
長編
不良の悪戯
Roa 2016年5月6日
chat_bubble 5
33,636 views
今から約12年ほど前、大学に通っていた頃の話
私は埼玉県K市の中古ゲーム販売店でアルバイトをしていました。その当時はまだまだ携帯電話でアプリやゲームをするよりテレビゲームの方が圧倒的に優勢で、話題のタイトルが発売ともなれば店舗が大盛況になるような時代でした。私も例にもれずゲームが好きで、販売業として働いてはいましたが半分趣味のようなものでもあったため日々楽しく過ごしておりました。
そんなバイト先で私が何よりも楽しみにしていたのが閉店後の時間。店長が寛大であったこともあり閉店後午後10時以降に清掃や品出し業務をやってくれれば終わった後に事務所で買い取った中古のゲームで遊んで良いというのが昔からのルールがありました。店長は大抵早番で、閉店作業はアルバイトに任せていたため主に遅番の組であった仲の良い先輩のTさんとSさん、そして私の三人で遅くまで遊ぶのが日課になっておりました。
ただ、そのような楽しい時間にあって不満なことがありました。それは店のあった地元の不良少年がたびたび悪戯をしてくること。悪戯といっても事務所の出入り口となっている裏口のドアを閉店後にドンドンと叩いたり蹴飛ばしたりしてくる程度で、その度に年長者だったTさんがドアを開けて「やめろ!こら!!」と怒るが、当の不良たちは自転車やバイクで逃げだして後姿しか見えないという繰り返し。
遊ぶ程度でおかしいものですが、それなりに集中しているときにそんなことをされると心臓に悪い。それ以外に実害がないということと元々あまり都会的な場所でもないため不良のような人が多く、警察に相談しても「パトロールを強化しますので…」くらいなものでぬかに釘状態。悪戯さえなければといつも感じておりました。
そんなある日、某有名なRPGが最新機種に移植が決定し、その発売日前日の夜でした。
その日は、滅多に休まないTさんが家庭の事情でと休みをとり、遅番が私とSさんの二人だけという珍しい組み合わせとなりました(記憶している限りSさんと二人で残ったのはこの日だけでした)。
普段は閉店後に一通りの作業をし、ゲームを選ぶのは大体Tさんの役目。私とSさんはTさんが選んできたゲームを遊ぶという流れでしたので、普段はやらないゲームで遊んでみようかと二人で色々と試しているうちにあっという間にいつもならそろそろ帰ろうかという午前1時をまわっていました。折角の機会と後ろ髪をひかれる気持ちはありましたが、明日も大学があるしとSさんに帰りましょうと提案しようとしたとき、正面入り口の扉の方から「ガタガタ、ガタガタ」と何かを揺らすような音が聞こえてきました。
風の音としても少し違和感を感じる音、なんだろう?と私とSさんで事務所から正面入り口の方を覗き見ると、入り口のガラス戸だけが少し揺れていた形跡が感じられました。
「帰りましょう」とSさんから声が掛かり、帰り支度をし始めたとき今度は事務所の扉が「ガンガン!ガンガン!」と叩かれる。先刻の入り口のドアもこいつらの仕業かといつも逃げていく不良の後姿を想像しつつ苛立ちました。しかし、いつもと違い「ガンガン!ガンガン!」という扉を叩く音がいつまでも続く、Sさんも私も小心者だったためTさんのように扉をバッと開いて怒鳴るような勇気がない。一度勇気を出してSさんが「ガツンと言ってやる」とドアノブに手をかけましたが、頼りになるTさんがいない状態で何かあったらと私が止めました。しつこく叩かれる扉を前に帰り支度を終えた私とSさんは立ちすくみ、ほんの30~40秒のことであったと思いますが扉を叩く音が止みました。その待っている時間が異常に長く感じたことをよく覚えています。
厚い扉ですので、二人で扉に耳を当てながら人の気配が遠ざかるのを確認しゆっくりと開けると自動販売機が光っているだけで人の姿はなく、私とSさんはいそいそと逃げるように帰宅しました。
翌日、大学を終えバイト先に向かうと、店の駐車場に数台のパトカーとよく見ると店内で店長と話している警察官の姿がありました。何かあったのかと近づくと粉々になった入り口のガラス戸と荒らされた店内。泥棒に入られたことが一目でわかるような様相でした。
呆然と見ていると、同じ時間にシフトに入るSさんがやってきて私とともに警察官に呼ばれました。呼ばれるがまま店に入っていくと、ビデオデッキとケーブルに繋げられたモニターがあり「何だろうか?」と思っていると、実は店長が身内での盗難などを危惧して設置した防犯カメラのビデオで、通常の防犯カメラとは別に店内と店外に計六台、閉店後に自動で録画が始まるようになっていたとのこと。私を含めほとんどのメンバーがその時まで、そんなものがついてるとは知りませんでした。
外に向けられていた監視カメラのビデオが起動し早送りされて再生された時間は昨晩の午前一時、その時間は私とSさんは事務所にいます。入り口には陰になってよく見えませんが覆面を付けた大人が四人ほど、入り口のドアにへばりつくように店内を覗いています。そして、何かに気付いたように合図をすると一斉に店の裏口に回り込みました。私とSさんがまさかと思って見ていると、次に裏口に設置されたカメラの映像には扉を叩く影が映りました。私は嫌な汗が額や背中から滴り落ち、隣にいたSさんも顔面が蒼白になっています。
そして、扉を叩いていた男達が扉から遠ざかった少し後に店の扉から出てくる私とSさん。私たちが走り去った後、扉の陰から続々と出てくる男達。
私たちが店を出るとき、近くにいた…!?
あまりの光景に私たちは言葉を発することが出来ませんでした。
その後警察官に、この男たちに見覚えがないかどうかや一応一通り指紋を採取されその日は仕事にならないということで帰ることになりました。帰りがけに入り口近くに並べられている杭打ちに使うような両手持ちのハンマーやバールをみてまさかと思い、現場検証をしている警察官に聞くと。
「昨日の犯人が入り口のガラスを割るのに使ったと思われるものだよ。このガラス防犯ガラスだからね」と
あの時、Tさんがいつもしているように扉を開けて怒鳴っていたらと思うと今でも寒気がします。
この怖い話はどうでしたか?
chat_bubble コメント(5件)
コメントはまだありません。