
中編
本の蟲
匿名 5日前
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ドカバーで、タイトルは書かれてない。かなり古いのか、紙面は茶黄色く変色している。
先生は相方に手渡し、人差し指を立て、「どう?面白そうだよ?」と言った。
受け取った彼女は訝しがりながらも、嬉々として読み始める。
黙って静かに読みふけっている。おかげで私の作業ははかどったし、先生も静かに読書が出来た。
夕方になり作業も殆ど終わったので、「そろそろ帰るよ?」と聞くが返事が無い。
どれだけ集中してるんだろう。覗き込んで見ると、私は「ギョッ」とする。
彼女は延々と白紙のページを繰っていた。
ただ、まるでそこに文字が書いてるかのように、目線は白紙を追っている。
「せ、先生!?」
慌てて聞く。
「ああ、そろそろ良いか」と言うと、泉先生は彼女の前までやって来て、
目の前で「パンッ!」と猫だましをした。
彼女は我にかえる。
先生は本をひょいと取り上げると、「もう閉館だよ。帰りなさい」と言った。
相方が「まだ読み終わってないので、また来ます」と言うと、
「ああ、また来るのは構わないが君。図書館では静かにしなさい。
張り紙にも書いてあるだろう・・・どうしてかわかるかい?」
当たり前のことを聞く。
私「周りの人がビックリするからですか?」
「いや、それもあるけど、『本の蟲』がビックリして目を覚ますからだ」
後日、相方が続きを読むために図書館に行ったが、件の本は見つからなかったそうだ。
泉先生に聞くと、
「やだな。只の暗示だよ、暗示。『おもしろい本だよ~』ってサ」と、あっけらかんに答えた。
が、どうも腑に落ちなかった。
彼女が読んでいた白紙の本は何だったのか。
当の本人が、内容については話したがらなかったが、
「ウチが暗示なんか掛かるか!・・・アレは―――」
と、仕切りに悔しそうにしてたのが印象的でした。
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