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地下書庫の返事
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地下書庫の返事

10時間前
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「お疲れさま」

地下書庫に入るたび、古い搬送口の向こうから声がする。

私は市立図書館で、傷んだ資料を直す仕事をしている。地下書庫は窓がなく、冬でも空気がぬるい。壁の奥には、昔使われていた書類搬送用の小さなリフトが残っていた。扉は溶接され、操作盤も外されている。

初出勤の日、鍵を開けて中に入ったときだった。

「お疲れさま」

声は、搬送口の内側からした。

驚いて管理室に聞くと、先輩は「古い配管が鳴るんだよ」と笑った。けれど、配管の音が人の声に聞こえるほど疲れていたわけではない。

それから私は、書庫に入るたびに返事をした。

「おはようございます」

「戻りました」

「今日は寒いですね」

向こうから返ってくるのは、いつも同じ声だった。

「お疲れさま」

ひとりで長時間作業をしていても、それを聞くと妙に気が楽になった。顔も知らない相手に、仕事を見てもらえているような気がしたのだ。

ある朝、先輩が古い設備図面を広げた。

「これ、撤去した記録がないな。リフトの中、空かどうかだけ確認しよう」

溶接を切る作業は午後になった。私はその前に、いつものように書庫へ入った。

「お疲れさま」

いつもの声がした。

その直後、金属板を内側から叩く音が三回続いた。

先輩を呼びに行こうとして、私は足を止めた。リフトの扉には、作業前に貼られた封印紙が残っていた。切れてはいない。溶接も、ひと目でわかるほど古い。

つまり、向こうから叩いたのだ。

午後、私たちは扉を開けた。

中には、古い制服を着た男が座り込んでいた。痩せた手は、扉の内側に向けて伸びている。顔は乾き、目だけがこちらを見ていた。

先輩が息をのんだ。

「この人、昔ここで夜間管理をしてた人だ。ずっと前に、急にいなくなったって……」

私は、その顔を知らないはずだった。

けれど、聞き覚えのある声が耳の奥で繰り返された。

お疲れさま。

毎朝、書庫に入る私へ向けて。帰る私を見送るように。

男の胸元には、古い名札が残っていた。裏面に、鉛筆で短く書かれている。

『開けてくれて、ありがとう』

その日から、地下書庫では声がしなくなった。

ただ、私が退勤して扉を閉めると、向こう側から金属板を叩く音が三回する。

先輩は、配管の音だと言う。

だから私は、毎回返事をしている。

「お疲れさまでした」

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はじめまして、よろしくお願いします。

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