
長編
赤い車
雪の結晶 2016年4月7日
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先日、鉄砲百合岬を投稿したものです。嫁さんが他にあるならまた投稿してよと言うのでその後の体験の一部を載せます。
大学は夏休みに入った頃、俺はプールバーのバイトを始めた。実はよく行く理髪店の店長の行きつけで、紹介されてからは常連客として定着していた店だった。そのバーの繁忙期に雇われたのだった。
そのバーは繁華街から外れた、どちらかというと田舎にあって、店の裏手に教会と駐車場がある。
駐車場は教会のものなのだが、店の裏にあるせいか、しょっちゅう客が無断駐車をする。見つかる度に教会からクレームがくる為、怪しい車には気を配っていた。
バイトにも慣れたある日、俺は例の駐車場に一台の赤い車が停まっている事に気付いた。客席を回り確認したが持主がいないということで、きっと教会関係の車だろうと放っておくことにした。
翌日、バイトに行くと同じ車が停まっていたが気にせずにいた。その晩は教会から何も無かったが、次の日のバイトで店長から「教会から車が邪魔だって言っているから見てきて」と言われ、「いや、あれは数日前からですよ。教会関係者じゃないですか?」と返すも、「何回も迷惑かけてんだよ、うちは。あっちもピリピリしてるからいいから見て来て」とウンザリした顔でシッシッとされた。
仕方なく裏手にある駐車場に行く羽目に。裏手にあっても駐車場までは急な坂道だし、正直しんどい。タバコを吸いながらゆっくり車に近づくと不意に耳鳴りがした。
大抵の耳鳴りは直ぐに治るのに、治らない。それどころかキーン キ、キーンと何だかリズミカルだ。それでも車に近づいて中を覗くと、誰もいないし、紙のようなものが沢山散乱していた。鍵はかかっている。
耳鳴りがやんだ
車の中から「って」と言葉なのか判断出来ない音が聞こえてきた気がして耳をすますが何も聞こえない。
でも後部シートから見られている気がして気味がわるくなった俺は慌てて店に戻った。
店長に「誰もいないし、汚い車で投棄車かもです」と伝えると「じゃあ、教会にも連絡しておくよ。役所あたりが回収するでしょ」と根拠なさそうな頼りない返事が返ってきた。
その日のバイトも終わり、帰宅中の車でふいにまた耳鳴りが始まった。さっきよりヒドい。
頭も痛くなって思わず車を停車してこめかみを指で押していると、また「ってってってって」と聞こえる。さっきより聞こえるし、車の外から聞こえている。
って?何だよ!頭イタイし!っと思ってガマンしていると段々と「・・って・・・してっ・・してっ」と聞こえて来た。運転席側の窓から聞こえる気がした俺は怖くなり直ぐさま車を出発させた。
なんだなんだ?と思って鳥肌たったが、その後は何事も無く家路に着いた。
今日は忙しかったせいか、疲れていたのですぐに寝る事にした。
「コラーっ!何してる‼︎」
は?何してるとか意味わかんね。何もしてませんよっと・・・
「⁉️」
俺は自転車を漕いでいる。しかもかなり必死に漕いでいる。
「⁉️」訳が分からない。何だこれ⁉︎
背後からパトカーのライトの気配。
慌ててハンドルを切ると勢いあまって激しく倒れこんだ。
もちろん、めっちゃ痛いが何が起きているのか状況不明だ。
パトカーから降りてきた警官も
「酔っぱらっているの!何で止まらないの!」と激怒している。
こちらとしても状況不明だったが、思わず「すみません‼︎聞こえませんでしたっ!」と叫んだ。
その後はパトカー内で検査。アルコール検知されず。取り敢えず解放された。
どうやら見覚えのある風景だ。数キロ離れてはいるがバイト先に向かう道の途中だ。
いまは何時だ。時計をしていないが多分明け方だ。空の端が明るい。
・・・この自転車はだれの?
俺は自転車を持っていない。名前も書かれていない。というか俺は何をしているのか訳が分からない。心臓のバクバクが止まらない。
取り敢えず、自転車を漕いで家まで引き返すことに。家の近くのコンビニに自転車をそっと置いて逃げてきた。
翌日のバイトで店長に前の晩の不可解な出来事を話すと、
「ふーん。若いから元気が眠っていてもあるんだね!羨ましい!ま、今日も頑張って‼︎」っと。
ムカつく。
その表情に気付いたのか店長は「あ、そう言えば駐車場の車は業者が明日回収に来るみたいよ」と話をすり替えた。
はいはい、そーですか。俺はバイトだし興味ないのね、車の事なんてどうでもいいですよと考えていたら。またまた店長が
「だから業者来たら。案内してあげてね」
だから教会の駐車場にあるんだし、教会の人がやればいいでしょうが!っと言いたかったが止めた。
その日の晩は真夜中目が覚めた。良かった、家に居る。ベッドの上だ・・・ホッとしたのも束の間、
・・よくあるパターンだか身体が硬直している。
これって金縛り?・・・と思っていると、また耳鳴りが始まった。
何処からか「・・ま・って・・・って、してっ・・・」と聞こえてきた。
ベッドのうえで動かない俺の頭の上から囁くように聞こえている。
怖い!!
そう思った瞬間に耳元でハッキリと男の声。
「また・・・かして」
俺は気を失ったと思う。
気がつくとまた明け方だった。
今日もバイト・・・正直、しんどい。
昨日出来事を姉に相談すると、疲れているからだよと、驚かさないでよっと取り合ってくれない。
確かにバイトで慣れない夜勤務だけど、絶対おかしいって!
今日はバイト休もうと店長に電話をかけると
「あ!!ちょうど電話するとこだった。大変なんだよ!」
「何かあったんですか?」
「あの車、業者が今日早めに来てたんだけどさ、厄介な事になった。」
「?」
「取り敢えず来てよ。警察も来てる」
え?また警察!あの晩を思い出す。
「俺は何もしてないですよ」
と慌てて言うと
「ばかっ!なんか知らんけどあの駐車場の車の事だよっ、中からヤバいもんが出たって」
「は?」
「死体だよ。死後3、4日はたっているらしい。事情聴取ってヤツだ」
何てこった!そんなのが車にあるって知らずに俺はあの日、中を覗いたんだぞ!冗談じゃねー。
結局、バイト先に着くと野次馬と警官が沢山。
店の中で聴取され、当時の状況をなるべく細かく伝えたがあの奇妙な音とか雰囲気のことは言わなかった。
でも・・・案の定、遺体は男性だった。
さすがに今日の営業は無理でしょうってことで店は閉店。
その日から変な事は起きなくなった。
週末明けにバイトに行くと何事もなかったかのように店長が何やら仕込みを始めていた。
俺も着替えて掃除をしていると、ふと店長が
「そう言えばさぁ」と、思い出したかのように口を開く。
「一昨日の夜中に君、電話してきたでしょ?」
「?いいえ?」
「バカちん!携帯に名前出てるし!ってかさ、お前スゴい酷い声だったし、言ってること意味分からなかったから切っちゃったけど、飲んでたの?」
「すみません、全く記憶にないです。飲み会ありはしましたがそんなに羽目外してないですよ〜?なんて言ってました?」
「う〜ん、確か・・・まださがしてっ・・・って」
瞬間、全身の血の気が引いた・・・
最初からそう言ってたの・・・か?
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