
「ねぇ、アリス症候群って知ってる?」
美術室での授業中、私は隣の席の健二に話しかけた。
『不思議の国のアリス』の物語に由来するこの病気は、自分の身体が不自然に大きくなったり、小さくなったりする感覚に襲われる症状なんだ。
その瞬間、私は周りのものが異常に大きく見えたり、反対に自分が小さくなっているように感じた。
絵具がまるで池のように見えたり、手に持った筆が、巨大な剣のように映ったり。
そんな経験を話していると、健二は興味深そうに聞いてくれた。しかし、私の心の中には暗い影があった。
私はこの病気に苦しむ日本人の一人で、日常生活が本当に辛いんだ。
「もう、こんな生活は嫌だ。」
そんなある日、私は美術室で健二に出会った。彼は背が高く、明るい笑顔で、クラスの人気者。
その彼に、私は憧れていた。
でも、彼が私の目の前で大きく感じるたびに、私は自分が小さくなっていくのを実感した。
「私も、彼のように大きくなりたい。」
そんな思いから、私は大胆な行動に出ることにした。
美術室で使っていたペイントセットを利用して、彼を捕まえる計画を立てた。
「健二、ちょっとこっちに来て!」
彼が振り向いた瞬間、私はそのペイントを使って、彼の目を覆った。彼は驚いて動けず、私は素早く彼を美術室の物置に押し込んだ。
「これで彼は私だけのもの。」
私はその後、彼をペイントセットのような狭い箱に閉じ込め、周囲の友達には話さなかった。
「健二、ちゃんと食べてるかな?」
時折、箱を開けて彼に食事を与えている。
「お願いだから、静かにしていて。出て行かないで。」
その時、彼の目が私を見つめていた。
しかし、彼は次第に言葉を発するようになり、私の心の中に恐れが広がった。
「お願い、出してくれ…」
その言葉が耳に突き刺さり、私は思わず手を止めた。
「出て行かないよ。私だけの健二だから。」
彼の叫び声が、まるで私の心を引き裂くように響いた。
結局、私の行動は取り返しのつかないものになった。
「そのまま、私の中にいて。」
彼の姿は、次第に薄れていき、私の心の中にだけ残ることになった。
私は彼を手放すことができなかった。
「健二、あなたは私の一部になるんだから。」
その瞬間、私は彼の存在が私の中で生き続けることを感じた。
最後に、私は彼を美術室の片隅に置いておくことにした。
「私だけの、特別なペイントセット。」
それは、私の心の中で永遠に続くアートになった。
〈了〉
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