
長編
ゴボウサマ(コトリバコ関連?)
あ 2020年6月24日
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『ゴボウサマ』の話。
つい最近地元に帰ったときに、昔からその町の片隅にあった古い家の大きな蔵が取り壊されていました。
その蔵に纏わる『ゴボウサマ』についての話です。
古い風習やしきたりの残ったところなので蔵のある家は珍しくはありませんでしたが、庭まで広く(家が2軒経つほどの大きな敷地)外からでも分かる大きな蔵のある家というのは流石に多くはありませんでした。
今30代を折り返したわたしが小学校の頃に遊んでいた範囲で大きな蔵は5つだったと記憶しています。校区内、といっても各学年20人程しかいない合併間近の学校の校区内ですから広い範囲ではありません。
その蔵のある家の人達は大きな家に住んでいるにもかかわらず不思議と裕福そうな暮らしをしておらず、他人との垣根の低い(悪い言い方をすれば図々しい)田舎で何処か距離を取るような、子供が挨拶をしてもぺこりと一礼だけするような、揃って陰鬱というか距離を置いたような方々でした。
田舎出身の人は分かるかと思いますが、子供が挨拶をすれば行ってらっしゃい!と言ってくれるような人が多い感じでしたので、暗いなぁと思っていたのを覚えています。
そんな感じのこちらに関わって来ないタイプの家の方に滅法怒られたことがありました。
鬼ごっこをしていたときに逃げ場がなくなり、その家の敷地に入り蔵に触った友達がいたんです。
遊んでいた友達一同とその祖父母(何故か親ではなく祖父母でした)が呼ばれ、烈火のごとく怒られ、吐くほどのキツいお祓いをされました。
お祓いはわたしを含め5人の友達と横一列に座らされ、何か盃?のようなものを飲まされ(酸味があってまずかった)、背中を叩かれながら何かしらを唱えられて(後に聞いたら「恐み恐みも白す」的な祓詞(はらえのことば)だったそう)、胃の中のものが競り上がってきて吐く、というお祓いというよりは儀式めいたもので今思い出すと不気味でした。
それよりも兎に角、蔵の家の方と祖父母たちの顔が怖かった。
「もう少しでシマイじゃから!ヨザランことせんと!」
「ゴボウサマにたたらるっど!忘れたっか!」
「こんげなこめんけ子どんになんかあったらボクじゃ!」
怒られたことより異様な雰囲気と背中の痛みにみんな号泣。覚えていること(聞き取れたこと)はこれだけです。
古い方言なので若い世代はあまり使わないものですが、「もう少しで終わるから、余計なことをしてくれるな。ゴボウサマに祟られるぞ、忘れたのか。こんな小さい子供たちに何かあったらえらいことだ」というような意味です。
帰ってからも
「ゴボウサマはヨソんゲドサレが持ってきたとよ、関わったらでーじゃ、ばーちゃんがワロんころにぁ、せっぺ死んだっと」
(ゴボウサマは何処かのならず者が持ってきた。関わったら大事になる。ばーちゃんが子供の頃には、沢山死んだんだよ)
と、気立ての優しい祖母が珍しく雑な言葉を使って関わらないようにと叱ってきたくらいなので、兎に角その家には近づいたら駄目なんだと幼心に刷り込まれました。
その件以来、大きな蔵のある家は全て門に頑丈な鍵がかけられ近付けない雰囲気になってしまいました。
大人になってからも蔵を見ると烈火のごとく怒られた記憶と『ゴボウサマ』という言葉を思い出すくらいには強烈な思い出です。
他所様に怒られるというのは記憶に残りやすい出来事かと思いますが、それを抜きにしても儀式めいたキツいお祓いだとかでトラウマになっているのかもしれません。
携帯の操作もままならない、ネットにも疎い中年がここにこうして書き込みさせて貰ったのは、『ゴボウサマ』の話をオカルト好きな友達にしてみたところ「洒落怖」に類似の話があると聞いたからです。
有名な「コトリバコ」と関わりのある話なのではないかと。
・複数の蔵
・「もう少しで終わるから」との言葉(持ち回りの周期?)
・お祓いで吐いた
・大勢が死んだという話(女子供とは言っていなかったが)
・その蔵の家の方が近くの神社の神事を数年置きに持ち回っていたこと(コトリバコの持ち回り周期と合わせて神事を請け負っていた?)
など、類似していたり近しいと思う事柄があるように思います。
随分と時間も経ったし蔵もなくなったので聞いてみたいのですが、祖母や当時の友達の祖父母で生きている人は現在いません。コトリバコがどの時代のものかは分かりませんが、皆大正〜昭和時代の方です。
方言からわかる方もいらっしゃるかもしれませんが、場所は九州の南の方です。
もしかしたら『ゴボウサマ』はコトリバコのうちの『ゴホウ』が訛って『ゴボウ』と呼ばれ始めたのではないか。
もしそうだったとしたら、一体どういうルートで何があって持ち込まれたものなのか。
あの平和で長閑な田舎の町に昔何があったのか。
今でも『ゴボウサマ』が何だったのか、定期的に思考を巡らせます。ですがきっと知らない方がいいのでしょう。知らなくていいことだったのでしょう。
そういうことと納得して、あの烈火のごとく怒られた記憶を思い出しては深入りをしないようにと心がけています。
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