
中編
うずくまる女
た 2019年7月22日
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これは俺が本当に体験した話。
今から20年ほど前。俺が学生だった頃。
地元の隣町に、自殺者の霊が出るというので有名なトンネルがあった。
トンネルと言っても歩行者と自転車専用の道路で、山の中に続く公園にぽっかりと穴が開いただけの簡素なもの。
確かそのトンネルを突っ切っていけば最寄駅まで近道になるので、昼間はそれなりに人通りがあったと思う。
でも基本山の中にあるので、日が暮れるとかなり薄暗く、不気味。
電車の終わった夜間は通行禁止になりシャッターが下ろされる。そんなトンネルだった。
暇を持て余していた俺と友人は、ある日の夕暮、そのトンネルに行ってみた。
まあ確かに薄暗く、古ぼけたトンネルで、不気味は不気味だが怖いってほどでもない。
試しに使い捨てカメラでバシバシ写真を撮り、その日は帰った。
後日。
現像された写真を一枚ずつ友人と確かめていると、1枚不可解な写真があることに気が付いた。
トンネルの入り口に立つ俺を撮った写真。
俺がきれいさっぱりと消えているのだ。
まるで最初からいなかったように、誰も映っていない。
「これ、間違いなくお前ここに立ってたよな?」
「立ってた立ってた。だってこの写真撮ったの先週だぞ?忘れるわけないだろ。俺、ここに絶対立ってたよ」
これは何かあるかもしれないぞと、友人と俺は今度は夜にそのトンネルに行ってみることにした。
俺は少なからず霊感があるほうだと思う。
当時から何か不思議な体験をしたり、変なものを見たりしていたので。
で、危ないところってのは近づくと何となくわかるんだ。
このトンネルもそうだった。
明るいうちはなんともなかったが、夜訪れてみると、空気が物凄く重く、息苦しい。
俺はトンネルまでの道を歩きながら、どんどん息切れが激しくなっていた。
「おい、大丈夫?」
後ろを歩く友人の声にも「うん・・たぶん・・」とハアハアしながら答えるだけ。
ここで引き返せばよかったのに、俺たちはトンネルの入り口まで来てしまった。
申し訳程度に設置された街路灯のうすぐらい明かりに、シャッターが下りた古ぼけたトンネルの入り口がぼんやりと浮き上がっていた。
「着いたぞ・・」
友人が呟いた。懐中電灯の明かりがトンネルの入り口を舐める。
「どう? 何か見える?」
友人が訊いてきた。
見える範囲、特に異常はなかった。
「いや、何も見えない。でも苦しいな、やばいかも」
空気は本当に重い。酸素濃度が急に下がったように、息苦しい。
「やめろよ。こええだろうが」
「いや、うん、でもここはマジでやばいかも」
「だからそういうこと言うなって。ビビるから」
友人は徐々に本気で怖がりつつあるようだった。
あまり彼を怖がらせても可哀そうなので、俺は努めて明るい声を出して彼を振り返った。
「ま。何もなかったんだし、大丈夫だろ。もう帰ろ・・・」
友人のすぐ後ろに、白い服を着た髪の長い女がうずくまっていた。
子供のするように膝を抱えて、顔を伏せて座っていた。
薄闇の中、その女の姿はハッキリと見えた。
「なに?どうした?」
俺の顔を不安そうに見つめる友人と目が合った。その後ろで女がゆっくりと体を起こそうと動いた。
俺は無言で歩き出した。
「え!ちょっと待って!」
友人が慌ててついてきた。
「なになに?どうした?なんか見えたの!?」
俺は無言のまま、競歩で山を下りた。友人はかなりビビっていたが、今見たものをここで話すべきではないと思ったし、何より後ろを振り返る勇気がなかった。
山を下り、車に乗り、その場を離れ、ようやく俺は今見たものを友人に話して聞かせた。
「あのままあの女と目を合わせてたらやばかったかも」
「・・・・・・もうやめよう、あんなとこ行くの」
「・・・だな。写真も処分しよう」
あれは一体、何ものだったのだろうか・・。
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