかな?」
A男「大丈夫、バイト先の先輩が前にここに来てて、行き方教えてもらったから」
私 「だったら全然怖くないじゃん」
C子「その情報いらんわー」
こんな感じでフザけた会話をしながら、準備していたライトを持って山沿いの道路を進んでいった。
車を出てから50mくらい進んだら、道路の脇に山の中に入っていく小道があって、それを登ると古い平屋の家があった。
C子「この家なんじゃない?」
A男「いや、先輩曰く、この先にもう一件家があって、そっちらしい」
私たちは小道を更に奥へと進んでいった。
少し進んだところに、また平屋の家があった。
A男「あれだ。玄関は鍵がかかってて入れないらしくて、横の勝手口から入れるらしい」
暗くて雰囲気もあるからなのか、この頃にはみんな口数が減っていた。
家の玄関前までたどり着くと、C子が窓に貼ってある変な札を見つけた。
C子「うわー、お札貼ってある、こわー」
B男「あれ? 玄関空いてる・・」
A男「マジで? ほんまや・・」
眠気で意識がぼんやりとしていたけど、確かに玄関が半開きになっていた。
B男「足元見てみ、花火のゴミがいっぱい落ちてる」
C子「誰か前にきて、花火とかやった跡だよ」
A男「怖さが半減したなー。取り敢えず入ろっか」
そう言ってみんなで玄関から中に入ることにしたんだけど、D子が突然私の腕を掴んで、
「やばい、マジで怖い・・」
って横でつぶやいたんだ。
前をいく3人は聞いてなかったみたいなんだけど、腕を掴まれた私はしっかりと聞こえてた。
私 「大丈夫だって、ついていこう」
そう言ってD子と私も中に入ったんだ。
中は普通の家と間取りは変わらなかったし、雰囲気も今までいった廃墟ほど怖くはなかった。
異様なのは、窓に貼られたお札だけ。
B男「なんか怖くないねー」
C子「がっかりだわ」
そんな事を前をズカズカ進んでる3人が話しながら、三面鏡のある寝室に入ったんだ。
D子が時々怖がって止まってしまうので、私は遅れてその部屋に入ったんだけど、そこで私もD子も完全に硬直してしまった。
3人が部屋を物色してる中で、C子が三面鏡の引き出しを開けてみたりしてる、その後ろに、C子が空けた引き出しを一緒に覗き込む女性がいるんだよ。
A男もB男も見えてないみたいで、
「なんもないなー」
とか言いながら押入れとかトイレとか見て回ってるんだ。
私は、眠気でボーっとしてる頭がサーっと青ざめるというか、冷水をかけられたような感じで完全に硬直してしまった。
すると腕を掴んでたD子も、C子の横にいる女性が見えているようで、
「やばい、でた、やばいのでた・・」
って横でずっとつぶやいてて、俺が小声で、
「D子もあれが見えてる?」
ってC子の横の女性を見たまま聞いたら、
「見えてる、女の人・・怖い・・」
ってつぶやくように言ってきた。
で・・よく見ると、天井に子供が二人張り付いてて、C子をずっと上から見下ろしてニヤニヤと笑ってる。
私が小声で「上に子供・・やばい・・やばい・・」って言ったら、D子が「ひっ・・」ってしゃっくりみたいな声を出したんだ。
で、D子の事が心配になって、自分のライトをD子に向けて、私は更に絶句した。
D子が固まって半泣きになって、得体の知れない女性や子供を見て怖がってるんだけど、そのD子の上に腕が5・6本見えたんだよ。
私は真っ青になって、D子の上のそれを見てたんだけど、顔がね・・ミイラみたいに干からびたシワくちゃな感じで、頭は1つなのに顔が3つあって、目が節穴みたいになってるのに、目玉の白目の部分だけがなくなったみたいに、目の黒い部分があって、D子をずっと見てた。
5・6本に見えた腕も、よく見たら胸からへそにかけてパックリと開いてて、肋骨の代わりに腕が生えてるみたいな・・。
私はD子の上にいるそれの方がよっぽど怖かったんだけど、D子にはそれは見えてなかったみたい。
そいつの腕が女性の方にすーっと伸びていって、いきなりその女性と子供の首を腕で掴んで、目の前でバラバラに引きちぎったんだ。
その時の子供と女性の顔が忘れられない。苦悶の極みみたいな・・。
D子は、バラバラにされる女性や子供が見えてなかったみたいで、女性と子供がそいつに掴まれた時には、
「消えた・・怖い・・まだ絶対いる・・」
ってぶつぶついってんの。
私はもうそれどころじゃなくて、バラバラにされて、その3つの顔があるやつの胸の腕の中に“食べられる”というか“飲み込まれる”というか、そんなのをガクガクしながら見てた。
で、よく見たらそいつ、D子の体の中から出てきてて、私の腕を掴んでるD子の手が枝分かれしたみたいになって、二つの右手が私の腕を掴んでた。
D子のそいつと私の目があって、体がガクガク震えて、「どうしよう・・どうしよう・・」ってパニックになりかけてたら、そいつはゆっくりと下に溶けるように、つまりD子の頭の上に溶けて消えるような感じで、沈むように消えていった。
D子が泣いていることに気づいたB男が、慌ててこっちによってきた。
B男「どうした? 何があった」
D子「女の人と子供が・・・・」
A男「え・・ちょっと何いってんの」
C子「え・・え・・?」
D子「怖い・・出たい・・」
C子「やばそうだし出ようよ」
A男「おいW、お前もなんかみたんか?」
私 「いや・・何も・・」
正直、D子の中にあんなのが入ってるなんて言えないし、それ以前にその時はショックでまともに答えられなかった。
すぐに外に出て車まで逃げるように戻って、A男、B男、C子がD子の要領を得ない説明を聞いて青ざめている中で、私はD子が手をはなしてくれないことにビビりまくってた。
まだ右手が2本に見えてたんだよ。
急いで、大きな道路沿いにあるコンビニまで行って、少し落ち着いてきた頃にはD子は寝てた。私の腕を掴んだまま・・。
その後、心霊スポット巡りはしなくなり、みんなで集まって遊ぶ時にはしょっちゅうD子が私の腕を掴むので、A男B男C子から「二人とも仲がいいなあ」とカップル扱いされ、D子とはそのまま付き合うことになり、現在は嫁である。
嫁が腕を組むとき、どうしてもあれを思い出してしまい緊張するのだが、嫁は腕を組むたびに、緊張する私を「カワイイ」などといってからかってくる。
緊張する理由は怖くて嫁には言えない・・。
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