
長編
思い出の中にだけいる女
チコ 2018年7月14日
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気付き、嘆息した。
生者へ遠回しにカネをせびる幽霊など聞いたとがない。
心霊検知メーターは0に向けて急速に針を戻し、自動でシャットダウンしてしまった。
私は呆れ果てながら、金銭要求を拒絶するため「私は一介の安サラリーマンで経済的余裕も乏しくて、」と老婆Aに語り出したが、全部言い終わらないうちに老婆Aはアッサリと「お話聴いていただいてありがとうございました。長々お引止めしてすいませんねえ・・・」と解放してくれた。
老婆Aの家を出た私は自宅の方向へ向けて歩き出したが、その路地の片側に塀が長々と続き、卒塔婆が突き出ていた。
心霊現象まがいの怪奇体験直後に、墓地脇の道を歩くのは気色悪い。
別ルートで帰宅するべく振り返ると、先ほどの老婆Aが路地に立ち、深々とお辞儀してるのが見えた。
街灯など設置されていない暗い路地なのに、老婆Aの姿はヤケにハッキリ見えた。
私は涙目で踵を返し、墓地脇の路地を自宅方へ向けて歩き出した。
ホラ-映画みたいに老婆Aが空を飛んで襲い掛かった場合に備え、100円ライタ-を直ぐに発火できるよう握り締めた。
8.祈願
翌日、老婆Aの家を訪ねたが、普通の古びた民家で、空家の可能性はあるが、廃墟ではなかった。
その足で有名な芝居のヒロインC様の墓を詣で、「ムダに長生きしているAさんを早く連れて行ってください」と祈った。
健康で長生きも考え物だと思った。
9.真相
以降、老婆Aとの遭遇は、「なんちゃって心霊体験」として私の中で定着していったが、
数年後の4月Y日、国民健康保険証はかなり前からカード式に切り替わっていたことを私は知った。
老婆Aが生者であるならば、四つ折りの書面ではなく、カード式の国民健康保険証を提示したはずだ。
四つ折りの書面を提示したということは、老婆Aはこの世の者ではなく、国民健康保険証がカード化される以前に亡くなった幽霊ということではないか。
老婆Aの、あまりにも遠回し過ぎて真意が量り難い要求スタイルも、怪談で語られる死霊の振る舞いに酷似している。
D寺のC様墓所は誰でも勝手に入れる観光名所なのに、老婆Aだけ参拝を制止されたのも、この世の者でないのをD寺に見抜かれたからではないだろうか。
大正6年生まれといえば遭遇時点でも100歳近いが、老婆Aは弾むように階段を上り下りし、せいぜい70~80歳くらいにしか見えなかった。
その日、私は老婆A宅を訪れ、ポストに500円玉を供え、
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