
雨漏りの音を調べるため、枕元に小さなレコーダーを置いて寝たことがあります。
海沿いの古い集合住宅で、雨がひどい日は天井のどこかから水が落ちる。管理会社に説明するのに、音を録っておこうと思ったんです。
その晩、私は妙な夢を見ました。
地下駐車場にひとりでいて、外は雪。真夏に豪雨が降った日だったのに、夢の中では車も柱も白く埋まっていました。
出口を探して歩いていると、作業着の男が雪をスコップで掘っています。掘るたび、雪の下から誰かの指が出てくる。
私は「人がいる」と叫びました。男は聞こえないふりをして、指の上に雪を戻す。
やめろ、と腕をつかもうとしたところで、男が振り返りました。
「まだいますか?」
声は、雪の下から聞こえたんです。
足元の雪が、内側から少し盛り上がる。そこから、何人もの声が重なって、同じ質問を繰り返しました。
「まだいますか?」
逃げようとしたのに、出口の表示はどこにもない。男は私のほうを見て、スコップを差し出しました。
「じゃあ、あなたが確認して」
私は後ずさりして、目が覚めました。
汗でシャツが張りついていました。雨漏りのことを思い出し、レコーダーを止めて再生してみたんです。
最初は、天井から落ちる水の音。途中で寝返りの音がして、そのあとに私の声が入っていました。
「まだいますか?」
夢の中の声をまねたのかと思いました。けれど、録音はそこで終わらない。
「はい。まだいます」
私の声でした。ひどく明るく、楽しそうに。
最後に、スコップで雪をかくような、ざり、ざり、という音が続きました。もちろん、部屋にそんな音を立てるものはありません。
それ以来、レコーダーは使っていません。
先日、隣の部屋の人に言われました。
「夜中、楽しそうに誰かと話してましたね。ずっと『はい、まだいます』って」
うちは一階です。地下駐車場はありません。
でも、雨の夜になると、床の下から水を掻くような音がするんです。
後日談:
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