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中編

ある雨の夜

かわ 3日前
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。 まどろみの中で、自分がいま着ている、父から買ってもらった上等な着物の裾に描かれた優美な柄を見つめながら目を閉じた。 『ぎぃぃぃぃ』 ふと居間の扉が開く音で目が覚めた。 『あなたなの?』 千代乃はまどろみの中で問いかけたが、辺りはしーんと静まり返っていた。 そして誰が消したのか、激しい雨で電線が切れたのか、いつの間にか電灯が消え真っ暗闇となっていた。 『あら?激しい雨で電気が切れたのかしら。困ったわね。あなた帰ったの?』 誰も答えない。千代乃は少々の恐怖を覚えた。 『ねえ、ふでなの?』 『ぎぃぃぃぃぃ』 真っ暗闇の中で扉が少しずつ開いていくのが見えた。千代乃はソファから立ち上がり後ずさりしていた。 扉が完全に開いたところで千代乃は声にならない悲鳴をあげた。 『きゃあぁ』 そこには真っ黒い影が立っていたのだ。人ではない。 千代乃は暗闇の中で、もう後ろまで下がれないところまで後ずさりながら壁に寄りかかると声にならない声を上げていた。 『きゃぁぁ。やめて』 その黒い影はつーっと千代乃に近づいてくると、そのまっ黒な目のない目で千代乃を見つめたままふっと消えた。 千代乃はそのままへなへなと床に座り込み意識を失った。 翌日のことである。昨夜、夫の浅吉と浅吉が囲っていた愛人の小料理屋の女将が心中したという知らせが届いたのは。 昭和五十三年― 千代乃は病院でその人生の幕を閉じようとしていた。 外は激しい嵐である。薄れゆく意識の中で病室の扉が少しずつ開いていく。 霞んだ目で扉を見つめると、真っ黒い影が立っていた。 その影はつーっと千代乃に近づくとその真っ黒な目のない目で千代乃を見つめたままふっと消えた。 そして千代乃の意識もふっと途絶えた。ある雨の夜のように。

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    れな
  • 死魔(死神)かな
    Nanoarchaeum
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