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「宿のありもしない用件」
長編

「宿のありもしない用件」

匿名 2016年7月29日
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これ、 私の、 三重県にいる知人なんですが、 この人が面白い話を、 聞かせてくれたんです。 その話って言うのは、 この人の会社の同僚のふたりが、 岐阜の方へ仕事に行った。 そこで、 仕事がはかどっちゃって、 わりと早く終わっちゃった。 さて、 帰ろうってなったんですが、 翌日は会社が休み。 で、 ふたりとも独身なもんで、 「おい、 折角ここまで来たんだから、 どこか泊まっていこうか」 「それもいいな」 って話になった。 で、 旅館に行ったわけだ。 その旅館が、 シーズンオフって言うん ですかね、 他に客がいない。 これはしめたもんだ、 ってなってね、 ふたりでのんびり風呂につかって、 上がって来る頃には、 今度は、 座敷でもって夕食ですよ。 夕食を食べながら、 「それにしても、 ずいぶん静かだなぁ…」 ってなった。 人間て、 勝手なんですよね。 混んでりゃ、 混んでるでもって、 『やだな、 やかましいなぁ、 落ち着かないなぁ』 ってなるんですが、 いなきゃいないで、 なんだか寂しくなる。 ふたりも、 ちびちび飲みながら、 「やだなぁ、 静かすぎて…。 今夜あたりでるんじゃないかなぁ…」 なんて、 冗談で言ってた。 そこへ仲居さんが来たんで、 からかい半分にね、 「お姉さん、 お姉さん。 このあたりでさ、 なにか心霊関係のさ、 そういう場所があったりとか、 なにか不思議な事があったりとかさ、 恐い話なんてないの?」 って聞いたんですよ。 と、 この仲居さんが真剣な顔で、 「さあ、 私にはわからないんですけどねぇ、 番頭さんでしたらね、 そういう事、 詳しいんでお呼びしましょうか?」 って言うんで、 「あ、 いいの、 いいの」 って言ったんです。 で、 夕食もすんで、 ふたりはくつろいでた。 と、 「ごめんください」 って声がしたんで、 「はい」 って言うと、 ツーッと襖が開いて 「本日はお泊まり、 ありがとうございます」 って番頭さんがやって来た。 「なにか、 心霊がらみのお話と言う事でしたが…」 って言うんで、 ふたりは、 「あ、あれは、あのー冗談ですから」 って言ったら、 番頭さん、 真剣な顔して、 「ああ、 そうですか…。 いや、 実はですね、 もし、 よろしかったら見ていただきたい所がございましてね…。 私、 気になってるんですが…」 って言った。 ふたりは暇なもんですから、 聞いてみたら、 「こちらなんですけど…」 と、 案内されちゃった。 しょうがない ので、 ふたり、 ついて行った。 番頭さんはドンドンドンドン、 歩いてく。 後ろから、 ふたりがついて行く。 廊下をずーっっと、 歩いていった。 これ、 一本の廊下なんですが、 途中からなんとなく、 こうまわりが古くさい感じになってきた どうも旧館らしいんですよね。 ドンドンドンドン、 番頭さん歩いて行って、 ふっと部屋の前で立ち止まった 「あの、 こちらなんですが…」 って言って、 戸をツーッッと開けて、 カチッと明かりをつけると、 狭ーい板の間になってる。 それで、 また番頭さん、 トットットットッと入って行って、 襖をツッと開けて、 カチッと明かりをつける。 「あの、 実はですね、 この部屋からですね、 時折なんですが、 夜中に、 ありもしない用件の電話がフロントにかかってくるんですよ」 「それは、 誰かのイタズラ電話じゃないんですか?」 「いや、 うちにはイタズラなんかする人間はおりませんし、 いったい誰がかけてくるのか、 気になってしょうがないんですよ」 なんて話してるうちに、 ふたりのうちのひとり、 仮にAさんとしておきましょうか、 この人が飲んだ勢いでもって 「そうですか、 なんなら、 私が泊まって見てあげましょうか?」 って言ったの。 すると、 番頭さんも、 「そうですか、 そうしていただくと助かります。 ありがとうございます」 って言った。 ところがね、 もうひとりの方は、 これ、 嫌なんだ。 「悪いけど、俺はそんなの、気持ち悪くて、恐くて嫌だから。 俺、 嫌だよ」 って帰っちゃった。 で、 成り行きでもって、 しょうがない、 このAさんがその部屋で泊まる事になった。 そういう所に、 いざ、 ひとりになってみたらね、 これが、 どうにもたまらない。 部屋にはテレビもなければ、 話し相手もいないわけだ。 薄暗ーい部屋の中に、 ひとりでいるわけですよ。 しかたなく、ウイスキーをちびちび飲みながら、 (ああ、 こんな事、 安請け合いするんじゃなかったなあ…。 折角、 泊まってなんだよ、 たまらねぇなあ…) って思った。 時間がドンドンドンドン、 経っていくんですよね。 ですが、 なにも起こらないんですよ。 一人で寝る事になったその部屋は…… (なんだ、 おい、 なんも起こらないなぁ……) って思った。 そのうち、 雨が降ってきたんだ (ん? なんだ、 おい、 雨か。 はー、 陰気だなあ…) と思って、 ひょいと時計を見たら、 もう夜中の十二時をまわってる。 (うわ、 こんな時間になってんのか。 なんにも起こりゃしないんだけど…バカバカしかったなあ) と思って、 寝ようと、 敷いてある蒲団の中に足を突っ込んでね、 さあ、 横になろうと思った瞬間、 (うわっ!) と、 寒気がした。 いる。 誰かいる。 気配がした。 (おい、 いるな、 これ) 一瞬なんですがね、 誰かが、 スッと通った。 そいつの、 かすかな息づかいが聞こえた。 どうも、 その気配がする。 おそるおそる、 周りを見たんですが、 誰もいない。 いや、 誰もいないんですが気配がしてる。 どこかから誰かが、 自分を見張ってるらしいんです。 (やだなー…、 よせよ…) と思った。 で、 もう一度、 部屋中をよーく眺めてみた。 と、部屋の隅にね、 古ーい鏡台がポンと置いてある。 その鏡の中から、 男がこっちをジーッッと見てるんだ。 (うわあぁあ!) って思って、 しばらくジーッッと見合ってるうちに、 (違うや、 あれ、 自分が写ってるんだ) 自分と目が合ったんですね。 (なんだー…) と思ったけど、 なんだかそれが、妙に気持ち悪かったんで、 見るのはやめようと思って、 そのまま蒲団の中に入っちゃった。 と、 そのまま、 いい気持ちで寝ちゃったんですよね。 ふっと、 目が覚めたら、 もう朝なんですよ。 あたりも、 すっかり明るくなってる。 (もう、 部屋に帰ろう…) と思って、 部屋に帰って来ると、 テーブルに並べてる。 「おはよう」 「おはようございます」 仲居さんが挨拶して、 同僚の方が、「おう、 おはよう。 おい、 どうした? 昨日はなんかあったかい?」 って聞いてきた。 「ああ、 夜中まで起きてたけどな、 とうとうなにも起きなかったよ。 そのうち雨が降ってきて、 お前、 陰気な気持ちになるしさ。 まあ、 驚いたと言えば、 あれだな、 部屋の鏡台に写った、 自分の顔見て、 ビックリしたくらいのもんかな」 って笑って言ったら、 この同僚が、 「おい、 昨日は雨なんか降ってねえぞ」 って言うんだ。 すると、 仲居さんも、 「あちらのお部屋には、 鏡台はございませんが…」 って言う。 「ええ? いや、 ちゃんと自分が写ってるの見てるんだから」 って言ったら、 「いいえ、 あのお部屋には、 鏡台はありませんよ」 って言うんだ。 (おかしな事、 言うなあ…) って思ってたら、 この仲居さんが、 「そういえば、 あの、 夜中の一時頃でしたか、 お電話いただきまして、 私が氷と水を持って、 お部屋に伺いましたら、 おひとりで飲んでいらっしゃいましたねぇ」 って言うから、 Aさん、 「私が? いえ、 その時間は寝てましたよ。 それ、 ホントに私だった?」 って聞いたら 仲居さんが言うには、 その鏡台は…… 「いえ、 私はもう、 はなからそうだと思い込んでいましたから…。 そういえば、 あの、 暗い部屋の中で背中向けていらっしゃったんで、 お顔の方までハッキリと見たわけでは…。 ああ、 そうそう、 もうひと方が、 蒲団で寝てらっしゃいましたよ。 寝てらっしゃる方がいるんで、 明かりをつけたら目が覚めると思って、 暗い中で飲んでらっしゃるんだと思ったんですよ」 って言ったんですよ。 「あのね、 その蒲団の寝てたっての、 それが、 私がなんだ」 って言ったら仲居さんが、 「では、 あの、 お酒飲んでた、 あの方はどなたでしょう?」 って言うんでね、 「さあ、 そりゃわからないなー」 って答えたって言うんですよね。 面白いもんですよね。 気がつかなければ、 なんにもわかんないわけですよ。 気がついてみて、 初めておかしさに気づく。 そんなもんなんですねえ            

後日談:

  • 「信州の話し」 「枕」 「二階の死体」 「義兄の姉」 「ロケバス」 「ブルーのミニクーパー」 「ママの知人の男」 「ヘアピース」 「ポルダーガイスト」 「真下の怨霊」 「蚊屋」 「深夜に来た男」 「友人からの電話」 「郵送物」

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