
長編
いじめを真に行っているのは誰だ
しもやん 2019年7月8日
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なんであれ国家が行う事業について、みなさんはどう思われるだろうか。
〈小さな政府〉が標榜される昨今でも、国家独占事業はまだまだ多い。裁判所、治安維持(警察)、国防などがそれにあたる。われわれは普段、こうした事業を国が所管していることになんの疑問も抱いていないが、わたしはおかしいと思っている。
一例を挙げよう。最近のニュースで岐阜県の中学生がいじめを苦にして自殺したという報道があった。それによればべつの生徒がいじめの現状を担任に訴えるため、リストを作って提出した。ところがそのリストは担任の主張によれば、「紛失」したとのことである。
これはいったいどういうことなのだろうか。担任は純然たる不注意でリストを紛失したのだろうか。深刻な顔をした生徒が持ってきた紙切れに目を通さないまま、どこかに置き忘れてしまったのか。たとえそうだとしても、常識的に考えてざっと一瞥くらいはしたはずである。したがって「紛失」したかどうかに関わりなく、担任はいじめの事実を把握していたはずである。
ではなぜいじめられていた生徒は救済されることなく自殺したのか。答えは①義務教育制度と、②公立学校制度の弊害にある。順番に説明していこう。
①の有効性を疑ってみた人は少ないだろう。それは無料で提供される教育サービスであるかのように見える。国民はこの制度から大きな利益を受けているように見える。けれどもそうではない。「義務」教育とうたっている以上、それは強制なのである。いくら家庭教師のほうがいいからとか、文科省のガイドラインが気に食わない――げんにわたしは気に入っていないが――から独学で勉強するといっても、それは原則認められない。子どもはなんらかの学校へ「出頭」しなければならない。これは自由への侵害である※。
※なぜこれが自由への侵害になるかといえば、われわれは義務教育が法律で制定された時期に生まれてもいなかったからである。システムを作り上げた当時の政府にいま生きている日本人の誰一人として、投票した覚えはないはずだ。憲法にも義務教育に関する条文があるけれども、それにいたってはGHQから押しつけられたものなので、論外だろう。
次に②だ。こちらはもっと病理が深い。子どもは私立への入学受験をしない限り、最寄りの公立学校へ押し込められる。東京など一部の地区を除き、これは子どもの住所で勝手に決められる。さらに公立は私立と異なり、教師たちは教育の質を向上させようとするインセンティヴを持たない。
なかには熱意に燃える教師がいるかもしれないが、なおざりな授業をして生徒が九九もわからない落ちこぼれになろうがどうしようが、本質的に彼らにはなんの関係もない。極端なことを言えばすべての生徒が九九を暗唱できるようになるのと、誰一人として5×4を解けない状態で3年生に進級させることになんのちがいもないのである。
その理由は、「公立」だからだ。国家所管事業に倒産はありえない。社員(公務員)である教師がいくら手を抜いたところで首にならないし、低レベルな教師が勢揃いした学校があったとしても、生徒側に選択の余地はない。住所で勝手に通学する学校を決められるのだから。
これがどれほど異常かを示すのに難しい思考実験はいらない。こう考えるだけで十分だ。ある街に商品は軒並み高額で、品揃えは悪く、トイレはいつも最高に汚く、店員の愛想はかけらもないような食料品店があったとする。にもかかわらずあなたはそこで買うことを強制されている。これが義務教育による公立学校への編入なのだ。
これにて上記のいじめ問題を説明する準備が整った。教師は生徒からいじめのリストを預かったが、彼にとってはそんなもの、ただただ仕事が増えるだけの煩わしいしろものなのである。当該生徒がどうなろうが彼になんの関係があるだろうか。ニュースでは中学三年生だったとのことなので、あと半年もすれば卒業していく。不登校にでもなれば自然に鎮静化すると考えたのだろう。
これは教師が特別無慈悲だったことを必ずしも意味しない(ある程度そうだった可能性はあるが)。そうではなく、「公立」というシステムそのものの欠陥なのだ。なんらの営業努力をせずとも毎年顧客が確保でき、過疎化などでそうできない場合は次の職場が保証されている。こんな環境でやる気を出すほうがむしろおかしい。
その証拠に、私立や学習塾でいじめ問題が顕在化したというニュースを聞いたことがあるだろうか。わたしは寡聞にして知らない。これらの組織ではこの手の問題がダイレクトに商売へ影響する。教師たちはつねに気を配っているだろうし、そもそも望んで入学してきている生徒たちにとって、いじめなどというつまらない遊びには興味が湧かないだろう。
いじめを実際にやっていた生徒はもちろん悪い。彼もしくは彼女は万死に値する。
しかしよく考えてみてほしい。そのような環境を作ったのは誰だろうか。
子どもたちを殺しているのは、国家なのである。
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