
長編
ノックさん
嵐 2015年8月19日
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私は小さい頃から少し霊感があります。
始まりは保育園の年長の時、弟が産まれ、母と離れるのが嫌で産婦人科に泊まりに行った日の夜でした。
22時の消灯後、子どもの笑い声と、廊下を走る音が聞こえました。
1人ではなく、何人か…。
母に言うと「怖いからやめて」と怒られました。
それからも、本当は見えない人を見たり、音や、声を聞いたり…。
修学旅行だって、小(広島)中(長崎)高(沖縄)私には見えない人を見にいく旅行のようなものです。
社会人になってからも会社で見ることがあると、怖くなってやめてしまいます。
それとこれは別!と割りきれない自分が悪いのですが…。
そんな私に母は
「いつまでも無責任に転職繰り返すなら家を出て、自分の力で生きていって」と。
当時転職を繰り返しながら、生活費は母に渡していたので貯金もなく、求人に住込OKのパチンコ店に面接に行きました。
面接はあっさりとOKで、店舗と寮の案内もしてもらいました。
店舗横の外階段を上がるとすぐ左手に社員食堂。まっすぐに続く廊下には、左右に扉があり、それぞれワンルームになって居ました。
キッチン、トイレ、バス。8畳のフローリング、各部屋と店舗に繋がる電話がありました。部屋はとっても綺麗でした。
ただ、廊下の奥は共同のランドリーになって、暗く歪んだような雰囲気がして気持ちが悪いなぁと思いました。
でも、貯金もしたいし、家賃、水道光熱費、食費無料にひかれ、翌日には寮に引っ越しました。
私の部屋は食堂前でした。少しホッとしました。
近所にコインランドリーがあるので洗濯はお金を使えばいいじゃんって!
引っ越しの翌日、9時~17時半、翌週から17時~1時の勤務で、社員さんやバイトの方とも仲良くなれてとても楽しかったです。
入社して1ヶ月の頃、歓迎会がありみんなと楽しく飲んで居るとき、マネージャー(店長の次に偉い人)に「ところで○○の部屋にはノックさん来た?」と聞かれ
何のことかと首をかしげていると、社員の1人が「ノックさんが来たのは2ヶ月ほど前ですよ、最近は来ないですね。新人怖がらせたらダメですよ」
私は、あっヤバイ!聞きたくない話しでしょ!って思ったんですが、寮にいる社員や上司が「ノックさん」の話しで盛り上がります。
バイトの人も「ヤバイ!怖いよ」とか言い出し、私は辞めても帰る家もないしと結構落ち込みました。
皆の話しでは「ノックさん」は奥のランドリーから、夜勤上がりの人の部屋を次々にコンコンとノックするそうです。
そして開けても誰も居ない。姿を見た人がいないそうです。
バイトの一番明るい性格の人が「正確に言うと見えてないでしょう?社員さん鈍感で霊感ないでしょ」とふざけます。
歓迎会は「ノックさん」の話で終わりました。
解散後、寮に戻って食堂で社員同士で話をしてるとマネージャーが「ノックさんが来たら各部屋に内線でお知らせします」と笑ってました。
歓迎会から何日たったでしょう。「ノックさん」の話しも忘れ、夜勤上がりの食堂で新台の話で盛り上がる中、疲れていたので先に部屋に戻りました。
「コンコン」
シャワーを浴びようと服を脱いだ時でした。
「はぁい」と返事をしても、聞こえるのは食堂から社員さんたちの新台の話し声だけ。
「コンコン」
またノック。これはからかわれているんだと思って服を着て戸を開けましたが、誰も近くにいません。
食堂から「○○どうしたぁ?忘れ物?」と呑気に声を掛けられて、ちょっとイラっして「からかわないで下さい」と言うと、
社員さんたちが不思議そうに「何、何が?」と聞き返すので、余計に腹が立ち。
「ノックしたでしょう!怖いからやめて下さいね」と怒って言うと、食堂は一瞬静かになり、マネージャーが
「久しぶりじゃん!しかも○○狙いじゃん!」
社員の1人が「まぁ、夜勤上がりは皆食堂にいますから」
なんて笑います。
とりあえず、食堂に座り、また「ノックさん」の話になりました。
私は皆の声や話しが頭に入らないぐらい焦ってました。
いつも見えるのに見えないなんて…。
今までは、見ても大抵あぁまたかと、やり過ごす。
追いかけられたら逃げる。ついて来たら「私にはどうすることもできません」と呟きながらコンビニやファミレスなど、人の多い場所に立ち寄り、諦めてもらうようにしてきました。
見えない=対処出来ない
その日は夜が明けるまでファミレスで過ごし、部屋に戻りました。
今日も夜勤の出勤です。引き継ぎで皆から
「ノックさん出たね」と言われました。
マネージャーが朝礼で話したそうです。
夜勤上がり、憂鬱な気分で食堂に居ると、社員さんたちが、今日はもう一斉に部屋に入ろう。イタズラノックと思うと戸を開けるからね。ノックは無視と言う話になり、皆で部屋に入りました。
シャワーも済ませて寝ようとしたとき。
「コンコン」
色々考え過ぎて怖いので、隣の部屋の社員さんに内線をかけました。
社員さん
「どうしたの?」
私
「ノックありましたか?」
社員さん
「ないよ」
私
「ノックされたんです」
社員さん
「かけ直すから待ってて」
♪~
私
「すいません。寝る前に」
社員さん
「いいよ。いいよ。他の夜勤メンバーに電話したけどノックないって。本当にノックあった?」
私
「はい…」
「コンコン」
私
「聞こえました?」
社員さん
「ヤバイ。聞こえた。確かに○○の部屋だよね。何で?○○部屋だけなんだろう?」
私
「奥から順番とか言ってましたよね?何でですか?」
社員さん
「鍵してるよね?」
私
「はい」
社員さん
「とりあえず、怖いじゃん。なんかさぁ明るい楽しい話しをしようよ」
と暫く15分ほど、趣味や好きな曲などの話をしていると
…「コンコン」
私
「違う部屋ですか?ノック」
社員さん
「…俺の部屋だわ」
私
「手前から奥に変更とかですか?」
…「コンコン」
私
「先輩大丈夫ですか?」
社員さん
「…チェーンロック…動いてる…」
私
「先輩?もしもし…先輩?」
ガタガタ…ガシャ…
受話器落としたよね?と思うと同時に一瞬でいっぱい考えました。
助けに部屋を出るか?
このまま様子をみるか?
隣の鍵が開けられていたら廊下でひとりにならない?
隣の鍵が開けられていなかったら廊下でひとり?
助けに出てくると思って、これは奴は罠?
助けに行かないと気まずくなる?
「うわあああああああああああああぁっ」
隣から先輩の声で私は部屋を出ました。
扉は開き部屋の奥で先輩はうずくまって震えています。
先輩の姿以外何も見えないのです。
叫び声に驚いた他の社員さん、マネージャーが廊下に出てきました。
皆で震える先輩を抱えて食堂に座ったとき、廊下の照明が
バチっバチっと音をたてて点滅、廊下中央の照明がバーンと割れました。
皆凍ったように動くことができませんでした。
はじめに話し出したのは先輩でした。
「キーロックもチェーンロックも開けられた…何も見えなかったんだよ。でもドンって突き飛ばされたんだ。すっげー力で…」
私はマネージャーや他の社員さんに事情を話しました。
いつも茶化してくるマネージャーは強張った顔で割れた照明を掃除してくれました。
勿論皆、夜が明けるまで食堂にいました。
先輩はその日に姿を消してしまいました。
逆だったら私もその日の内に飛んでると思います。
それからすぐ、しぶしぶ店長がお祓いを了承してくれて、お客さんが少ない時間帯に
お婆さんが店長と寮に来ました。
お婆さんは静かに廊下の奥のランドリーの前に立ち祈るように手を合わせて何かをしてました。
私たち社員は食堂に居たのであまり詳しくはわからないのですが、店長と何かを話したりして一時間ほどで帰られました。
店長が食堂にきて大きなため息をつき、話してくれました。
「リニューアル前だから、15年くらい前かなぁ。まだ俺がマネージャーになりたてのとき、毎日くるちょっと精神が病んでるよねって感じの
30代後半くらいの女の人がいてさぁ。もうお金がない。勝たしてよって時々狂ったみたいに掴みかかってくるから、出入り禁止にしたんだよ。
それから時々、駐車場をうろうろしたりガラスに顔つけて中を見たり気持ちが悪くて、もう敷地に入れないようにガードマンにも注意するよう指導してさ。
暫く姿を見ないしホッとしてたとき、朝方、社員寮の階段で首吊り自殺してたんだよ。
リニューアル前はランドリーの方に階段があったんだ。」
「ノックさん」はその女性だったそうです。
お祓い後ノックはなくなりましたが、店長がランドリーに花など、お供えをするようになり、気持ちの悪さは変わらなかったです。半年後、新店舗へ人事異動があって寮を出ました。
皆さんは見えないか、見えるか、どちらが怖いですか?
私は見えない方が怖いと感じました。
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