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中編

畏敬の念

匿名 2022年4月20日
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京都に弾丸旅行しました。数年前の秋に、ひとりで。 行きたかった観光名所はだいたい回ってしまい、15時手前でプランを消化してしまいました。 時間が半端なので、近くになにかないかなーと探したら、バスで1時間ほどの山の中に大きな滝があると。 いいね、山歩きして滝でも見てすっきり帰ろうと軽い気持ちで山へ。 入山は16時前でした。今思うと本当にバカです。 せめて誰かに一言、「xx山にいまから行く〜」とラインすればよかったと、後になって後悔します。 高尾山みたいに観光地化してると思いきや、人はいないし、登り口は細い道がなんとなくあるだけなんですよね。 まあいいかと思い、いざ登りはじめると、行方不明者の顔写真付きのビラが何枚も貼られているんです。 え?こんな小さな山なのに?(900メートルぽっち。しかも山中の滝に行くだけ)と思いつつ、まあ自分は若いし体力もあるから、と思って進みます。 繰り返しますが、本当に愚かでした。 登ってしばらくは、空気はうまいし、美しい鳥のさえずりや川のせせらぎに癒されていました。 ところが、歩けど歩けど勾配はきつくなり、鳥や川の音は遠のいていきます。 案内標識の通り歩いてきたはずですが、電波はなく、地図もないので、気付くと自分の位置がわからなくなっていました。 周りは静かになり、自分の呼吸と胸の音ばかり聞こえてくるんです。 あれ?滝に続く標識をしばらくみてないな、と思ったらもう17時前。暗い。電波は圏外。 ちゃんとした道でもなく、ただの山中でしかないここはなんだ? 案内標識らしいものや人工的な物が一切ない。 ここはどこだ? 周りの山の頂が、なんでこんなに近づいているんだ?(だいぶ登ってきてしまった) ここで、自分が遭難しかけていることに気付きます。行きがけに見た遭難者のビラが現実のものとなって身に迫ります。 こりゃ滝どころじゃないと思って引き返します。 しかし、かなり急な上りと下りが繰り返されるので降りているのか登っているのかわからないんです。 道も人ひとり立つのがやっとの細さで、急斜面と接しています。 それに、分岐がいくつもあるんです。登りはなんとなく突き進んできましたが、いくつもの分岐をどう曲ってきたのか覚えていません。 景色はどこも同じに見えます。 わかりますか?自分が降りているのか登っているのかわからない恐怖。 だいぶ上だからなのか鳥や川の音もない。静寂の中で心臓が打つ音と激しい呼吸の音だけです。 (この時、どういう心情だったのか動画を撮りましたが、今も見たくありません。) 汗だくのシャツにデニム、食料も水もありません。 行きがけに見た遭難者のビラ。1ヶ月ほど前に遭難した方でした。 いやでも自分を当てはめてしまいます。 圏外、静寂、身近にある遭難死の可能性。 ひとりで気が狂いそうでした。 やがて遠くに人がいると思って、ああ!あそこに人が!と、急勾配を必死に登っていきます。 近づくと、それは木から生えた枝でした。 経験したことのない恐ろしさに気が動転していたんです。 そして、無茶苦茶に登ってきたので道が余計わからなくなりました。 もう絶望して、この急斜面を滑って降りようかと思いました。本気で。 今思うとこれだけはしなくてよかったです。ああいう場所を滑り降りようとして怪我して動けなくなる遭難が多いんだそうです。 もう気力も体力もないですが、登りで見た熊出没注意という看板や、遭難者のビラが頭によぎり、死ぬより歩くぞと思ってとにかく歩き続けました。 道は分かりませんが、とにかく自分の感覚を頼りに下山を目指します。 やがて木に黄色のロープが見えて、これは森林作業員の紐だ!さっきまで一切人工物がなかったが、ここにはある!下山できている!という希望が。そこからは一気に降りて、やっと地上に。 行きがけにみた自動販売機の光が安堵の気持ちを押し上げます。あれは私にとって文明の象徴でした。 そして、帰りの終バスになんとか間に合います。 バスに乗ると人間がいるんです。当たり前ですよね。 でも、その安心感は凄まじいものがありました。 ひとり、静かに涙が出ました。 本当に恐ろしかったです。 自然はなんと無関心なんだろうと思いました。 自然は決して美しいだけではありません。 登山は必ず準備しましょう。低山ほど遭難事故が多いです。 遭難者のビラの方を想うとなんと心細く、無念だっただろうと思います。

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