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短編
森の校舎の女
短編

森の校舎の女

2025年10月1日
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うちの高校は、山のふもとにある。

校舎の裏はすぐ雑木林で、窓の向こうは木の海みたいに暗い。

昔から「裏の窓は、夜に見ないほうがいい」と言われていた。

三年の秋、文化祭準備で帰りが遅くなった日。

俺は忘れ物を取りに、ひとりで校舎へ戻った。

職員室は消灯。廊下は非常灯だけ。

二階の教室の扉は、なぜか鍵が開いていた。

教室に入ると、カビと古い木の匂いがした。

机の上を探して、すぐUSBは見つかった。

帰ろうとして、ふと窓際を見る。

窓際の席に、誰かが座っていた。

肩までの黒い髪。白いブラウス。

制服じゃない。どこか古い。生地が重そうで、襟の形も今のと違う。

「……誰?」

返事はない。

ただ、指先で窓ガラスを――叩いている。

とん、とん、とん。

俺は息を飲んだ。

叩いている“音”が、窓の外から聞こえている。

懐中電灯を窓へ向けた。

ガラス越しに林が浮かび、枝と葉が重なっている。

その暗がりに、白い“顔”があった。

窓の外。枝の間に、女が立っている。

顔が、のっぺりとしていて――目がない。

口だけが動く。

「……あけて」

教室の中の女は、いまだに窓に向かったままだ。

でも肩が、ゆっくり震えはじめた。

とん、とん、とん。

外の女がガラスを叩くたび、

教室の女の頭が、少しずつ同じ角度に傾いていく。

まるで、外の女に“合わせている”みたいに。

俺は動けなかった。

足が床に縫い付けられたようだった。

外の女の口が、もう一度動く。

「……あけて」

教室の女が、初めて声を出した。

「……あけないで」

それは、今の女子高生の声じゃない。

古い録音みたいに擦れた声だった。

「……あけると、森が入る」

その言葉の意味がわからないまま、

俺は反射的に後ずさった。

そのとき、教室の黒板の端が目に入った。

消したはずのチョークの粉が、薄く残っている。

誰かが昔、ここに書いたまま消えきらなかった文字。

——森側の窓 開けるな

同時に、窓際の机の上に古いノートが置いてあるのに気づいた。

表紙に年号。今の学校のロゴじゃない。

ページの端が湿って波打っている。

俺はノートを開いた。

そこには、震える字で、同じ言葉が繰り返し書かれていた。

「森の校舎の女を中に入れるな」

「見たら、目を合わせるな」

「呼ばれても、窓を見ない」

読み終わる前に、背後で――

きぃ、と、窓の鍵が回る音がした。

誰が?

振り向くと、教室の女の手が窓のクレセント錠にかかっていた。

指先は白く、やけに長い。

外の女が、口を大きく開いた。

ガラスに顔が近づき、息で曇る。

「……やっと」

俺は叫んだ。

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