
新着 中編
夜鳴きの廃団地
こわがりナイト 2日前
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……撮れなかった……」と呟く。
春日は「もう帰ろう」と言い出したが、相沢は聞かなかった。
「まだ奥の部屋、撮ってないだろ。」
奥の部屋に入ると、そこだけ焼け跡が残っていた。
壁一面が黒焦げで、床には何かの玩具が散らばっている。
焦げた哺乳瓶。錆びたベビーベッド。
その瞬間、後ろのドアが「ギィ……」と勝手に閉まった。
「おい、誰だ!」
俺がドアノブを回しても、びくともしない。
中で風が巻き起こり、黒いすすが宙に舞った。
「……返して……」
低い女の声が、すぐ耳元で囁いた。
俺は反射的に振り向いた――が、誰もいない。
ただ、相沢が床を見て硬直していた。
「な、なんだよ……」
「これ……見ろ。」
彼が指差した先に、足跡があった。
床の埃の上に、赤黒い裸足の跡がぽつぽつと続いている。
しかもそれは、俺たちの足跡の中に「上書き」されていた。
「出よう!」
春日が叫び、全員でドアを叩いた。
その瞬間、ドアの向こうからドン!と何かが叩き返してきた。
一回、二回、三回。規則的に。まるで……赤ん坊を抱いてノックするように。
「やめろぉぉ!!!」
美穂の叫びと同時に、ドアが開いた。
外に飛び出すと、団地の廊下はさっきよりも暗く沈んでいた。
懐中電灯がちらつく。電池はまだあるのに。
駐車場まで全力で走った。
振り返ると、三号棟の最上階の窓に白い影が立っていた。
何かを抱き、こちらを見ている。
それが笑っているのか、泣いているのか――判断する余裕はなかった。
⸻
翌朝、相沢から電話があった。
「写真、全部真っ黒なんだ」
「設定ミスか?」
「いや、違う。おかしいんだ。フィルムに……顔が焼き付いてた。女と、赤ん坊の。」
彼の声は震えていた。
その日を境に、相沢は大学に来なくなった。
実家に戻ったと聞いたが、ほどなくして失踪。
春日は転学し、美穂は退学した。
俺だけが、あの夜を記事にした。
けれど、取材ノートの最後のページに、こう書かれていた。
『返して……あの子を……』
俺はそんな言葉を、書いた覚えがない。
後日談:
- 清風台団地は、現在も立入禁止のままだ。 市の記録では「老朽化による危険区域」とされているが、取り壊し工事は何度も中断している。 重機の故障、作業員の転落、そして――夜間の異音。 地元ではいまだに「夜鳴き団地」と呼ばれ、 夜になると、団地の奥から赤ん坊の泣き声がするという。 昨年、YouTuberがドローンで上空から撮影した映像が話題になった。 三号棟の窓に、一瞬、白い影が映り込んでいる。 まるで赤ん坊を抱いた女が、 「まだここにいる」とでも言うように
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- コメントありがとうございます!愛知ネタまだあるのでまた投稿しますね!こわがりナイト
- 拙者 今愛知に居るから行ってこないわモナカ侍