
中編
東北のホテルにて
なら 21時間前
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としている動けない自分と、ユニットバスから這い出してゆっくりと近づいてくる、髪の長い女だった。
相変わらずジョキッ、ジョキッという音と共に、女のすすり泣くようなウッ、ウッ、という声が続いていた。気が付くと、いつの間にか自分の体に戻り、天井が見えた。しかし、なぜか女が這い寄り近づいてくるのはわかった。なんとかしなければ命に関わると感じていた。
体は動かなかったが、全身の気を一気に出して爆発させるつもりで(厨二病ではないが、孫悟空がスーパーサイヤ人になる時、と言えばイメージとして理解してもらえるだろうか)全身の力と、気と、体中の何もかもを放出しようとすると、声が出るようになったと同時に、体を縛っていた縄が解けたように体が動くようになった。
ベッドから飛び起き、それに対峙しようとしたが、そこには何もいなかった。髪の毛を切るような音も聞こえなくなっていた。
体は全身びっしょりと冷たい汗をかいていた。体中の毛が未だ逆立っている感じがした。体が震えていた。
証拠が何かあったわけではないが、絶対に夢ではないという確証があった。すぐに部屋中の電気を点けた。もちろん、部屋には自分以外誰もいなかった。思い切ってユニットバスの扉を開けた。そこにはバスタブと、便器、洗面器があるだけだった・・・。
テレビを点けて、朝までそのまま起きていた。とても眠る気にはなれなかった。汗だくになっていて寒かったが、絶対にユニットバスには入りたくなかった。着替え、明るくなるまで電気を点けっぱなしにし、明るくなったらすぐにカーテンを開けた。
朝食を食べに行ったが、食欲はなかった。納豆は賞味期限切れではないかと思うような代物だった。大豆の間に死んだ納豆菌が小さな粒になってたくさん付着していた。
チェックアウトの時、それとなくフロントで探りを入れてみたが、別にあの部屋で不審な現象が続いているという反応はなかった。
寝不足のままレンタカーに乗り、その日の目的地に向けて出発した。
震災後、再びそこを訪れる機会があったが、ホテルはなくなり、全く違う建物に変わっていた。
後日談:
- 震災後、再びその町を訪れる機会があり、そのホテルを探して行ってみたが、そのホテルは建屋自体がなくなっていた。津波で流されたわけではなく、経営不振からか、営業を辞めたようである。まあ、あんな朝食を出すようでは経営状態は良いわけはなく、客も来なくなって当然だろうと思う。怪奇現象があるからかどうかはわからない。 あのホテルに幽霊が出る噂はあったのかとネットで調べてみたが、見つけることは出来なかった。
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- きみが泊まるホテルに着く前に、どこかから拾ってきた(連れてきた)のかもね。夢幻
- ほんとなら怖い体験ですねまい
- めちゃくちゃ怖い体験、なんだか寒くなってきた!匿名