
長編
虎の穴
きき 3日前
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「ちょっと、置いてかないでくださいよ。」
「遅えよ。そんな面白いものあったか?」
「先輩の鑑賞が雑なんですよ。もっとこう、思うことないんですか?」
「いやー。中、寒かったじゃん。冷えちゃって。と思ったけど暑ちーな外。」
確かに寒いくらいだった建物から一歩外に出ると、ベトナムの気温が俺を襲った。
「気温差凄いからクラクラしますね。」
「見るもんも見たし、取り敢えずホテル戻るぞ。腹減った。」
「帰りはタクシーですね。」
ようやく捕まったタクシーに乗り込み、正規の値段かどうかも解らない額を言い値で支払い、俺たちはホテルに戻った。
「ちょっと早いけど晩飯食おう。腹減っちやった。面倒だからホテルのレストランでいいよな。」
「いいですよ。取り敢えず一旦部屋戻りましょう。シャワーも浴びたいし。」
「俺も。じゃあ準備出来たら電話くれ。」
部屋に戻る。
俺はひどく疲れていた。日射病だろうか。
頭が重い。
そのままベッドに倒れ込む。
シャワーも浴びたいが、体が重い。
自然と瞼が閉じていった。
ジャラ……
鎖の音で目が覚める。
鎖?
体を起こそうとするが、びくとも動かない。
金縛りだ。
金縛りは何度も経験しているが、こんなのは始めてだ。
指先も動かせない。
うつ伏せの体勢のまま、どうすることも出来ない。
ジャラ……
また鎖の音がする。
誰かが部屋にいる。
この体勢では部屋全体は見えない。
かろうじてドア付近とバスルームが見えるくらいだ。
ジャラ……
部屋の奥からだ。
捕虜収容所の光景が頭をよぎる。
したくないが想像してしまう。
部屋の隅の暗がりに、
鎖に繋がれた捕虜が居る。
人形と同じ、虚ろな目をした。
ジャラ……ジャラ……
音が変わった。
ジャラ……
ジャラ……
ジャラ……
音の間隔が短い。
ジャラ……
ジャラ……
ジャラ……
歩いているのか。
こっちへ。
ジャラ……
ジャラ……
来ないでくれ。
頼むから。
ジャラ……
目の端に何かが見えてくる。
捕虜だ。
痩せた黒い足が見える。
それから腰。色褪せた服が。
手も見える。
それに付いた鎖も。
顔は。
顔は見えない。
俯いてボサボサの髪。
フラフラと今にも倒れそうに。
でも、ゆっくりとこ
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- 小説のような文章の成立ちで、飽きる事もなく一気に楽しんで読める。 文才ありますね、だなんて偉そうなコメントを残しましたが… 大学という、最高学歴を持ち 本がお好きなら当然、文章の構成もお手の物として身に付いていたんですね。素晴らしい。羨ましいです。K