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魚市場の警報
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魚市場の警報

19時間前
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春先の曇った日に、姉と山あいの魚市場へ行った。

取り壊しが決まった市場の音を、録音の仕事をしている私に残してほしいという。姉は子供の頃、この町で暮らしていた。

昼を過ぎても市場は静かだった。シャッターの降りた店を抜け、裏手の冷蔵倉庫へ向かう。姉がふと足を止めた。

「ここ、まだあったんだ」

壁には、錆びた四角い台座だけが残っていた。

「昔は警報笛がついてたの。冷蔵庫が壊れると、町じゅうに聞こえるくらい鳴ったんだって」

その笛は、姉が小学生の頃にはもう外されていたらしい。

「でも一度だけ、鳴ったことがある」

霧の濃い夜、倉庫の機械が止まった。誰も異常に気づかなかったのに、町には警報が響いた。近所の人が様子を見に来て、倉庫の中に閉じ込められていた作業員を見つけたという。

「笛はないのにね」

姉は笑って、錆びた台座を指でなぞった。

そのとき、録音機の波形が跳ねた。

耳には何も聞こえない。けれど、ヘッドホンの中で、甲高い笛の音が三度鳴った。

倉庫の窓を見上げると、二階の暗がりに作業服の男が立っていた。こちらではなく、姉の背後をじっと見ている。

私は姉の腕をつかみ、市場の外へ引っぱった。背後で、金属の扉が重く閉まる音がした。

帰りの車で姉は「何か聞こえた?」と尋ねた。

「録音に変なノイズが入っただけ」

そう答え、データを確認した。

笛の音は三度。その直後、録音機には私の声が入っていた。

『そっちは危ない。姉さん、こっちへ』

私はその言葉を、口にしていない。

さらに、その後ろにもう一つ、低い声が残っていた。

『今度は、ひとりで来い』

姉には聞かせなかった。けれど、あの男が誰を見ていたのかは、もう分かっている。

録音を消してから、窓の外を見た。

曇り空の下、助手席の姉は眠っていた。後部座席には、作業服の男が座っていた。

今度は、私を見ていた。

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はじめまして、よろしくお願いします。

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