
長編
宇宙からの侵略者
しもやん 2020年2月16日
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映画や陰謀論に出てくるエイリアンはたいていけばけばしいか、驚くほど人間に似ている。
進化論の素養があれば、よその星で生まれた異星人があんな外見にはならないだろうということくらいすぐにわかる。異星人はエリア51に秘匿されてなどいないし、性的ないたずらをするために人びとを片っぱしから誘拐してもいないだろう。
異星人は存在しないのだろうか?
いるかもしれない。それも定期的にこの地球に降下してさえいる可能性がある。
* * *
故フレッド・ホイル卿というイギリスの天文学者は、太陽の内部で起こっている核融合システムを解明したことで名高い。
太陽の内部では水素原子核(=陽子)が超高圧のもとででたらめに飛び交っており、それらがときおり正面衝突して融合してしまう。その際に莫大なエネルギーが放出され、それが光となって地球を照らしている。
周期律表を見ると、元素の陽子数が1増えるたびに名前が変わっているのに気づくだろう。1個の陽子は水素、2個はヘリウム、3個はリチウムである。核融合反応は最終的にもっとも安定な鉄元素にいたった時点で止まる。星はエネルギーを使いつくし、いままでため込んだ元素を宇宙空間へばらまく。超新星爆発である。
これら星の残骸が星間空間で重力によって徐々に寄り集まり、中心に密度の高い反応炉を形成する。やがて高温に達した中心部では水素が飛び交い始め、宇宙に燦然と輝く灯台――恒星ができあがる。以上が星のライフサイクルである。われわれの原材料はもとをただせば、何億年も前に新星と化した星の死骸なのである。
* * *
彗星は炭素と氷でできた、宇宙を放浪する雪玉である。
太陽系内をうろつく彗星はそのほとんどが、〈オールトの雲〉からやってきているというのが有力な説だ。
〈オールトの雲〉とは、太陽系の最外縁(太陽からおよそ40天文単位ほど離れた暗黒の宙域)を覆っているとされる、彗星の巣である。太陽系は無数の彗星に包囲されているわけだ。
彗星たちは40天文単位(=60億キロメートル)という気の遠くなるような距離にあるにもかかわらず、なお太陽の重力に捉われている。普段は外縁をごくゆっくりと回転しているのだが、わずかな重力の摂動によってごくたまに、〈オールトの雲〉の軌道から逸れてしまう。迷子になった彗星は双曲線軌道をとり、われわれの住む内惑星近辺にまで入り込んでくることもある。
地球創生期の冥王代、小惑星や彗星は一定の軌道に収まりきらず、そこらあたりを飛び交っていた。地球は隕石の猛爆撃にさらされた。ひっきりなしに降り注ぐ隕石は地球の大地を煮えたぎらせ、生命の萌芽をその都度摘み取った。地表は事実上存在せず、地球はマグマオーシャンと呼ばれる灼熱の海と化していたのだ。
爆撃はすさまじいの一言に尽きる。月が特大の隕石によって生じたのだといえば、そのすごさがわかってもらえるだろう。差し渡し数十キロメートルにも達する巨大な隕石が衝突した際、地球は三日月のように削り取られてしまった。その破片が再結集したのが現在の月である。
彗星や小惑星にはふんだんに有機物が乗っていた。
有機物とは炭素を骨格にしている分子の総称である。生物もすべてが有機物でできている。猛爆撃の際、彗星は地球に大量の有機物をまき散らしたのだといえよう。
* * *
フレッド・ホイル(と教え子のチャンドラ・ウィックラマシンゲ)はパンスペルミア仮説(胚種広布仮説)を提唱したことでも知られている。これは数多い生命の起源に関する仮説のひとつであり、彼らの主張は次の通りである。
生命は地球の原始スープで化学的に生まれたとする現行の主流派理論では、その確率があまりにも低すぎて信憑性に欠ける。生命の起源を地球に限定しなければならない理由はない。宇宙でも有機物がある場所なら事実上、すべてが原始スープと同様の条件だったはずである。したがって生命のもとは彗星に乗って地球に播種されたと考えられる――。
荒唐無稽のように思えるだろうが、彼らはデータを集めて一応証拠と呼べそうなものを提示してはいる。以下にいくつか挙げてみよう。
1、細菌の過剰な耐放射線防御性能
ある種の細菌は致死的な線量をはるかに超える放射線を浴びても耐えられる。これは強烈な宇宙線の飛び交う宇宙空間を移動するのに必須の能力といえる。またふつう、進化は余計な装飾品をくっつけたりはしない。地球環境がオゾン層のおかげで比較的おだやかな放射線にしかさらされていないのに、なぜ不必要な放射線防御性能を高めたのか? 宇宙空間を移動するためだったとすればつじつまは合う。
2、インフルエンザの流行時期について
風邪やインフルエンザなど、ウイルス性の病気は決まって冬に流行する。これは冬になると人びとが寄り集まりやすいという文化的な背景が原因だとされているが、ホイルは異なる仮説を提示する。しし座流星群はおおよそ11月ごろに地球近傍を通過する。それが太陽風を受けて尾をたなびかせ、すばらしい夜空のショーとなって展開する。しかし実はこれら彗星の船団がウイルスを乗せており、それらの一部が地球に到達しているのだという。
※余談であるが、聖書にも猛烈に光り輝く星がやってきたあと、病気が蔓延したという記述がある。彗星が最接近すると昼でもなお肉眼で見えるほどの光輝を放つ。ユダヤ民族のライトノベルに信憑性があるのかどうかは怪しいけれども、この記録が事実なら彗星がウイルスベクターであることの証左になるだろう。
定期的に発生する病原性の高いインフルエンザ(1910年代のスペインかぜ、1960年代の香港かぜなど)の発症パターンを見ると、何十年かごとにの規則性が見られる。大流行の前には決まってある彗星が地球近傍を通過している。また流行のパターンも変則的である。ある地域から順繰りに感染が広がるのではなく、アメリカ大陸で始まったと思ったら次はオセアニアというように、まるでヘリコプターによってスポット的に病原体が播種されたように見える。そしておそらく、本当に播種されたのであろう。
3、彗星の環境について
宇宙空間に飛び交う強烈な宇宙線は生命にとって致命的である。いっぽう彗星は外装を雪で防御しており、また内部には有機物の塊がふんだんに乗っているというのが一般的な構造である。放射線によって外装に穴が開き、致死的でない適度な放射線が内部に入って刺激を与えれば、単純なアミノ酸ならごく簡単に生成される。そこまでくれば銀河に散在する無限個に近い彗星のなかのひとつで、DNAかRNA(おそらく後者であろう)の前駆体ができるのは時間の問題だったはずだ。
* * *
もしパンスペルミア仮説に多少なりとも正当性があるとしたら、どうだろう。
大流行している新型コロナウイルスは中国の水鳥を扱う家禽市場が、おそらく震源地であると思われる(「R・カーソンの亡霊 ウイルス編」参照)。しかしもし、それらが彗星に乗ってやってきた宇宙からの侵略者だったとしたら。感染パターンを見ると突如として各大陸に飛び火しているように見える。さらにくしくも流行は冬である。新型であるのも当然だ。それはいままで宇宙空間に隠れ潜んでいたのだから。
われわれはミステリー・サークルをこしらえて着陸するUFOや、性的いたずらがお好きな変態宇宙人たちについて大まじめに議論する段階をそろそろ卒業すべきなのだろう。もっと差し迫った地球侵略がいま、起こっているかもしれないのだ。
各国は感染を防ぐための検疫体制を固めている。それでも感染は拡大するいっぽうだ。もし本当に天からウイルスが降ってきているのなら、国境ベースの防除など無意味である。フレッド・ホイルは主流派からコテンパンに批判され、それでも亡くなる直前までラマシンゲとともに精力的な研究を行っていた。彼らの研究を嘲笑した科学界の態度は称賛されるべきものではなかった。どんな仮説であれ、検証して確かめるのが科学ではなかったのか? もしパンスペルミア仮説が正しかったのなら、コロナウイルスの蔓延は科学的精神をないがしろにした主流派の怠慢ともいえるだろう。
40億年ほど前の冥王代、地球は彗星や小惑星の猛爆撃にされされた。そのとき銀河のどこかで生まれた生命のもとがパイロットとして乗っていたとしたら、そのDNAかRNAの断片がわれわれ地球生命のコモノート(最初の祖先)になった可能性もある。
地球で起きている病原体との絶えざる戦いは、実は異星人同士の宇宙戦争なのかもしれない。
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