
長編
夢の白い部屋
匿名 2021年5月26日
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これは俺が体験、と言うよりは夢で見た話です。
初めに俺自身の話をさせてください。
俺は感受性が人一倍高いのか分かりませんが、周りで起きた出来事や見た物が似通ったまま、夢の中に反映される事が度々あります。
これは子供の頃からずっとです。
例えば戦争映画を見たり、FPSゲームをやってから寝ると、夢の中の俺は兵士になって、戦場に立っていたりします。
直前までしていた物のジャンルが夢に現れて、あたかも自分が主人公になった気になります。
それはあくまで夢であり、夢の中の俺も「これは夢だ」と認識する事もあります。
でも時々、夢の中で受けた銃弾の衝撃や爆発が思ったよりも鮮明に俺の体を駆け巡る。そういう時は決まって目が覚め、怪我をしたはずの部分が痺れていたりします。
現実の内容が夢に出てくるのはそれ程頻繁という訳ではなく、いつもランダムです。夢を見てから数日後だったり、長い時には2,3ヶ月の時もあります。
そんな体験を子供の頃からしていたのですが、今でも忘れられない夢を見たのが高校2年の8月の時です。
その時の俺は、いつものように友人2人とバトルフィールド1という戦争ゲームを、夏休みということもあって深夜までやり続け、解散と同時に就寝しました。
テレビから映し出されてた演出に目が冴えてしまい、幾分か寝付けなかったが、ふと気がつくと周りは砂漠と岩場で無数の兵士と戦車の轟音が聞こえてくるのです。そこでようやく私は夢を見ているのだと思いました。
ただ、いつもと違うのは夢の中の自分を自分の意思で動かせたのです。普段だったら意識はあるけど、体は誰かが動かしている。
例えるなら、キャラクターの操作は全自動で風景だけ見るVRみたいなものです。
初めて夢の中で身体が動かせる事の喜びと共に、どこか違和感のある夢だと思いました。
どこを見ても視界の端に見える景色が歪んでいたのです。いつもならクリアに見えていた景色が、どの方向を向いても、まるで絵の具をグチャグチャに混ぜたかのように歪んでいました。
そんな不思議な体験を他所に俺は急に視界が暗転し、気がつけば全身が軽く痺れている状態のまま、目が覚めました。
その時の時刻は確か深夜3時を回っていたと思います。いつもの夢だと、そう思い俺は再び寝ました。二度寝の時は夢も見ませんでした。
(この後、夢と分かる事を「明晰夢」というのだと知りました)
それから2ヶ月が経って10月。
涼しくて過ごしやすかった日中に、俺は部活帰りで疲れもあってか、リビングのソファーでうたた寝をしたのです。
その時見た夢はこれまでには無く、真っ白な部屋に大きな横鏡が1枚付いただけの簡素な部屋でした。
この時の夢もまた明晰夢で、自分自身で動く事が出来たのです。
目がくらむほどに真っ白な部屋と反射する鏡を前に、俺はこのような部屋を映画で見た事があると思いましたが、部活帰りでそのまま寝たのだから、こんな光景見るはずが無い。
そう思っていると、突然部屋の照明が落ち、一気に部屋が暗くなりました。突然の出来事に気を取られた俺は何が起きたかわからず、ただ突っ立ていました。
ですが、10秒ほどだと思います。明らかに自分以外の何かが俺の事を見ているのだと認知しました。錯覚ではなく、はっきりとした視線を俺に向けているのです。
しかも俺が向いている大きな横鏡の先から。
そう感じると俺は何故だか言い難い恐怖が湧いてきたのです。
「あいつはヤバい、目を合わせたらヤバい」
鏡越しで見えるはずもない相手の顔から視線を外し、俯いていると見えないという存在に更に恐怖が増し、しまいには感じるはずも無い頭痛を感じました。あの感覚は今でも覚えています。
突き刺さる視線と頭痛で俯いたまま頭を抱えていた俺でしたが、急に聞こえた声に耳を澄ませると一気に意識は持っていかれ気がつけば目の前に弟がいました。
部活帰りで寝ていた俺を叩き起して飯に行くぞ、と親父に言われた弟が俺を揺すって起こしたらしいです。
いきなり現実に引き戻された俺の頭は追い付かず、言われるがまま車に乗り、ラーメン屋に向かう最中、俺はさっき見た夢を忘れないようにスマホのメモ帳に書きました。
それから2週間後くらいでしょうか。
その日は普通に就寝したのですが、またあの真っ白な部屋に大きな横鏡の前に立っていました。
明晰夢だと認識するのに数秒もかかりませんでした。
ただ、前回と違うのは俺の他に知らない人が二人いたのです。1人は大学生のゆうすけさんで、もう1人はサラリーマンの小野さん。(ゆうすけの漢字は分かりませんが、小野はおそらくあってると思います)
夢に出てくる人物は、自分に関わりのある人やテレビや雑誌で見て印象深い人などが現れるらしいですが、俺はこの2人を見た事がありませんでした。
戦争関連の夢を見た時にいる人は大抵が友達で、その他は顔が認識出来ないモヤのようなものがかかっていたのですが、俺の近くにいた2人にモヤはなく、全く無関係な人達でした。
会話の内容まで鮮明に覚えていませんが、とにかく俺達は自己紹介をして部屋を組まなく調べることにしました。
地面になにか無いか調べていた俺でしたが、小野さんが何かを見つけたようで指を指す先には縦に長方形の枠があり、考えるまでもなくそれが扉だと思いました。
ゆうすけさんが何度かタックルで扉を押し上げると、そこは部屋同様に白で染った廊下でした。
何も無くただ長々と続く廊下に出た俺達はそのまま廊下を歩きましたが、突然廊下の電気が落ちたと思ったら、次の瞬間場所が変わったのかと思うくらい汚い場所に立っていました。
よく分からないネバネバした液体が天井から垂れ、壊れかけの蛍光灯のせいで薄暗く、足元は汚れたコンクリートに変わっていた。
状況がわかっていなかった俺でしたが、またあの貫くような視線が背後から向けられているのを感じました。
「見たらダメだ」と頭ではわかっているはずなのに、首が勝手に背後に向いてしまう。そして、それを見た時に俺は後悔しました。
カマキリのような身体だが人間のような質感で、口は縦に裂け、鋭利な刃物を持った何かが俺の後ろのいたのです。一目で人間では無いと分かるその様子に俺は恐怖で固まっていましたが、ゆうすけさんの「逃げろ!」と、その一言で俺は咄嗟に駆け出しました。
全速で走り始めて数秒後、後ろから聞いたことも無い2つの声が聞こえ、俺は後ろを振り返る事は出来ませんでした。
ただ一直線にゆうすけさんと走り続け、「夢なら覚めて欲しい」その一心だったと思います。
気がつけば俺達は扉の前に立っていて、ゆうすけさんが扉を開けると同時に俺は現実に戻された事を認識しました。
目が覚めて、さっきのは夢だと思った瞬間、俺の呼吸と鼓動が激しくなり、汗が滲み出てくる感覚に襲われました。まるで全力疾走した後のように。
寝起きにもかかわらず俺はその辺にあった勉強用のノートの一番後ろにさっき見た夢を殴り書きしました。その後は二度寝もできず、朝を迎えました。
それから4日ほどしてまた、同じ夢を見ました。白い部屋、長い鏡、俺とゆうすけさん。
ただ、小野さんだけが居ませんでした。
もう三度目になるこの夢に心底嫌気がさし、俺は恐怖を超えて最早怒りさえ湧いていました。
「なんでこんな夢を見ているのか」と当たり前のように浮き出た疑問に夢の中の俺はどうする事も出来ず、また前と同じように部屋の出口を探しました。
同じ所に扉があり、俺達は揃って部屋を出ましたが前回と違うのは最初から廊下が荒れ果てていたのです。その瞬間俺は悟ったかのように走り出し、またあの扉へと向かいました。
何も告げずに走ってしまった俺を追いかけるように、後ろからゆうすけさんが来るのがわかったが、俺が扉を開けようとするもビクともしない。
ガチガチに固まって動かない扉に苦戦していると、あの化け物が近づいて来ているのが背中越しに分かります。
焦って開けようとする俺だが、扉は一向に開かない。
背後にはアイツが来ている。
恐怖と焦りで滑る取っ手に格闘している俺の隣にゆうすけさんが来て、「2人でやろう」と言ってくれました。
「頼む開いてくれ」と俺は一心に思い、2人で持てる力を全て出して扉を引いたと思います。
ようやく扉が開いたのと同時に、俺は解放感に安堵したが、その瞬間隣のゆうすけさんが後ろに消えていくの横目で追いました。
俺は咄嗟に手を掴もうと思ったが、開いた扉の隙間に吸い込まれるように体が引っ張られ、あの人の手を掴むことが出来なかった。
目が覚めると俺はいつもの様に軽い脳の痺れを感じつつ、また忘れないようにノートに殴り書きをしました。
3度目の夢から目覚めた日を境に、あの白い部屋の夢を見ることは無くなりました。
今でも観た物、やった物が夢に反映されることは度々あります。それでも前同様に体は自分の意思で動くことは無く、勝手に動く体から呆然とその光景を見るだけに戻りました。
あの時見た夢がなんだったのかは今でも分かりません。あの白い部屋も化け物も、そして登場してきた人物でさえ。
この話をフィクションや妄想、創作と捉えてもらっても構いません。明らかに良くあるホラー作品の話だと筆者も思います。
ただ一言だけ言えるのは、初めてあの部屋を見てから見なくなるまでに起きた夢の体験を残したノートとメモは確かにある。
本当は夢と思いたいだけなのかもしれない。
後日談:
- これが最初で最後の俺の投稿になると思います。 あの日見た夢から3年が経ち、俺は大学生になりました。あの時出てきたゆうすけさんと同じ歳です。 この話を古くからの友人に話しても「ただの夢」だと一蹴されてしまいますが、大学で出来た友達に話すとどこかのホラーサイトに載せた方がいいと言われ、偶然見つけたこのサイトに投稿しました。 あれが夢であれ、現実のどこかで影響を及ぼしていたにせよ、あの夢で掴めなかった手は、これまで見た夢の中で1番記憶に残っています。 どうかこの話がいつまでもネットで消えぬ事を願っています。それが俺に出来る最大の弔いと信じて。
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