
長編
呪われた宿題
匿名 2017年7月4日
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夏休みももう半分が過ぎた。
「そろそろ自由課題、やらなくちゃ」
ナオトがだるそうな声でそう言った。
ようするに夏休みの宿題だ。
「共同研究でもいいんだよな。
だったら、英司も一緒にやらないか?」
「英司」っていうのは僕の事。
そう言えば、僕もまだ自由課題はやっていない。
直人が両手のこぶしをゴツンと合わせた。
「よしっ、じゃあ決まりだ。
どうせやるんなら、誰もやらないような
サプライズをやってやろうぜ」
いつものように、一方的な決め方だ。
僕は一瞬、嫌な予感した。
直人って時々とんでもない事を言いだしたり、やらかす事があるからだ。
その次の日、さっそく直人から電話がかかってきた。
「英司、ちょっと話があるから、四号公園まで来いよ」
体が大きく、気性の荒い直人にはどうも
さからいにくい。
僕は何となく嫌な気がしたものの、行かないわけにはいかなかった。
四号公園に着くと、直人はもう来ていた。
そしてその隣には健一もいる。
「健一のヤツも来たいって言ったから連れて来たんだ」
どうも信じられない。
クラスの中でも一番おとなしく、きの小さい健一から、そんな事言い出すはずはない。
きっと、直人にに強く言われたに違いない。
「俺の計画がまとまったんだ。
共同研究のタイトルは廃病院、探検記録だ。
町の外れにあるだろう?昔、病院だったボロボロのビルが」
嫌な予感が的中しそうだ。
「みんなあそこの事、気味悪がって誰も近づこうとしないだろう?あの病院の夜、探検するんだ。
それを写真入りの記録にまとめたら、俺たちみんなヒーローだぜ」
そう言って直人はグイっと胸を張った。
「い、いやだよ、そんなの。
だってあそこの病院、変な噂があるんだぞ」
僕は首を横に振って断ったが、健一はじっと下を向いたままだ。
「だからサプライズなんじゃんか。
俺の計画じゃ、いやだって言うのかよ」
直人は僕の胸をドンとついた。
「わ、わかった、わかったよ。
行くよ」
「よし、それでこそ友達だ。
いいか、実行するのは今週の土曜日。
おれんちに集まって共同研究をするって事にしておけばいい。
おれは英司の家に行ってる事にするから」
何から何まで強引だ。
有無を言わせないっていうのは、こういう事を言うんだろう。
家の人に嘘をつくのは気が引いたけど、直人に「いやだ」というのはもう無理だと
思った。
そしてその土曜日がやって来た。
「さて着いたぞ」
僕たち三人は、薄暗くなった空の下で自転車から降りた。
「ここか。さすがに近くで見ると迫力があるな」
こういうのを「迫力」っていうのか?
ベリベリにはげ落ちたかべ。
さびて赤茶色になった手すり。
扉のない入口......。
何もかもが不気味だった。
「本当にここ入るの?」
健一がやっと聞こえるか細い声で言った。
「当たり前じゃんか。
健一、お前が先頭で行くんだ」
健一の顔がピクッとひきつった。
「ほら行け!その気の小さい性格を、俺が直してやる」
健一は泣き出しそうな顔で、懐中電灯の明かりをつけた。
健一がかわいそうだとは思ったけれど、
「僕が変わってやる」という勇気はなかった。
外れたドアから中に入ると、ほこりっぽい
においざ鼻をツンとついた。
床にはいろいろなものが散乱していて、つい、つまずきそうになる。
懐中電灯の赤っぽい光が、部屋の中をゆっくりとなめるように照らしだす。
破れたカーテン。
傾いた薬品ケース。
ほこりまみれのテーブル......。
一瞬、部屋全体が白く浮かび上がった。
直人がカメラのシャッターを切ったのだ。
「なんだよ、たいしたものはねぇな。
二階へ行ってみようぜ」
今度僕の背中が、ドンと押された。
ゆっくりと足元を確かめながら階段を上がる。
一階ほどはひどくくち果てていない感じだった。
けれどそれでも床のタイルはめくれ上がり、病室のドアはほとんどなくなっている。
「何か変わったものを見つけたら、すぐに知らせろ。
写真とるからな」
直人はただ後ろからついて来て、写真を撮るだけだ。
僕、直人、健一の順でゆっくりと廊下を歩く。
「別にどうって事ねえな。
もっとサプライズを......」
と、そこまで言った直人の口が、ピタッと止まった。
「あっ、あ、あ......」
何を言ってるんだかわからない。
僕が直人の指さす方をライトで照らす。
と、そこにはベッドに横たわった一人の
老人がいた。
痩せこけて骨と皮だけの体には虫がはいってる。
その老人が、ゆっくりと体をおこし、手を伸ばした。
「胸が......、胸が苦しいんです。
薬をください。
薬を......」
その後、どこをどう走って逃げたのか、よく覚えていない。
ただ外に出た時三人とも足や手のあちこちを、ひどくすりむいていた事はたしかだ。
翌日、直人の家に電話をかけた時、誰も出なかった。
そして夏休みが終わり、二学期の始業式の場にも、直人の姿はなかった。
教室に戻って朝の会が始まる。
そこで先生が残念そうな顔でこう言った。
「直人君は病気で入院しています。
詳しいことはわからないが、何でも胸の病気だそうです」
僕と健一は思わず顔を見合わせて、つばを飲み込んだ。
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