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長編

怨み

しゅん 2020年9月9日
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この話は霊感ゼロ、オバケは見たことが無い私が、スポーツクラブで知り合った、近所の神社の神主さんから「それは、普通の事ではないかもしれないよ、その人は気をつけた方が良いよ」と言われて、数年後実際そうなってしまったという不思議な話です。 長いですが、少し前に終わった話なので書きたいと思います。 長い話ですが、オバケや幽霊はほとんど出てきません。それにイヤな話です。それでも良ければ読んでみて下さい。 少しフェイクを入れますが。ほぼほぼそのままです。 私は現在40才の男です。 学校生活が合わず、恥ずかしながら高校中退で職人の道に入りました。 32歳で結婚をして現在子供が2人います。 そんな私が約5年ほど前の35歳の時に参加した中学校時代の同窓会が始まりでした。 中学3年生の当時私には生意気にも彼女がいました。 当時の彼女が同窓会の幹事で『卒業から20年で集まろ』という趣旨でした。 私は地元から引っ越していた事と、SNS等をほぼスルーしてしまっていたので、連絡が取れず参加を伝える事が出来たのが最後の方でした。 ですので、当日まで誰が参加するのかもよく知りませんでした。 当日。 同窓会の場所は居酒屋の2階にある座敷を借り切って行われました。 店へ行くと懐かしい顔ばかりで、子供連れで参加する人や、全然憶えてない人もいました。 しばらくは仲良かった友達や幹事の元彼女やらと、昔話や近況報告やらで楽しく喋っていました。 しばらくすると、興奮も収まり周囲を見渡すと、部屋の片隅にずっと1人でいる男がいました。 同窓会という事は35歳。 しかし頭は白髪だらけで、ふけだらけ、明らかに痩せ過ぎで、不健康なまでに色白で、着ているスーツはブカブカ。 靴下は汚れていて、目は落ちくぼみ、その割にギョロギョロと周りを見回していました。 名札が服と重なってよく見えないので、友達に「あの端っこの隅にいるヤツ・・・誰だっけ?」と聞くと、友達は「あぁ、磐田(仮名)だよ、ビックリだろ?」と教えてくれました。 え、あれが磐田…? 中学の頃の彼は、お金持ちのボンボンのヤンキーを絵に書いたような存在でした。 実際彼の父は駅前に5階建てのちょっとしたビルを持ち、『磐田ビル』という名前を付けて、1階で不動屋、2階で土建屋を営んでおり、彼が学校に遅刻しそうな時にはデカい黒塗りのベンツで学校まで送ってもらっていたのを憶えてました。 髪は茶色で制服は着崩し、タバコを吸って弱い先生には殴りかかるとやりたい放題でした。 磐田の下には弟がいて、弟のほうは元彼女(幹事)の妹と同級生でした。 弟の方は兄と正反対で遅刻する事もなく、塾へ通い成績もよくてとても真面目で、学校では「あの兄と兄弟」と思われる事を恥ずかしがっていたそうです。 友達は「驚くよなぁ、誰か分からないくらいの変わりようだろ」と言い、中学卒業後引っ越して地元に無知な私に色々教えてくれました。 中学卒業後、高校へ進学しその後Fランク大学に金で入学して、卒業後父の会社で働き、結婚を機に社長を継いだ事。 子供が3人生まれた事。 そして数年後何か訳があって、嫁と子供は実家へ帰った後に離婚。 今は駅前のビルの名前が『○△生命ビル』という名前に変わっている事。 不動屋も土建屋もない事、等々・・・ 私はなるほどと思いました。 夕方5時から始まった同窓会は7時になり、そろそろ一旦終わろうかと言っていた頃、2階の座敷に誰かが上がって来ました。 最初は全然知らない他人が間違えて2階の座敷へ上がって来たのかと思いました。 何故なら格好が交通警備員の制服を着た小太りのオジサンだったからです。 油汚れただらけのメガネをかけて、髪の毛はボサボサで着ている制服に○○警備と書いてあり、汚いリュックサックにヘルメットと、赤く光る警棒が2本差してあり、首から汚れたタオルをかけています。 明らかに交通整理の仕事帰りです。 近くの同窓生が「あのー・・・」と声をかけると「○○中学の同窓会はここで良いんだろうか?」と言いました。 皆ビックリです。 幹事の元彼女が「そうですよ」と答えるとそいつは「ヨッシャー間にあったー!」と喜んで近くの机にドカッと座りました。 「俺だよ、山下(仮名)だよ、どうせお前ら憶えてないよなぁ」と言いました。 わたしはさっきの磐田の時と同じくビックリしました。 私と山下とは中学3年生の時に同じクラスでした。 眼鏡をかけてヒョロヒョロでいつも自信無さそうにしていました。 アニメが好きだったみたいでいわゆるオタクでした。 勉強はそこそこでしたが、ある事がきっかけで夏前には不登校になってしまいました。 皆が引き気味に、『え?マジで?あの黄色いタオルの山下?』みたいな反応をしていると「おい、俺さぁ、何注文してもタダで良いんだよな?」と元彼女の幹事に聞くと「う、うんそう、大丈夫、山下君はお金いらないよ」と応えていました。 すると山下は黄色い歯を覗かせながらニヤリと笑い、唖然とする同窓生を無視し、タバコを吸いながらメニューを開き、店員さんを呼び片っ端から注文しだしました。 どんどん来る大量の料理とジョッキのビール。 うめぇうめぇと言いながらビールを飲んで料理を食べていく山下。 空気を察して子供連れや引き気味の同窓生はそそくさと帰って行きました。 私も帰ろうかと思いましたが、皆帰ってしまうと、最後まで残らなければいけない幹事が可哀想だと思い残る事にしました。 友人数人も残ってくれました。 広い座敷に大量の料理と空のジョッキ。 皆を完全無視で1人でムシャムシャ食っている山下。 少し離れて固まっている私達。 そして…山下の少し向こうにその山下を異様な目で睨みつけている磐田… なぜまだ磐田が残っているのか全然分からず、思わず小声で「磐田がまだいる…」と漏らしました。 すると幹事が「えーと、なぜか分かんないけど、磐田君は山下君に用があるみたい」と言いました。 ?顔の私に、「今回の同窓会開く時ね、皆に連絡したら、磐田君からも連絡あって、『どうしても山下のヤツを呼んでくれ』って頼まれたの。だから山下君の連絡先を探して同窓会に誘ったら『タダなら参加する』って言うから、今度はそれを磐田君の伝えたの。そしたら『山下の分は俺が全部払う』って・・・だから山下君からお金取らないんだよ」と。 言い終わると耳敏くそれを聞いていた山下がこちらを見て、そして今度は反対側で自分を睨みつけている磐田を見ました。 山下 「ん?お前磐田か?お前の奢りなの?さすが社長様だな!それとも罪滅ぼしか?というか、お前ずいぶん雰囲気変わったな?何睨んでんだコラ、中学時代みたいに又俺をいじめるか?あはははは」 中学3年生のまだ進級したての頃。 山下はある日黄色いタオルを首にかけて登校してきた。 私は普段ほとんど喋らない彼に、そのタオルは何?と聞きました。 それは、当日彼が好きだったアニメに出てくる女の子のキャラが書いてあるタオルで、何かの抽選で応募したら当たったのだと教えてくれました。 普段は口数が少ない彼が、好きなアニメの事や、そのタオルはとても貴重な物だということを語ってくれました。 私はアニメに感心が有りませんでしたが、熱心に語る彼に「すごいな、当たって良かったじゃん、アニメはよく分かんないけどキレイな良い色だ」とほめるととても嬉しそうでした。 が・・・ たまたまそれを磐田が聞いていました。 彼はタオルをサッと取り上げると鼻をかみました。 山下は「やめろよぉ!」と怒りましたが、それは磐田にとって逆効果で『面白いおもちゃを見つけた』くらいの感覚だったのでしょう。 それから山下へのイジメが始まりました。 叩く蹴るは日常的でした。 山下に馬乗りになって笑いながら頭を叩く磐田。 それを泣きながら手でガードしながら受ける山下。 トイレへ行けば水をぶっかけて「黄色いタオルで拭けよ!www」等々。 当時の山下はヒョガリのアニメのオタク。 磐田は茶髪で先生も殴るヤンキー。 正直磐田の事が以前から嫌いだった私は黄色いタオルの件の罪悪感もあり、イジメ現場を見つけた時は山下をかばっていました。 しかし、結局夏休み前までには山下は登校して来る事は無くなりました。 卒業後、彼がどうしたのかは分からず仕舞いでした。。。 その磐田と山下がお互い変わり果てた姿で睨み合っています。 そして磐田が山下に歩み寄ったかと思うと山下の汚れた制服の襟首を掴むと叫びました。 磐田「お前だろー!なぁもうやめてくれよ!家族バラバラだよ!嫁も子供も帰っちまったよ!会社も無くなっちまったよぉ!頼むよぉぉぉ」号泣していました。 山下は「あぁ?何の事だよ、意味わかんねーよ、つーかあの時と違うぞ?1発でも殴ってみろ、警察呼ぶからなマジで」 磐田「あぁぁもうやめてくれ!勘弁してくれよぉぉ、子供が泣いて・・・出ていって・・・うっうっうっ」 山下「何だお前?すげー不幸なんか!?そうか!不幸なのか!最高だな!最高だ今日は最高の日だ!ヒャハハハハウヒャハハハハ天に通じたー!」 次の瞬間、磐田は山下を押し倒すと馬乗りになり「やめてくれやめてくれ」と良いながら号泣し狂ったように山下を殴りだしました。 山下は無抵抗で、殴られて鼻血をダラダラ流しながら「お前も不幸かー!」と言い、こっちも狂ったようにゲラゲラ笑い続けました。 私達は必死で止めましたが二人とも異常な興奮状態で片方は泣き崩れ、片方は笑い続けています。 その後居酒屋の店員さんが2階でケンカをしていると思い警察に連絡。 パトカー数台と10人くらい警官が来て2人を連れて行きました。 私達も事情聴取されました。 そんなこんなで私が家に帰り着いたのは明け方でした。 結局私は磐田の言動の訳が分からず、山下に何をやめて欲しかったのかもわかりませんでした。 当時は・・・。 それから更に4年が過ぎました。 つまり去年です。私が39才の時です。 実家に帰る用事があったのでお盆休みに帰省した時の事です。 実家近くのコンビニで偶然元彼女と会いました。 向こうも実家に帰省中でご主人と子供と一緒でした。 私はご主人に自己紹介し、あいさつしました。 するとご主人はせっかくだから2人で思い出話でもしてきたら?と提案してきました。 その後2人で駅前のスタバに入り、ソファに座って話す事になりました。 自然と前回の同窓会やその後の話になりました。 私はまたショックを受ける話を聞きました。 なんと2年前に磐田が死んだというのです。 しかも自殺したと。 元彼女の妹は磐田の弟さんと同級生だった事で、元彼女にも色々と情報が入ってきたそうです。 それを纏めると… 磐田の弟さんの言うには、実は以前から兄はだんだん頭がおかしくなっていっていた。 家や会社で幽霊が見えると言い出したそうです。 そのせいで家や会社に御札をベタベタを張り、至る所に盛り塩をして… それでも効果が無かったらしく、胡散臭い拝み屋や占い師みたいな詐欺に次々とひっかかり会社が傾いて結局は潰れたそうです。 嫁と子供は実家に帰り離婚。 無職でノイローゼみたいになった兄をほっとけなくて、弟さんが仕送りをしていたらしい。 最後は1Kのボロアパートに住んでいたそうです。 兄は死ぬまで「黄色い長い布を持った子供の幽霊が見える、耳元で死ね、お前のせいだ」と四六時中囁いてくると言っていた。 しかし不思議なのが自殺の仕方で、なんと深夜に起きて喪服に着替え数珠を持ってサンダルを履いて、そのまま高速道路へ歩いて行き、出口から侵入して走ってきた大型トラックに飛び込んだそうです。 意味不明でした。 当時の地方紙には掲載されたそうです。 そして更に1年が過ぎ、今年の春。 近所のショッピングセンターへ車で行った時に駐車場に山下がいました。 相変わらずの小太りだったが、明らかに顔色が悪く更に老け込んでいて、右足をびっこを引きながら、警備の棒を振って車両を誘導していました。 話かけると、「もうそろそろ午前の仕事が終わるから一緒に飯でもどうだ?」と言われました。 フードコートでうどんを食べて山下と喋りました。 以前より明らかに顔色が悪いので、私はお前大丈夫か?病院行ってるか?と言うと、山下はここ数年ずっと体の具合が悪く悪化しているが病院には行ってないと。 私が病院に行くことを勧めると、病院に行く気は無く、そもそも自分の健康などに全く興味はないのだと言った。 釈然としないまま、一応伝えた方が良いのかと思い、磐田が亡くなった事、最後はノイローゼのようになったしまって自殺した事、等々。 すると山下が腕を組んで、「これは内緒の話だぞ」と悲しくて恐ろしい話を始めました。 山下は昔ある会社に勤めていたそうです。 しかしやはり学歴が無く収入も少なかったそうです。 でも婚約者がいて、それなりに幸せだったそうです。 春には結婚と言う段階で彼の人生のが変わってしまいました。 ある日通勤電車で女子高生から痴漢に間違えられ、逮捕されてしまった。 完全に冤罪なのに、山下の言い分は誰も聞いてくれなかったそうです。 会社は彼を解雇。 無職になり、ネットで名前を検索すると痴漢の犯人として出てくる。 再就職もすべてダメ。 婚約者は同情はしてくれたが、向こうの両親も許してくれず、結局破談に。 心が折れた山下は首を吊って死のうと思った。 家の和室の横柱にロープ代わりにバスタオルを輪にして、首を通し椅子を蹴った。 しかし、死ねなかった。 タオルが体重に負けて結び目がほどけてしまった。 悔しくてタオルを握りしめて泣いてたら、無性に怒りを覚えたらしい。 なぜ俺が死ななければいけないのか。 そしてタオルを見て過去を思いだした。 『あいつのせいだ、磐田のせいだ、人生が狂ったのはあの時からだ、磐田のせいだ、死ね死ね死ね死ね死ねぇ!』と思った。 そしたらスッと気が楽になったと。 タンスの奥からあの黄色いタオルを探し出た。 その日から嫌な事があれば黄色いタオルを握りしめて『磐田のせいだ、死ね!死ね!くたばれ!』と囁く。 するとスッキリする。 そして、もし、また死にたくなって本当に自殺する時は、必ず磐田本人と、家族がいるなら家族も、ペットがいるならペットも殺してから死のうと強く誓ったそうです。 日雇いの仕事を見つけると、仕事に行く前、帰ってきた後、夜勤の前、寝る前にと、ずっと恨み言を、タオルに言い続けたそうです。 山下は「いやー神様が叶えてくれたのかなぁ、しかしもう終わりか、つまんねなぁ」と少し嬉しそうにニヤリと笑いましました。 その口元には歯が数本ありませんでした。 私はゾッとしました。 スポーツクラブで知り合った神主さんは「それは、多分神様なんかじゃないよ、無意識に彼が生き霊を飛ばして呪ってたんだと思うよ」と言ってました。 そして色々と教えてくれました。 ただの悪さをする霊ならば、祓いやすいが生き霊というのは祓いにくいそうです。 例えるなら霊というのは『営利目的の誘拐犯』や『お金目的の銀行強盗』の様なもので、説得や話し合いや時には脅しが効くが、生き霊は『ストーカー殺人犯』や、『頭の狂った通り魔殺人犯』みたいなもので話し合いや脅しもほぼ通じないそうです。 だから御札を張ってもお祓いしても大して効かない事が多いそうです。 『人を呪わば穴二つ』と言われるが、世間では人を呪うと自分にも返ってくると言われるが実は少しニュアンスが違うと言ってました。 人を呪いたいならば、自分を犠牲(人柱)にしなければ呪えないと思った方がいいと。 例えば相手の右目を潰したいなら、最低でも自分の右目も差し出さないと呪えない、と。 だから今回の場合山下は、自殺が失敗した時から無自覚で『自分が死んでも構わないから相手が不幸になれ』と、毎日毎晩願ったからなのかもしれないと。 では、どうすれば良いのか聞いた所、結局は人から本気で呪われるほどの怨みを買ってはいけない事、そしてどんな嫌いなヤツでも相手の幸せを祈る事だそうです。 それと、怨みには時間はあまり関係が無く、昔の事だから…とこっちは思っていても、相手は逆に時間が経って更に怨みが大きくなる事もあるそうです。 そして先月の8月の下旬。 同窓生の友達からのラインで山下が死んだ事を教えられました。 工場現場の警備中に熱中症で倒れそのまま亡くなったそうです。

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